天才は盲目になりがち
時は少しだけ遡り、梵の登校中。
高校一年生“水篠 梵”。
俺は自分で言ってはなんだが平凡な高校生ではない。
世界の注目を集めるe-Sportsの中でも一番の人気を誇る『Bombardeo Flash Carnaval』をリリース当初からプレイしてきた。10歳の頃から6年間という青春を捧げた成果は名声という形で現れた。梵は「天才スナイパー」の名を欲しいままにし、昨日まで海外遠征で年末年始を忙しく過ごすなど実績も十分。プロゲーマーになるのも時間の問題とまで言われている。
だが、梵は飽きていた。
同世代には競う相手はおらず、プロの連携には今のアマチュアチームでは勝てない・・・。そんなジレンマが彼に飽きという感情を抱かせた。
しかし、去年の夏ごろ梵はあるニュースを目撃した。
【仙ヶ谷高校 月城八都寧 1年で剣道インターハイを制す。】
同い年が既に年上を抑え優勝している…。
天才は天才に興味を持った。
彼女となら日本・・・いや世界の頂点を目指せるのではないか。飽きかけていた気持ちはワクワクへと変わった。
すぐに地元のアマチュアチームを辞め、アマチュアで稼いだ金を使い仙ヶ谷高校への転校・一人暮らしを決めた。事前に召集されていた海外遠征を終えて、ようやく今日梵は仙ヶ谷高校にやってきた。
登校してすぐに梵は月城八都寧を探すべく校門近くのベンチで行き交う生徒を眺めていた……が見当たらない。
時間ギリギリまで粘ったのだが、登校時間の終わりを告げる鐘が鳴り、梵は八都寧探しを諦めて立ち上がろうとしたその時・・・・・!!
さも当たり前かのように軽々と校門を飛び越える男を目撃した。
仙ヶ谷高校では日常になりつつある颯の目を引く遅刻劇も、初見の梵には驚愕の動きだった。圧巻され、言葉を失う。
梵の頭は目の前の見知らぬ男の動きを見て、その動きが“BFカルナバル”で活きる可能性が十分にあると試算する。
「あいつは面白い。是非とも新天地の仲間として誘ってみるか…!」
月城八都寧と校門を飛び越えた男・・・授業後に二人のクラスを探して声をかける……この高校で最初にやるべき事だ。
キーンコーンカーンコーン♪
授業など退屈な時間でしかない。そもそも既に収入を得ている梵は勉強に熱心ではない。新しい学校でも適当に過ごすのだろう。
梵は自分のクラスに案内され、適当に挨拶をし、休み時間にでも情報収集をしようと考えながらゆっくりと自分の席に向かう。
着席すると横の席の女子から話しかけられる。
「水篠?くん、これからよろしく。私の名前は月城!これから仲良くしてね。」
学校生活など、勉強など、梵は興味が無かった。だから新しいクラスを紹介されても特に人の顔も見ず淡々と通過儀礼をこなしたが、失念していた…。探し人はクラス内にいた。
「君…もしかして月城八都寧??」
「え、そうだけど……。」
「昼休みに屋上来てくれない?話があるんだけど。」
「「「「「「え゛っっっつ!」」」」」」
◇ ◇ ◇ ◇
転校生が塩顔イケメンだった。
そのイケメンがノータイムで月城さんを屋上に呼び出した。
颯を含めたクラス全員が突然の事態に口が塞がらなかった。次第に女子は羨望の眼差しを向け、男子からは嫉妬の眼差しが向けられた。月城さんも困惑顔だ。
「え、あの・・・。私どこかで君に会ったっけ??」
「今日東京から引っ越してきたばかりだから会った事ないんじゃない?」
じゃあなんで呼び出したんだっ!クラス中が心の中でツッコむ。
担任が落ち着かせれないほどに教室中が騒めくが、当の本人は眠たげな顔であくびをしている。
「あ、そうだ。」
今の状況の元凶が口を開いたことで、クラスの視線は再度彼に集まる。注目を集めた梵は颯を指さした。
「そこのお前も一緒に来い。」
謎のイケメン転校生が月城さんと颯を呼び出した・・・このニュースは瞬く間に学校中に広まった。教室移動中には様々な目線が颯を襲う。絶対変な噂が広まってるよ・・・颯は首を垂れるが、月城さんも同様に場が悪そうにしている。
「なんで私達呼び出されたと思う?」
「本当に心当たりがない・・・。今日初めて会ったしな…。」
「南条君が何かしたんじゃない?私を巻き込まないでよねー。」
「いや、絶対違うって。」
2人は居心地の悪い午前中を送り、ついにやってきた昼休み。颯と八都寧は一緒に屋上に向かい、屋上への引き戸を開ける
転校生“水篠 梵”は屋上の旧給水塔の中腹に腰掛け2人を見下ろす。
「二人とも、よく来てくれた。月城八都寧と……お前の名前なんだっけ?」
「名前も知らずに呼び出したのかよ!南条 颯だ。」
「それで・・・なんで私達を呼び出したの?」
梵は給水塔から飛び降り、二人に問いかける。
「『Bombardeo Flash Carnaval』って知ってるか?」
「な、名前ぐらいは・・・。最近流行りのゲームよね?」
「BFカルナバルってやつだろ?」
さも重要な話らしく呼び出しといてゲームの話とはどうゆうことだ?颯の脳内には疑問符だらけだ。
梵は息を吸い込み、手を広げ、始めて見せる笑みを浮かべる。
『南条 颯! 月城 八都寧!! 俺と世界に喧嘩を売らないか?』
は?
なんだこいつーーー!
次回からちゃんと文字数増えます。