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藍色のrequiem  作者: 水無月やぎ
11. 象牙色のbelief
31/34

11-1

僕は太陽が完全に姿を消し、闇が少し深くなってから研究棟を出た。唯一青く染まっていないコートを着てボタンを全て止め、鞄を抱きかかえて帰宅した。

蘭は僕が荼毘に付すとスタッフに伝え、1日置いといてもらうことになった。医師やスタッフは最初反対したけれど、父が最後の願いとして、僕に任せることを懇願したらしかった。


帰宅して、僕はすぐ伯母に謝った。


「ごめんなさい…」


「ど、どうしたの響也くん」


「えっと、まず、セーターを汚してしまいました。それから、伯母さんに大切なことを黙っていました……」


コートを脱いで現れたセーターを見て、伯母は「まあ」と声をあげた。


「…とにかく上がって、まずは着替えて温まろう」


言われた通りに着替えて温かな紅茶を飲んだ後、伯母は続きを促した。


「本当は、例の少女を知っていました。そしてその研究に携わったのは…僕の、両親でした」


蘭と付き合っていたこと、雛さんから全て聞いたこと、蘭が大変な目に遭っていたこと、さっき搬送されたこと、父と初めて会ったこと、蘭が亡くなったこと、全てを洗いざらい話した。

蘭との出会いから話すととても長くて、しかも途中でたくさん泣きながら、嗚咽交じりの声でゆっくりと話したので、話し終えた頃には3時間くらい経っていた。伯母は質問を一切せず、料理の手も止めて、ずっと隣で耳を傾けてくれた。最初の方で伯父も帰宅して、2人で聞いてくれたのだった。


「響也くん」


伯母の声は微かに震えていた。さすがにここまで重大なことを隠していたのだから、こっぴどく怒られるだろうと思っていた。僕は俯いて目を瞑った。


「…苦しかったね」


「え…?」


「蘭ちゃんも苦しかっただろうけど、響也くんもすごく、苦しかったよね」


「伯母さん…」


伯母は泣いていた。その背中を、伯父が優しくさすっていた。


「だって、研究熱心で真面目な妹が、そんな危険なことしてたんだよ?乗り気じゃなかったかもしれないけど、元旦那と一緒に。私でさえ、どう捉えたら良いのか分からなくて、頭がこんがらがりそうだよ。…だけど、響也くんにとっては肉親だもんね…しかも蘭ちゃんと好き合っていたんだから…響也くんの気持ち考えると、胸がはちきれそうだよ。そんなに苦しい思いしてたのに、ごめんね、私、ちゃんとは気づいてあげられなかった…っ」


「いや、あのっ、伯母さんが謝ることじゃ…」


「気が済むまで泣いていい。響也くんが失ったものは大きすぎる…私達が支えられるように頑張るけれど、力不足だったらごめん…!」


「僕は、美味しい料理で励ましてくれる伯母さんと、楽しく話してくれる優しい伯父さんが大好きです。救われてます。だから、僕は壊れずに生きてこられた」


泣いて喋れない伯母を優しく抱きしめながら、伯父が僕を見た。


「響也くん…ありがとうな。蘭ちゃんのことは、みんなできちんと見送ろう」

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