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藍色のrequiem  作者: 水無月やぎ
6. 群青色のproof
17/34

6-4

「今回私が出張で日本に来た理由は、ここにある」


雛さんは冷蔵庫に近づき、それを指差した。


「ここに、採血した血液が保管されているの」


雛さんは日本語を話していた。雛さんの日本語を聞くのは生まれて初めてだった。僕の話す言語も自然と日本語になっていた。


「え、じゃあ、彼女のもここに…」


雛さんは片方の眉を動かした。「やっぱり、何か知ってるのね」


あ…と思ったけれど、雛さんこそ、僕以上の何かを知っている。ここで引き下がるわけにはいかなかった。僕はこくりと頷いた。


「これは、患者さんのためなの…この血液を、患者さんのために、利用してる」


利用?患者さんのためなら、良いことに使われているのは確かだけど…でも、なぜ蘭の血液が特別に利用されなければならないのだろう。


「…その目的、初めて聞いたよ。本人も知らなかった。半ば強制的にここに来させられて、何も言われず、目隠しをした状態で採血されていた。週2回に採血が増えてからは貧血が悪化して、体に負担がかかるからやめてほしいって訴えたのに、誰も聞く耳を持ってくれなかった…そう聞いた。患者さんを治すためなら、何でそれを正直に伝えないの?何で彼女でないといけないの?彼女は患者ではないけど、でも1人の人間なんだよ?...雛さんが採血について知ってるってことは、何か関わってるんでしょ?雛さんから現場の医者とか看護師に言ってくれよ、いくら何でも週2回はやりすぎだって、目的くらい教えてあげろって」


雛さんは、ゆっくりと首を横に振った。


「その必要はないの」


「なぜ?どう考えても必要でしょう、彼女が可哀想だよ」


「ううん。彼女の場合に限っては、必要でも、可哀想でもないの」


いつから雛さんは、こんなに冷酷な人になってしまったのだろう。僕は困惑した。


「いやいや…雛さんには、人を大事にしようって思いはないの?」


「もちろんあるよ。もし響也なら、私は必ず目的を明かす。でも彼女は違うの。……人間じゃないから」


僕は耳を疑った。聞き間違いだと思った。


「…は?」


「だから、普通の人間じゃないのよ、彼女は。だから目的を教える必要もないの」


「いや待ってよ雛さん、冗談はよそう。彼女はどう見たって人間だよ。そこに否定の余地はない。それにもし人間じゃないなら、何だって言うんだよ」


雛さんはどう表現したら分からないような表情で、口を開いた。


「研究、材料。決して冗談じゃないよ」


「…は?」


「…だから、研究材料。今後の医療にとって非常に重要な研究のための、存在なの」


材料…?彼女が?あの美しい彼女が?人間ではなくて、材料?

僕はすぐに理解できなかった。雛さんの言葉をうまく噛み砕けなかった。


「…え、ねえ、今、自分で何を言ってるのか分かってる?彼女が人間じゃなくて研究材料?それって…それって、どういうことだよ……ねえ、どういうことなんだよっ?!」


僕は思わず雛さんの肩を掴んだけど、雛さんは俯いて黙っていた。


「おい、一体どういうことなんだよ、説明しろよっ!!!」


揺さぶっても、雛さんはされるがままで抵抗を見せなかった。”天才科学者”がこんな研究をしていたことに、すごく、ものすごく、腹が立った。

なかなか会えないけれど、密かに自慢に思っていたのに。祖母が褒めていたように、素晴らしい人だと、信じていたのに。


「何か言えよ!言ってくれよ!.........母さんっ!!」


雛さんは僕の言葉にハッとして、顔を上げた。その瞳からは、何も読み取れなかった。とても小さな声で、離して、と言われて、僕は仕方なく掴んだ手を離した。

しばしの沈黙の後、雛さんは白衣の袖をまくって入念に手を洗い、冷蔵庫を開けた。

中から取り出したのは、群青色の液体が入ったパックだった。雛さんはそれを黒い机の上に置いた。


「これが、証拠」


「証拠、って…?」


「彼女が、人間じゃない、証拠」


「嘘だっ、そんなのは絶対嘘だっ!」


取り乱す僕を見て、雛さんはパックを裏返した。


「これが多分、彼女ってことを示してるんだと思うの」


そこには”R.U”と記されていた。”Ran Ueshima”のことだとすぐに理解できた。僕の体は静かに震え始めていた。


「な、何で青いの…?」


「元々青いの…というか、青くしてあるの」


「青く、してある…?」


雛さんは目を伏せた。その姿は金曜日に抱きしめられた時より、さらに小さく感じた。


「ごめん、響也…説明させて欲しい、全てを」


僕は黙って続きを促した。雛さんはふう、と息を吐いてから話し始めた。

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