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藍色のrequiem  作者: 水無月やぎ
6. 群青色のproof
16/34

6-3

月曜日の終礼直後、蘭が僕を呼んだ。


「今日、暇?」


「あーごめん…今日は予定がある」


僕が蘭の誘いを断ったのは、これが初めてだった。蘭はちょっと驚いた顔をして、どうしてもダメ?と僕の袖を掴んだ。美しい彼女と教室でこんなに距離が近くなったことはなくて、割と緊張してしまった。

例の病院に行くんだ、と明かしても良かったのだけれど、クラスメイトにも聞かれる可能性があったし、まだ蘭には話さない方が良い気がした。


「ごめんね。今日だけは譲れないや」


そっか、なら仕方ないね、と蘭は案外すぐに折れてくれた。掴まれていない方で僕が蘭の頭の上にぽん、と手を置くと、見ていたクラスメイトからひゅーっと言われて冷やかされた。冷やかしを受けて恥ずかしくなったのか、蘭は慌てて僕の袖から手を離した。


「明日は絶対ねっ」


分かったよ、と笑って、僕は1人で校門を出た。



病院は総合病院で、敷地がとても広かった。メールで雛さんが詳しい待ち合わせ場所を教えてくれていなかったら、僕は確実に迷子になっていたはずだ。

比較的早めに着いて、少し寒さを増した風に吹かれながら待っていると、中から白衣を着た雛さんが出てきた。僕は雛さんの元に駆け寄った。


「待たせたかな」


家の外でも雛さんは英語を話し続けるが、僕はそれにいつまでも慣れることができずにいた。相変わらずのちょっと不思議な感覚に包まれながら、さっき着いたばかりだよ、と返した。雛さんは頷くと、”follow me (ついてきて)”と僕の耳元で囁き、白衣を翻して再び中へと入っていった。

待ち合わせた場所は既に一般病棟から離れていた。僕達が入ったのは研究棟と書かれた場所で、雛さんは何度も名札をかざしてエレベーターに乗り、幾つもの自動ドアを通り抜けた。”木漏れ日の里”へ初めて行った時よりも、道順は遥かに複雑だった。初めこそ白衣を着た人達を幾人か見かけたものの、いつの間にか人気(ひとけ)は全くなくなっていて、雛さんと僕の靴音だけが廊下に鳴り響いていた。

15分くらい研究棟の中を歩いて、”関係者以外立ち入り禁止”と大きく書かれた重そうなドアの前で雛さんは立ち止まった。


「本当は響也はともかく、多くのお医者さんも入っちゃいけない所なんだけど…今回は本当の本当に特別よ。静かに入ってきて」


雛さんは小声で且つ早口でそう言うと、白衣のポケットから鍵の束を取り出してドアを開けた。中には真っ白な廊下が続いていた。入り口から3つ目くらいの部屋で雛さんは立ち止まり、また鍵を取り出してドアを開けた。理科室のような部屋で、真ん中に黒い長方形の机があり、水道があり、壁には器具の入った戸棚が置かれていた。その横には小さな冷蔵庫のようなものがあった。雛さんは僕が入ったのを確認すると、すぐに鍵を閉めた。

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