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幽霊倒してレベルアップするだけの簡単なお仕事 REVIVE!【完結】  作者: 梅松竹彦


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4

「…………あれ?」



 気が付くと俺は黄昏に暮れる南国のビーチにいた。


 浜辺を見ればグラサンをかけた大仏が木魚でご機嫌なビートを刻んでいて、海を見れば沖の方でメイド服を着た二足歩行の狐がまな板でサーフィンしている。

 水平線に和尚のハゲ頭が太陽みたく沈んでゆき、揺れる波間には母ちゃんの顔が見え隠れ。

 足元を貝殻を背負ったヤドカリ父ちゃんがちょこまかと横断して、東の空からは妹の小春がひょっこりと顔を覗かせている。



「えっ、ナニコレ……」


『ウェルカム! ブラザー!』



 背後から俺の声がした。

 振り返るとすぐそこに真っ黒な人型が両手を広げて佇んでいた。



『いやぁ、ようやく会えたな! 会えて嬉しいぜ!』


「お、おう。ありがとう……?」



 突然熱烈なハグで歓迎されて、どう反応すればいいのかわからず返事に詰まる。

 身長は俺と同じくらい。姿形も自分の影かと思うほどそっくりで、声もそのまま俺の声だ。



「……で、お前は誰だ」


『俺はお前。お前は俺。つまりソウルブラザーだぜイェーイ!』


「ウェーイ!」



 唐突にベストハンドシェイク(※アメリカ人がよくやるアレ)を求められたが、考えずとも身体が勝手に反応した。

 なるほど、確かに俺たちは二つで一つらしい。イェーイ!



「なら、ここは俺の精神世界か」


『大正解!』



 やはりこのエキセントリックな光景は俺のイメージが元になっているらしい。流石は俺。イメージが天才的だな! HAHAHA!

 浜辺に体育座りして、二人で水平線に沈みゆく和尚を眺めながら話を続ける。



「ってか自分の中にもう一人自分がいるなんて今まで気付かなかったんだが」


『まあ、元々は別の存在だったからね。今の状態になったのは五年くらい前かな。突然元いた場所から呼び出されて、気付いたらこうなってた。ここってすごく居心地よくてさ、マジ最高だよ』


「そりゃあなによりだ。……五年前に何があった?」



 さきほど断片的に思い出したあの悍ましい光景。

 少女の絶叫。

 血と狂気に濡れた女の顔。

 あの時辺りに満ちていた吐き気を催すほどの腐臭。


 どれも断片的だが、鮮明に脳裏にこびりついて離れない。

 ……思い出したら気持ち悪くなってきた。



『話してもいいけど、今のお前じゃ覚えていられないよ。真実が知りたければもっと強くなる必要がある』


「またそれか……」


『まあでも、何もヒント無しってのもモヤモヤするだろうし、話せる範囲でヒントやるよ。あのカニバリおじさんの死因は【ある呪術】に失敗した反動。人を食い物にした化物の哀れな末路ってやつさ』



 人を呪わば穴二つ、か。

 あの凄惨な死に方からして、ろくでもない事をしようとしていたのは想像に難くない。

 思い出すのも辛いが、少女の肉を喰らうほどに身体が女に、それも少女とそっくりな見た目になっていった所を見るに、恐らく何らかの目的があって、少女に成り代わろうとする途中だったのではないだろうか。


 そして俺がそれを目撃したため呪術が失敗して、その反動で男(最後の瞬間は女だったが)は死んだ。……と、そんな感じか?



