3-2
僕が雛さんと50回目に会った6月の終わり頃、蘭が僕に尋ねてきた。
「今日、暇?」
期末試験は近づいていたけれど、放課後の予定を聞かれるのは初めてだった。僕はこくりと頷いた。
終礼が終わると僕の友人達は部活に行った。試験前最後の部活動の日だった。蘭は僕に手短に伝えた。
「ついてきて」
校門を出て、駅とは反対の方向へ歩いていく。道順はくねくねしていて、もう自力で学校まで戻れる自信はなかった。10分くらい黙ってついて行ったけれど、僕はついに痺れを切らした。
「蘭、どこ行くの?」
「あと10分くらいで着くからっ」
じわりと汗ばむ制服を疎ましく感じながら、また黙ってついて行った。しばらくして、結構大きめの住宅が姿を現した。蘭はその住宅の門の前で歩みを止めた。門は小さめだった。蘭は額の汗を白い腕で拭って、こちらを振り向いた。
「着いたよ!結構歩かせちゃったね、ごめん」
「それはいいんだけど…ここは?」
「私の帰る場所」
門の隣には”木漏れ日の里”と書いてあった。門の近くには守衛らしき人がいて、蘭ちゃんお帰り!と言って門を開けた。
「蘭ちゃん、学校の友達?」
「そう!一緒に入れてもらえますか?」
「もちろん。どうぞ」
僕も迎え入れられる。目の前にはちょっとした庭が広がっていて、蘭はそこのベンチに腰掛けた。隣のスペースをぽんぽんと叩き、僕を呼んだ。
「蘭、ここって…」
「行き場のない、18歳までの子ども達が暮らす場所。要するに施設だね」
だから彼女は、家や生活については曖昧に濁していたんだ。理由がやっと分かった。