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白銀の蒼華姫  作者: 菅野 かおり
第1章 蒼華姫
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5.出会い

 今日ここへ来るのは何度目か。

 リリーナはアルヴァートの部屋の扉をノックした。


「団長、リリーナです」


「入れ」


「失礼します」


 部屋に入ると、アルヴァートは机に書類を広げ、羽根ペンを走らせていた。その手を休めるとリリーナを見上げる。


「明日の姫君のご予定が変更となりましたので、ご報告に参りました。日中、城下街の視察の許可が出ております」


「お忍びか」


「はい、騒動を起こさぬように、との仰せです。大公殿下は城下西側の庭園の花を勧めておられます」


 アルヴァートは少し考えると、わかったと呟いた。


「明日は俺が同行する。その方が自然だろう」


「よろしくお願いします。1つ団長にお願いがございます」


「なんだ?」


「姫君に髪飾りをご用意しますので、明日、御髪に飾ってはいただけないでしょうか」


「……」


 アルヴァートはため息をつくとリリーナを見つめた。


「何を企んでいる……?」


「企んでなどいません!姫君のお元気がないので、晴れやかなお気持ちになっていただきたいだけです」


「……なるほど」


 不機嫌そうに呟いて、アルヴァートは立ち上がった。黙ってリリーナに近づくと両腕を組んで見下ろす。


「飾るのはどのあたりだ」


「髪型にもよりますが、この辺りかと」


 左耳の上あたりをリリーナが手で押さえると、アルヴァートがリリーナの髪に触れた。


「わかった」


 やれやれとため息をついている。


「他に用件は?」


「以上です」


「お前、トォーリィはどうした?」


「姫君の護衛を頼んでいるため部屋でお留守番です」


 それが何か?とリリーナは首を傾げる。


「無防備な奴だな。襲われたらどうするんだ」


「誰に?」


 アルヴァートが何を言っているのか、意味がわからない。

 リリーナは鎧姿で帯刀している。襲撃があろうと排除するのみ。未だ職務中だ。そう、まだ休息すらできていないのだ。


「まだお風呂にも入れてないんですよ。ここは意外と遠いし」


 急に怒りがわいてきたリリーナはアルヴァートに八つ当たりを始めた。


「わかったから、落ち着け。部屋まで送る」


「なぜ?」


「遠いんだろ?」


「大丈夫です。仕事を続けてください。失礼します」


 リリーナは敬礼をするとアルヴァートの部屋から退出した。誰に襲われるというのだ、一番やっかいなのはアルヴァート本人だ。


 リリーナは姫君の客間への道を急ぐ。


(団長としては尊敬するけれど)


 アルヴァートはかなり有能で、騎士団としての職務を堅実に遂行する。

 冷静に判断し、的確な指示を与える。剣技や体術の能力も高く、魔術も使えるし、その強さは一歩間違えると魔王級の危険人物だ。本気で戦えば、戦場の地形を簡単に変えてしまいそうだし、氷雪系統のため、天候すらも変えそうだ。


(絶対に敵に回しちゃダメな人だわ)


 リリーナが騎士見習いが通う養成学校に入学した時、彼は卒業学年であり、入団試験を免除された特別枠に在籍していた。もうすでに圧倒的実力者だった。


(出会いは最悪だったけれど……)



 ***



 女性で騎士を目指す者がいない時代、リリーナは入校初日から難癖をつける輩に絡まれた。

 どこにでも阿呆がいるということか。

 リリーナは片手で投げ飛ばし、返り討ちにする。壁にめり込んで気を失った間抜け面に怒りが収まらず、続けて火球を数発お見舞いしてやろうと左手に力を込めた時、


「やめておけ」


 不意に後ろから腕を伸ばされ、抱き寄せられた。左手を包むように絡められ、右腕は腰に回された。



 ***



(んんんん?今も昔も変わっていないのでは!?)


 リリーナは今更なことに気付く。

 アルヴァートの距離が初対面の時から近い。近すぎる!


 アルヴァートはリリーナをそのまま横抱きに抱えたまま入校式の会場に連行し、席につかせると、在校生代表として、シレッと壇上から挨拶をした。

 体格と身長差があり過ぎて簡単に運ばれてしまったこともそうだが、注目を浴び過ぎて、とても恥ずかしかった。

 ただ、あの後から1度も絡まれることがなかったので、そこだけは感謝している。


 アルヴァートに言わせれば背中ががら空きだから、と言われたが、気配を感じさせず近付くことが出来るのは彼だけだ。


(まさか、今もどこかに!?)


 アルヴァートは部屋まで送ると言った。慌てて後ろを振り返るが誰もいない。ふわりと花の香りがするだけだ。


 リリーナは姫君の部屋にご挨拶をした後、トォーリィを連れて自室に下がった。浄化魔法を使えるけれど、お風呂があるなら入りたい。


 施錠をして、ひと息つく。

 バルコニーの扉が開いていたので閉めると、リリーナは膝を付いてトォーリィの頭を撫でた。


「お疲れさま、トォーリィ。ありがとう」


 養成学校時代を思い出した事で、少し懐かしい気持ちになった。トォーリィと出会ったのもその頃だ。あれからずっと一緒にいてくれる。


「大好きよ、トォーリィ」


 リリーナはトォーリィの首に腕を廻して抱き締めた。

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