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白銀の蒼華姫  作者: 菅野 かおり
第1章 蒼華姫
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3.試練

 ローレン大公領には予定より2刻ほど遅れて入り、日が暮れる前には大公邸であるリュド・ヴァレン城に着いた。


 ローレン大公殿下は先々代の皇帝陛下の弟君だ。


 先に早馬を出しておいたことで、到着が遅れたにも関わらず、大きな混乱はなかった。

 謁見の間で、姫君がご挨拶されるのをリリーナはハラハラと見守る。

 ローレン大公殿下はマナーに厳しいお方だと噂に聞いている。姫君は勉強中であり、決して完璧ではない。淑女の礼も何回練習させられていたことか。

 何とかギリギリ及第点が採れそうな所作で乗り切り、リリーナはホッとした。


「姫君の護衛として参りました第1騎士団団長アルヴァート・デインと申します」


 アルヴァートが騎士の礼をするのにあわせて、残りの団員も揃って敬礼する。


「さすが第1騎士団。道中お疲れのことだろう。姫君の護衛、大義であった」


「ハッ」


「西棟を使うが良い。滞在を許す」


「ありがたきお言葉。謹んでお受けします」


 ローレン大公は満足げに騎士団を見る。若かりし頃、先の対戦で兵を率いて勇敢に戦ったという逸話があるお方だ。統制のとれた騎士団は思うところがあるのだろう。うんうんと頷いている。


 退出を願い出た後、騎士団は宿舎として割り当てられた西棟に移動した。

 部屋数を確認し、アルヴァートは団員を割り振る。

 割り振られた団員は団長に一礼し、自分の部屋へと移動した。

 最後にリリーナが残る。


「リリーナ。お前は姫君の繋ぎの間だ」


(ええー)


 姫君付きの任務があるから当然といえば当然だが、何だろう。何か納得ができなくて、すぐに答えられない。


「なんだ」


 アルヴァートがやれやれとため息をついて、剣をテーブルに置く。マントの留め具を外すと無造作に椅子の背に投げかけた。


「まあいい。俺の隣で寝るか?」


「お断りします」


 リリーナは回れ右をしてアルヴァートの部屋から出た。来た道を戻りながら、リリーナは明日の予定と集合時間を聞いていなかったことに気付く。


(一人だけ場所が違うのはこういうところが不便よねぇ)


 リリーナは仕方なくアルヴァートの部屋へ向かった。

 足元を狼の姿のトォーリィが擦り寄り、また戻るの?という表情で見上げる。


(ええ、仕方ないわ)


 リリーナはかがむとトォーリィの頭を撫でた。姫君のお部屋に伺うのが遅れてしまうが明日の仕事に支障が出ることは避けたい。確認は大事だ。


「団長、リリーナです」


 アルヴァートの部屋のドアを叩く。返事がない。


「なんだ、どうした?」


 風呂にでも入って来たのだろう、若干髪が濡れたままのアルヴァートが廊下の奥から歩いて来た。


「お疲れさまです、団長。明日の集合時間を……」


「団長、早く飯にしましょう!美味い酒もありますぜ」


 アルヴァートの後ろから、鎧を脱いで、すっかりくつろいだ団員達が声をかけた。何だか、とっても楽しそうだ。何に浮かれているのかわからないが、美味い飯と酒はテンションを上げる。


「おい」


「あれ、カルバイン副団長。どうしたんですか」


 リリーナの眉が下がる。いつもは皆と一緒で、こんな風に一人だけ仲間外れみたいな思いをしたことがなかった。


「寂しいのか?」


 押し黙るリリーナの様子に、アルヴァートが心配になって尋ねる。リリーナはキュッと唇を結ぶと、上目遣いでアルヴァートを見上げた。


「寂しい……です……」


 突如、アルヴァートの後ろで若い団員が鼻血を吹いて倒れた。もう一人の団員も直視できず後ろに倒れ、ドミノのように連鎖していく。

 廊下の騒動に、慌てて副官が駆け付けた。


(あ、マズイ。団長が固まっている)


 倒れている阿呆な団員を踏まないよう近付くと副官は咳払いした。女性の免疫がほぼない若い団員たちには、たまに垣間見えるカルバイン副団長の可愛いさは毒だ。刺激が強すぎる。犠牲者はペチペチと頬を叩いて起こしにかかるしかない。その副官の姿を、トォーリィも不思議そうに見ていたが、近くの団員の頭を前足でグリグリし始めた。


「明日は早朝6の刻、俺の部屋に集合だ」


 アルヴァートが目を逸らし、リリーナに告げる。


「わかりました……」


 しょんぼりしたリリーナはくるりと背を向ける。その姿にアルヴァートはつい腕を伸ばした。

 抱き寄せ、耳元でささやく。


「寂しいなら……一緒に居るか……?」


 一度復活した若い団員がまた倒れる。


「大丈夫です。姫君をお待たせしているので、失礼します!」


 アルヴァートの腕を振り解いて、リリーナはちょっと怒りながら走り去った。


「なんだ」


 倒れている団員の頬を叩く副官が、手を止めてアルヴァートを見上げている。


「起こすのを手伝ってくれますか?」


「放っておけ。飯にする」


 やれやれとため息をついて、副官は立ち上がるとアルヴァートの後ろに続いた。確かに毎回倒れられていても困る。

 若者よ、これは試練だ。馴れてもらうしかない。

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