「ってか、お前は俺と融合する前はどういう存在だったんだ?」


『うーん、混沌の中で泡立つグニャグニャ……みたいな?』


「いや、みたいなって」


『しょうがないじゃん。実際そうなんだから。なんかこう、でっかい泡みたいなモノだったって思ってくれればいいよ』



 なんだよ、泡って。

 どうせなら伝説の大妖怪とかがよかった。九尾の妖狐とか酒吞童子とか。



伝説の大妖怪(ビッグネーム)じゃなくて悪ぅござんしたね! どーせ俺はなんだかよく分かんない変な奴だよ!』


「いや、急に拗ねるなよ。つーか今、心の声聞こえてた?」


『俺たちは二つで一つ。表裏一体の対存在だぜ? 自分の心なんだから何考えてるか分かって当然だろ?』



 なるほど。それもそうか。



『ものは試しだ。俺が何考えてるか当ててみろよ』



 ――――――大きなおっぱいもいいけど、



『「やっぱりお尻から太ももにかけてのラインが一番エロイよなって」』



 無言の握手があった。お互いの肩を抱き寄せ、喜びを分かち合う。

 もはや言葉は不要。俺は今、唯一無二の理解者を得た!



「でも、表裏一体って言う割にはお前、全然闇っぽくないじゃん。見た目以外は」


『それはお前が裏表のない素直な人間だからさ。お前が外っ面だけ取り繕ってる腹黒野郎だったらめっちゃ嫌な奴になってたと思うけどな』


「自分の心を映す鏡みたいな感じか?」


『そうそう。漫画とかでよくあるやつ』



 だったら爺ちゃんに感謝だな。

 爺ちゃんみたいなカッコイイ人になりたいって思って、その背中を目標にしてきた結果が今の俺だ。

 自慢の爺ちゃんを誉められたみたいで、ちょっと嬉しい。



「そういやずっと気になってたんだけど、このレベルってのは何なんだ。どうせこれもお前と関係あるんだろ?」



 右の掌に視線を落とす。

 そこに刻まれた数字は十。この数字は何を意味するものなのか。どこまで増えるのか。限界はあるのか。

 何もかも、わからないことばかりだ。



『その数字はお前の封印の解放度を示している』


「なんだよ封印って。初耳だぞ」


『俺とお前が融合した時に、お前はある力を手に入れた。けど、それは人の身には余る力だったから、特殊な封印が施されたのさ』


「人の身に余るって……どんな?」


『無限に霊力が増大しつづける異能』



 と、言われても、幽霊が見えるようになってまだ一日もたっていない霊能力初心者の俺には、いまいちピンとこない。

 そんな俺を見て、仕方ないなぁと軽く肩を竦めた『黒い俺』が、砂浜に絵を描いて俺にもわかりやすいように説明してくれた。



『まず、霊魂というのは、輪廻転生を繰り返す魂の核と、その周りに纏わりついている霊力、この二つを合わせたものの事を言う』



 砂浜に小さな丸と、それを覆う炎の絵が描かれる。



『そして霊魂と肉体はお互い密接に絡み合っていて、全ての命は生きているだけで霊力をちょっとずつ消費していく。所謂(いわゆる)精神的疲労というのは、霊力を普段よりも多く消費した時に起きる現象なんだ』



 へぇー、そうだったのか。



「じゃあオーラってのはなんなんだ?」


『オーラは生命活動で消費された霊力の残滓(ざんし)。まあ、言い換えるなら心の汗みたいなものかな。魂には元々浄化作用が備わっていて、オーラと一緒に悪いモノがちょっとずつ排出されるんだ。悪い事をした人のオーラが黒くて臭いのはそういう理由』



 ちなみに霊力自体は、特別な眼が無くてもある程度の霊感があれば見えるのだとか。



『で、重要なのはここからなんだけど、健全な身体には健全な魂が宿る、なんて言葉があるだろ? あれって実は逆も言えることなんだ』


「逆ってことは、魂が健全なら身体も、ってことか?」


『そう。だから身体を鍛えれば魂も強くなるし、逆に魂が強くなれば器の方もそれに比例して強くなる。けど、それは本当に微妙で繊細なバランスの上に成り立っている事なんだ。そのバランスが崩れたら……あとはもうわかるな?』



 成程。話が読めてきた。

 つまり、無限に増え続ける霊力に俺の身体が耐えられないのだろう。

 もし仮に俺の肉体が消滅した後も霊力が増え続けるとしたら、それこそ封印でもしておかなければ世界がヤバイ。



『そういう事。レベルが上がるたびに記憶が蘇るのは、少しずつ君の魂が高い次元へ上り詰めていっているからだね。アセンションと言い換えてもいい』



 アセンション。

 確か、『意識が時間と空間を超越した五次元へとシフトする内的変化』だったか。

 俺の意識が時間と空間の制約に縛られなくなりつつあるから、本来なら思い出せなかったはずの記憶を思い出した……?



