人を呪わば
数時間後…
すっかり夜が更けたミラールのとある小さな寺院の境内をワインの瓶を右手で握りしめた千鳥足のテラゾーの姿があった…
彼は時々、ワインボトルを口に付けてラッパのように高々と宙に向けながら大鳥居をくぐり、手水舎にも見向きもせずに拝殿の方に向かって躊躇なくずけずけと歩いて行く…
そして拝殿の階段を土足で駆け上がり木製の彫刻が為された引き戸を左右に力一杯開けた…
バアァァァァァァァァン!!
「おい!!いるんだろう…ヒック…!!
また力を貸してくれよ!!…ウィ〜…」
テラゾーは床にワインの瓶を置いて上着の内ポケットから分厚い封筒を取り出した。そしてその封筒を自分の頭上に掲げた…
「ほら…礼ならキチンとするから…
俺は大切な人を取り戻したいだけなんだよ…
ヒック!!」
テラゾーの呼び掛けが部屋中に響くとまた直ぐに暗闇の静寂に包まれる…
「…ダンナ…あんまり深い所まで突っ込み過ぎると
後戻りが利かなくなっちまいますぜ…」
囁き声のような嗄れ声の方に向き直るテラゾー…
「分かってるさ…でも…俺にはもう…これしか…
うっ…ううっ…」
酒が回っているのか…感情が露わになった彼の目には涙が溢れ出している…
その様子を見ていた白装束の…やつれて目が窪んだ
深い皺を顔に刻んだ中年男は一つ溜息を吐いてからテラゾーに改めて声を掛ける…
「…分かりましたよ…ダンナ…
アッシは別に他人の行いに口を挟むつもりは無いんですがね…
祈祷師の国…ミラール…
アッシの家系はずっとこの国の影の部分を担ってきました…
ダンナ…祈祷ってね、正道って言うか…
神に仕える者として人々の願いを捧げてお願いする…
それに比べてアッシの呪術は…
アッシの先祖が源流を海の向こうの国から学んでミラールの技術と融合させた…邪道の技…」
…ゴクリ!!
テラゾーは男のおどろおどろしい口調に大きく息を飲んだ。
「ダンナ…『人を呪わば穴二つ』って言葉…
ご存知ですかい?」
「あ、ああ…誰かを呪い殺すなら…
呪い殺したいソイツの墓穴と…
厄神に代償として自分の命を捧げなければならない…
つまり自分の墓穴も掘らなければいけない…
そう言うことだろう…?」
「さすがダンナ…その通りでさぁ〜!!
で…宜しいんですね…」
一瞬ふざけて見せた男の念押しの厳しい表情に
テラゾーは酩酊しながらも覚悟を決めた…
「ああ…構わない…
どんな仕事に就いても…何の取り柄も無かった俺に…幼い頃からあの人は…温かさを…愛情をくれたんだ…
あの人のためなら…」




