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藍色のrequiem  作者: 水無月やぎ
2. 蜜柑色のnarrative
4/34

2-1

僕は、雛さんからもらった本の虜になった。



1人の主人公が、世界を救う物語。

主人公は、若くして両親を亡くす。…感染症の大流行によって。その感染症は自然発生したものではなく、意図的に作られ拡大されたものだった。世界中の人口の3割を、故意に殺した闇の組織ー〈NBJ〉の所業によるものだった。


〈NBJ〉。National Brutal Jack。Brutalとは、残酷であること。Jackは、19世紀にアメリカで、連続殺人を犯したとされる"切り裂きジャック"の名からとったもの。残忍な切り裂きジャックの、国際的な集まり。

人々は、姿の見えない闇の組織NBJをひどく恐れた。名前からして、とても恐ろしかった。NBJは、瞬く間に世界の脅威となった。


NBJの力は、実に凄まじいものだった。自分達だけはワクチンを接種し、ウイルスを完成させて空気中に放出するとすぐに、組織のメンバーはシェルターに逃げ込んだ。彼らを追うようにしてシェルターに逃げ込もうとした一般人は、文字通り粉砕された。NBJは、実に様々な方法で人々を窮地に追い詰めていった。

...その手際と言ったら、鮮やか、という外なかった。


冷酷な切り裂きジャック達は、実に冷淡にこの地球を切り裂いた。標的となった人々は中毒を起こしたり、悶え苦しんだり、怪我を負ったりした。そして繰り返されるバイオテロ行為の中、大多数が死に追いやられていった。世界は大混乱に陥り、何度も暴動が起きた。絶え間ない暴力の中で命を落とす人もいた。こうして、瞬く間に人間は削減されていったのだ...。

生き残った人々も、後遺症を負ったりした。恐怖がすっかり人々を飲み込んでしまうのに、そう時間はかからなかった。もう希望はない。光もない。あるのは暗澹とした、出口のない闇だけ。(あらが)っても無駄だ。あの忌々しいNBJに、いずれ自分達も駆逐されていく...。


主人公の両親までもが犠牲になった。脅威はすぐそこまで来ていた。けれどまだ子どもだったために、何もすることができなかった。無為に時間だけが過ぎていった。


誰もがもう、生きる情熱をなくしていた。生への執着を喪失していた。大人も子どもも関係なく。

どう頑張ったって、どうもがいたって、あの阿鼻叫喚の地獄から、抜け出すことはできない。

その命が燃え尽きる時まで、絶叫と、怒号と、慟哭と、生々しく赤くてどろどろとした血のごった返すこの地球から、決して逃れることはできないのだ、と。

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