『その通り。けど、魂の急激な変化に肉体が追い付けていない。思い出した事をすぐに忘れてしまうのはそのせいさ』



 じゃあ現状は身体が慣れるまで待つしかないって事か。



『そういう事だね。……っと。そろそろ時間だ。今はまだレベルアップ時のアナウンスくらいしかしてやれる事はないけど、お前が強くなれば俺も動きやすくなるからな。期待してるぜ』


「アレ、お前がやってたのか」



 どおりで聞き覚えのある声だと思ったら。よくよく考えてみりゃ俺の裏声じゃねーか。



「ま、ともあれだ。色々教えてくれてありがとな!」


『いいってことよ。またいつか会おうぜ――――――――――』



 和尚のハゲ頭が水平線の向こう側に沈むと、俺の意識はここではないどこかへと急浮上した。



 ◇



「…………っは!?」



 目を覚ますと、そこは運転中の車内だった。

 窓の外を見ればすでに日は傾いており、血のように赤い夕焼けが木々を照らして不気味な陰影を山道に落としていた。



「あっ、ヒロ! ……俺が誰かわかるか?」



 グラサンパンチパーマの強面野郎が俺の顔を心配そうに覗き込む。



「……小四の頃ドッジボール中にウンコ漏らして危うくあだ名がウンコマンになりかけた人」


「またピンポイントでしょうもない事を!」



 あの時は俺が一番最初に気づいて、周りに気付かれる前にすぐに保健室に連れていってやったのだったか。

 そもそも、学校のトイレで大をすると自動的にあだ名がウンコマンになるあの謎の風習が悪い。

 あれのせいでいったいどれだけの小学生男子たちが苦しんでいると思っているのか。文科省は即刻全国の学校から小便器を無くすべきだ。



「お、目を覚ましたか」



 タッツンがホッと息を吐き、和尚が運転席からバックミラー越しにこちらを見る。



「あれ……? 和尚、水平線に沈んだんじゃ……」


「ふむ、やはり少し記憶が混濁しておるか。お前は地下深くに隠れておった人面ナメクジの本体の霊気に当てられて気絶しとったのだ」



 確かにあの時はどこまでも落ちていくような感じだったが、そうか、俺、マジで気絶してたのか。



「元凶は祓ったし霊気も取り除いたが、それでも記憶や精神に影響が出ることもあるからな。まあ、一晩安静にしておれば治るから心配するな」


「ん? ……ああ。それで」



 タッツンに視線を向けると頷き返された。

 先程の変な質問はそういう意味だったらしい。



「今回は親父がいてくれとってよかったわ。俺だけじゃ多分あいつは祓えんかった」


「……そんなヤバイやつだったのか?」


「山みたいな本体が出てきた(とき)ゃぁ、もう駄目かと思ったわ。地上にいたやつの十倍はあったぞ」



 最初に見たやつだって二メートル近くはあったのに、その十倍なんていったら、それはもう悪霊というより怪獣なのでは……?


 もしかして今まで気付かなかっただけで、そんな怪獣もどきの大悪霊も日常的に町中を徘徊していたのだろうか。

 人知を超えた存在など、それこそどこにでも潜んでいる。そんな和尚の言葉を思い出す。


 ふと杉並木の合間から山の麓が見えた。……見渡す限りどこもかしこも幽霊だらけだ。



 そろそろ日が沈む。


 人ならざるモノたちの時間が、来る。




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