表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の蒼華姫  作者: 菅野 かおり
第1章 蒼華姫
4/74

4.不安

 リリーナは階段を昇り、姫君のお部屋として用意されている客間へ向かった。

 何だか面白くないのは、自分だけが任務中だからだろうか。


 子供じみていると、自分でも思う。

 でも、モヤモヤとした気分が晴れない。


 リリーナは姫君の客間の扉の前で足をとめると、気を引き締めて、扉を叩いた。

 入室の許可が出て、扉が開かれる。


「リリーナさん」


 今にも泣きそうな姫君がリリーナを迎えた。


「姫君、どうされましたか」


「私、とても不安なのです。何一つ、うまくできません」


「そんなことはございません。大公殿下へのご挨拶はご立派でございました」


「そうでしょうか」


 姫君は小さく震える。


「大公殿下より晩餐に招かれております。失礼な思いをさせそうで、怖くてとてもご一緒できません」


「私がお側に控えております。ご安心ください」


 リリーナは姫君を見つめ、微笑んだ。

 いろいろ思うところはあるが、職務のため空腹には耐えよう。


「さあ、涙を拭いてください。お支度を」


 リリーナは侍女に目で合図を送る。

 姫君を預け、姫君の支度ができるまで、部屋の周囲を見回ることにした。

 自分に与えられた部屋に入れば、食事が用意されており、リリーナはホッとした。今のうちにと、急いで食事をとる。

 その後、バルコニーに出ると、第1騎士団が滞在している西棟の明かりが見えた。揺らめく窓の明かりに、また不満が募る。


(ここから見えるんだ……)


 皆、今頃、楽しくやっているのだろうか。不意にアルヴァートのささやきを思い出す。


(私は抱き枕じゃないのよ。失礼しちゃうわ)


 無性に腹が立った。これは八つ当たりかもしれない。

 リリーナが姫君の部屋に戻ると、支度を終えた姫君が椅子に腰掛け、案内を待っていた。

 姫君の部屋に大公殿下の執事が迎えに訪れる。

 リリーナが姫君に続いて部屋を出ると、警護のため、扉の両側に団員が2人立っていた。


「カルバイン副団長、お疲れさまです」


「お疲れさま。よろしくね」


 敬礼を返し、リリーナは微笑む。


(団長もひどいよね、今夜ぐらい休ませてあげればいいのに)


 実は熱烈志願者による争奪戦であることをリリーナは知らない。団長の殺気と冷気を感じることなく、リリーナの瞳に写り、声をかけてもらえ、微笑みをいただける任務なのだ。ぶっちゃけ姫君よりも副団長のお側に居たい。


(さて……姫君のこの自信のなさはどうしたものか……)


 ヒロインはこんなに不安を抱えている姫君だったろうか。姫君らしくはないけれど、もう少し元気な前向きな性格だったと思う。


(私にできることでお助けしなければ)


 リリーナは姫君の様子を伺う。


(団長との接点が少なくなりつつあるのは私の存在よね)


 姫君付きの任務は本来、団長だったと思う。


(何とか接点を作るには……お忍びデート?)


 好感度を上げるにはこれしかない。


(姫君を私の手で可愛く着飾って魅力値を上げれば、団長もドキドキしちゃうわ!)


 装飾品加工スキルは伝説の職人レベルの腕前を持つリリーナだ。材料さえあればどんなものでも作れる。


(どんなデザインにしようかしら)


 前を歩く姫君を見つめながら、リリーナはデザインを考え始めた。



 ***



 晩餐は静かに進んでいく。運ばれる料理を見ながら、リリーナは目立たないようにサポートした。


「明日は前夜祭として夜会を開く。姫君にも是非、出席願いたい」


「……はい」


「我が民も街も、姫君の来訪に喜び、華やいでおります。明日の昼間には音楽祭も開かれますぞ」


「……はい」


 リリーナはハラハラする。姫君の話術は中学生レベルだ。いや、小学生か。

 大公殿下は退屈している。


「僭越ながら、大公殿下。発言をお許しいただけますか」


 リリーナは騎士の礼をとり、ローレン大公殿下に頭を下げた。


「許そう」


「ありがたきお言葉。私は第1騎士団アルヴァート・デイン配下、リリーナ・カルバインと申します。今回、皇帝陛下より姫君付きの任務を拝命し、同行いたしました。先程のお話、大変興味深く伺いました。僭越ながら、明日、姫君の城下街の視察の許可を願い出ます」


「ふむ、我が民と街は私の誇りだ。許そう。騒動にならぬよう配慮せよ」


「かしこまりました」


「この時期、我が城より西にある庭園の花が見事だ。そこも是非ご覧いただきたい」


「仰せのとおりに。音楽祭についてお伺いしてもよろしいでしょうか」


「ふむ、今回、友好都市デルフィーノより紹介があり、何やら聞く者の意識を飛ばす音を奏でる楽隊を招いておる」


「聞く者の意識を飛ばす音とは興味深い。女神が現れ、聞く者を天界へと誘う神の調べでしょうか」


 ローレン大公殿下は愉快そうに笑った。


「それなら良いがの。わしは轟音響く大地の怒りと雷雨の激音とみておる。楽しみじゃ」


 とんでもない音楽祭だ。


「姫君をお連れする時は注意しなさい」


「かしこまりました」


 ローレン大公殿下は上機嫌だ。

 リリーナはホッとした。明日の姫君の外出許可も得たし、この場の雰囲気も何とか持ち直した。大公殿下が軍人肌で騎士団好きなのが幸いした。この晩餐が終わったら、明日の予定変更を騎士団へ伝えるため西棟へ向かおう。


 晩餐を終えた姫君をお部屋にお連れすると、部屋からトォーリィが尾を振って現れた。姫君にはトォーリィの姿は視えていないのか素通りする。


「姫君、明日はうんとおしゃれしましょう」


 リリーナはしょんぼりしている姫君に声をかける。椅子に腰掛けると侍女たちが支度を始めた。


「毎日ドレス姿はお疲れでしょう。明日は城下を視察します。お忍びなので、ふんわりワンピースです」


 リリーナはにこやかに微笑む。


「姫君、この祭りは娘たちが一度は憧れるお祭りなんですよ」


「憧れ……?」


「ええ、想いを寄せる殿方から花飾りをもらい、その手で髪に飾っていただくと、その恋は成就すると言われておりますわ」


「まあ」


 姫君の頬が染まる。侍女たちも暖かく見守っている。


「姫君、私は明日のご予定の変更を騎士団に伝えるため退出します。扉には警護の者が控えておりますゆえ、何かあればお申し付けください」


「わかりました」


 トォーリィには、自分が戻るまでのお留守番を頼む。

 リリーナは姫君の扉を閉めると、警護の者に声をかけた。


「団長へ明日の姫君の予定変更を伝えたいのですが、頼めますか」


 よく考えたら自分がいくことはないのだ。


「団長には持ち場を決して離れぬよう、命じられております」


(ええー)


「わかりました。私が戻るまで姫君の護衛を頼みます」


 リリーナは諦めて再び西棟へ向かうことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