僕は凡人
新メンバーTeLeSの物語。
僕の名前は日比野 晶。
個人だけを切り取ればごく普通の高校2年生だ。
だけど僕の家族は普通じゃない。
父はこの街で1番の大企業、日比野工業の社長。僕は子供の頃から何一つ不自由なく育ってきた。所謂お坊ちゃんだ。
でも僕は周りの人から見れば不自由な人間だった。門限、コンビニの禁止、夜更かし厳禁、ゲーム禁止…。自分が普通ではないと知った後も我慢する事ができた、あの日までは。
2年前の冬、僕は見てしまった。
BFカルナバルのワールドカップ…、日の丸を背負い戦う勇姿を、熱狂する人々を。
退屈な灰色の世界で、唯一テレビに映るその熱狂だけが虹色に見えた。僕はBFカルナバルをやりたい。人生で初めて芽生えたワガママだった。
厳格な父親が許すわけがない。だから僕は内緒でeスポーツ部に入った。格闘ゲーム中心の部活だったのだが同級生の女の子が協力してくれて大会に出れるまで環境を整えてくれた。僕1人では出来なかった、この女の子…二戸部長には頭が上がらない。
一年生の冬、そこそこの結果で終えたNF杯。負けた瞬間は人生で最も悔しく、涙が出るほどだった。ただ過ぎていくだけだった日々がこれ程に感情の溢れる日々になるなんて過去の自分は想像できないだろう。
そして、リベンジを誓い1年間頑張ってきた。そんな折、生意気な後輩が出場権を寄越せとやってきた。ふざけるな、苛立ちながら部室で待っていると晶がよく知る顔が現れた。
横から見ていたら自分の目はまん丸になっていただろう。それほど驚いていた。
シャランガだ!
数週間前、食いつく様に見ていたU-17世界大会で憧れるほどの活躍をしていた男…シャランガが目の前にいた。
動揺は隠せたか否かは分からないが、彼は今のところ敵。敵に憧れの気持ちを抱くなど言語道断だ。気持ちを切り替え戦いを挑んだ。
だが勝てる訳はなかった。1年間頑張ってきたけど、彼にだったら気持ちよく出場権を譲れる。複雑な感情のまま目標の大会を失って落ち込んでいる所に部長が気を利かせてくれた。
「TeLeSくんも出場させて欲しい。」
ニトは彼の気持ちを知っていた。それ故に彼を推薦してくれたのだ。ありがとう…純粋な感謝を心の中で唱える。
そして憧れの男から言われた言葉…
「是非頼む。」
夢見心地だった。こんな幸せ、僕が感じていいのだろうか。感無量な気持ちを必死に抑えながら会話をしていく。
キッカケを作ってくれた部長には恩返しの気持ちで彼女の恋を後押しした。こっから先の恋路には関われないけど頑張ってほしい。
そして次の日も憧れた男と作戦会議をしている。
僕は幸せ者だ。
僕はTeLeS、普通の凡人。
だけど、天才の彼を精一杯支えたいと思う。