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ハーレム・逆ハーレムを作りたい公爵令嬢と、それを止めようとする王太子の話


 王宮の一角、日のよく当たる東屋にて、王太子とその婚約者の公爵令嬢が、紅茶を嗜んでいた。

 

 「ねえ、殿下」


 可愛らしく話を切り出した公爵令嬢に、王太子はニコニコと続きを促す。婚約者の可愛い姿に笑みを浮かべる王太子は、彼女の楽しそうに輝く瞳には気づいていなかった。


 「なんだい? リリィ」

 「今、王宮は財政難ですわ」

 「ぐっ……うん、そうだね」

 「責めているのではなく、事実を申し上げているだけですわ、殿下。そしてそれの原因は、貴族たちの権力の増大。このままでは国王制という制度は廃れてしまうでしょう」


 そこで、一息入れて公爵令嬢は一層笑みを深くする。

 流石の婚約者バカの王太子も、これは嫌な予感がする、と臨戦態勢を取った。


 「いい考えがありますの!」


 猫のような気まぐれに細まる彼女の金の瞳は、今、爛々と輝いていた。


 「……それはなんだい、と聞きたいところだけど、止めておくよ。その顔をしたときの君の考えほど恐ろしいものはない」

 「ハーレム、及び逆ハーレムを作ればいいのですわ」

 「うん、僕は止めておくといったよね?――それで、どういうことだ、それは。『ハーレム』ということは、僕に女性を侍らせろと。君以外の、女性を」


 にこ、と公爵令嬢が微笑む。

 是の意を示すその仕草に、王太子は目を鋭く細めた。


 「それで、君は男性を侍らせると」

 「ええ」

 「それで? その者たちの権力と忠誠を一挙に王族へと集めれば、王家が安泰となるのか」


 そんなわけが無いだろう、と威圧を込めた彼に、いいえ、と公爵令嬢は首を降った。


 「()()()()ですわ。殿下。しかし、権力を集めることによって出来ることが増えます。その時期を狙って改革を進めればよろしいかと」


 確かにそうなれば、今まで出来なかったことも一気にやりやすくなる。しかし、王太子はそれを賛成する気にはなれなかった。


 「――反対だ。そんなことしても、いずれボロがでるだろう」

 「わたくしはやりたいですわ!」


 即答する公爵令嬢に、王太子は眉を顰める。

 密かに自分のことを不満に思っていて、他の相手を探しているのやも、と思ったからである。


 「……何故だ?」


 しかし、顔を赤らめてもじもじした公爵令嬢から返ってきたのは予想外の言葉だった。


 「だって、わたくしの殿下が美しい女性たちに囲まれて金貨で左団扇(うちわ)をしているところが見たいのです!」


 ぽかん、と王子が目を見開き、思わず見当違いな言葉を出してしまう。


 「……金貨で左団扇とは、なんだ? 訓練の一種なのか?」

 「いいえ、権力の象徴ですわ」


 大真面目に返された答えに、はあ、と王太子は溜息を付いた。本当にこの婚約者は何を考えているのか分からない。


 「だいたい、そんなことが本当にできると?」

 「こちらを見て下さい」

 「これは……貴族名鑑か」

 「ええ! これに彼女たちの経歴を書き込みましたの。お薦めは、モニーカ令嬢ですね。親に虐待されていて手懐けやすい上に、一人娘なので彼女の両親の首をヒュッとすれば、あの家は血筋上彼女の者です」

 「いや、それは普通に君が助けてやってくれ」


 思わず突っ込みを入れてしまった王太子を無視し、公爵令嬢は他の令嬢の絵姿を指差す。


 「じゃあ、リニアナ嬢は如何です? 傲慢で権力に縋って生きているので、御しやすいですよ!」

 「いや、その方は近づきたくない。前に媚薬を盛られたからな。――ところで、ここのハッシュ家の令息の絵姿の下に書いてあるこれはなんだ?」

 「ん? ……ああ、それは私の逆ハーレムようですね。彼は実は孤児なので、闇を背負っているんです。親代わりの方々は大事にしているようなのですが、距離があるのだと聞いて。そこを付けば一発かと」

 「――却下だ。君が他の男を侍らせたりしたら、そいつらを切り捨ててしまうかもしれない」


 思わずあの軽薄で顔の良い子爵子息が自分の婚約者を口説いているのを想像してしまい、顔を顰めた。


 「あら、嫉妬ですの?」

 「そういう君は嫉妬してくれないのかい?」


 からかうように言うと、公爵令嬢は王太子の前でだけ時折見せる、柔らかで幸せそうな笑顔を見せる。


 「わたくしは貴方がわたくしの物だと知っていますもの。浮気症な方ではないということも」

 「――僕だってそうだ。が、やはり却下だ」

 「なんでですの。いい考えかと思いましたのにっ」

 「それとこれとは別だ。全く君は、自分の価値というものを分かっていない。男がどのような生き物かも。……取り返しのつかないことになる前に、いっそ僕の手で思い知らせてやろうか」

 「へっ? で、殿下?」

 「エリオスだ。いい加減名前で呼んでくれと言っているだろう?」


 耳元に囁くと、面白いように婚約者の体がビクリとはねた。


 「殿下! え、エリオス様! ここは王宮の庭園ですわっ!」

 「僕を妬かせた罰だ。場所が気になるなら、僕の部屋に行こうか」

 「そ、そういう問題じゃ……あ! お兄様っ! 見てないで助けてくださいませ!」

 「ほう、他の男の名を呼ぶとは、いい度胸だな」

 「え? 違っ……、いやぁぁあ!!」




 「……あいつら、真っ昼間から何してんだ……」

 「公爵令嬢の方も、婚約者の膝に乗りながら逆ハーレムとか、説得力の欠片もありませんね……」


 他の男の相手をしていても王太子の惚気話ばかりをしている未来が手に取るように見える、と呟いた通りすがりの兵士の声が、妙に皆の耳に残った。

 この後、殿下は公爵令嬢の掻き集めた『ハーレム、逆ハーレムの為の情報』を使って、裏の者に人心と金を集めさせた。(いつ公爵令嬢が暴走しだすか分からないため)

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