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ヴォイドミッション  作者: 冠 三湯切
9/10

ミッション9 タイプラプターを抹殺せよ

 ブリーフィング


 タイプラプターの正体はアンディ ジョンソン マリア サンチェスであった。そして二人はかつてアウロを裏切った人物で既に死亡している。アウロ上層部はその二人の遺体を利用し、プロジェクト・リボーン。死者蘇生計画を行った。二人は裏切る前の記憶を宿し、一職員として基地内で働いていた。だが、まだこの計画は完成にはほど遠く、二人の精神は不安定で、時折暴走。タイプラプターとして行動していた。


 そして現在、暴走状態に移行し、精神の回帰は不可能であると判断。これよりタイプラプター抹殺任務を開始する。




 フロンティア 荒野


 『グギギギガガガァ!!』


 『グウィアアアアア!!』


 二体のタイプラプターは完全に理性を失くした。サンチェスだったものは、耳が痛くなるほどの声を上げ俺に襲い掛かる。


 アンディは鋭い爪を立て、ディエゴへと襲い掛かる。


 『ズガン!!!』


 俺はサンチェスに弾丸を撃ち込んだ。奴の固い皮膚を貫通する程に威力を上げた弾丸だ。ストッピングパワーもかなりある。一発だけでサンチェスは後ろへと倒れた。


 「凄い反動と威力だ・・・常人が使えば両手を使っても肩が外れそうだ」


 「あぁ、特注の弾丸だ。君は俺と違い現代兵器を多用する。それが君の戦い方だ。だが、ビースト等との戦闘には既存の兵器は全く通用しない。ならば武器そのものの戦闘力を上げさせればいいと考えたものだ。使い勝手はいいか?」


 「あぁ、いい感じに反動も馴染む。ここへ来て銃火器の威力の低さに悩んでいたころだったからな」


 「それは良かったよ、マザービースト相手にはこれぐらいの威力が必用だ。これからの戦いにもな」


 「そうかもな」


 『グギギギギ』


 サンチェスは起き上がった。そしてアンディもよろよろとこちらに向かってくる。


 俺は銃弾を数発放ち、ディエゴは剣を鋭い爪と合わせ攻防を繰り返す。


 ディエゴの戦いはまるで本気を出してはいない。まるでビーストとの戦闘をいやいややっているようだ。それでもディエゴの実力は剣を軽く振るだけで周囲の地面を抉り飛ばし、敵に攻撃の隙を与えないが。


 「ヴォイド ロドリゲス君。一つ質問したい」


 応酬の最中、ディエゴは俺に質問をした。


 「何だ?」


 「君は、今何を思っている?」


 ディエゴの質問の意図・・・どういう意味だ?今まで好意を持っていたサンチェスを殺せるのかと聞いているのか?それに関しては何も感じてはいない。殺す事に何も感じはしない。


 だが・・・思っている事は。


 「俺の思いはただ一つだ、戦い。俺にはお前のように大層な志はない。戦いの中で生きる、後は何もいらない。それが俺の生き方だ」


 「そうか・・・世界には、そう言うものも必要なんだな。戦う事に生きる意味を見出す。やはり俺たちには君が必用らしい。平和と戦争は表裏一体、戦いと言う平和があの世界には必用だ。ヴォイド ロドリゲス君、俺と並べ。君の力はもう既に、俺と並んでいる」


 俺は一歩前に出た。なんだこの感覚は・・・見えている世界が広く見える。ディエゴは一体何をした?


 戦い・・・俺はこの言葉を発しただけだ。俺の生き方、俺にはこれしかない・・・だが


 「ディエゴ・・・お前が何故この組織を一枚岩にしたのか、少し理解できたかもな」


 「そうか。それはありがとう。では一気に終わらせようか」


 ディエゴ、この目は本気になった目だ。ずっと不安定だった感情に対し、何か吹っ切れたような感じだ。それは俺も同じだ。


 俺の中の戦いと言う言葉、ずっとそれはこの世界に生きている誰かの平和の為に戦う。そう言うものだと言われてきた。それがずっと引っかかっていた。平和の為に戦うと言うのに、何故俺はこんなにも戦いにのめりこんでしまうのか。


 闘争本能と俺は言い聞かせていたが、そうではない。俺が感じていたのは昂ぶりじゃない。安心だ。戦う事に安心を覚えていた。


 俺にとっての平和は戦い。戦いの中に平和を見た。戦いのない平和はつまらない。戦うからこそ平和に意味がある。


 「サンチェス、俺はお前と出会って初めて感じた感情がある。それはムカつきだ。お前は毎度毎度会う度に面倒を持ち込んだ。しかもどうでもいいくだらない事ばかりだ。だが、決して悪い気分ではなかった。それは俺にとって経験したことのない戦いだったからな。お前は俺に別の意味での平和を教えてくれた。


 ありがとう・・・マリア」


 俺はディエゴと同時に引き金を引いた。一撃必殺。俺は銃弾に魔法を加えた。この弾丸には魔法を溜めこむ性質もあるらしい。それで俺の弾丸はタイプラプターの固い皮膚を軽く貫通し、その体を破壊した。


 俺とディエゴの銃弾は周囲の地形を変えてしまっていた。はるか遠くまで抉れ窪んだ地面が続く景色が現れた。






 「よくやったな、ヴォイド ロドリゲス君」


 「あぁ・・・」


 俺は倒したタイプラプターの元へ向かった。


 「これは・・・一体」


 「この世界に触れた人間は、たとえビーストであっても死ぬ際には人の姿に戻り元の世界へと戻る。この世界最大の謎だ」


 タイプラプターの中からはサンチェスとアンディが出てきた。ほんのわずかだが、呼吸音が聞こえる・・・まだ、生きているのか?


 俺は二人に近づいた。


 「ヴォイド・・・さん。私は   まだ、生きてますよ」


 「あぁ、そうだな」


 確かに息はしてる。だが、これはもう時間の問題だ。


 「今  全部  思い出した  んです・・・私、 アウロを 裏切った。いつか  誰かが気付くように  ヒント 残して。でも  そのすぐ後に  殺された」


 サンチェスは死ぬ前の記憶を取り戻したようだ。ここは話させてやろうか・・・


 「殺したのは、ジン ワントゥ君だ。こちらで調べるうちに分かった。君は道に迷い、その中で偶然アウロの実験を目にしてしまった。極限生命体計画。通称プロジェクト・マキシマ、君が見たのはそれだ。この計画は、あまりにも非人道的であるとして、当時トップシークレットとして扱われてきた。その後計画は凍結されたのだが、その前に君は見てしまったんだね」


 「はい・・・私  怖くなって それで逃げた」


 「その逃げる中で、お前はヒントをどこかに隠していた。そして見つけたのが、アンディ、お前だったんだな」


 「えぇ。アウロは・・・ 非 人道的な  実験を ずっと繰り返している  覚醒者を  兵器にする  俺も それを見た   俺は、それを  止める 為に   元の世界へ」


 この戦いの影響なのか、二人は一度死ぬ前の記憶を取り戻したらしい


 「その時だったな、君は俺に見つかり、殺される」


 「そう  だ・・・俺は アイシー  に   お前に殺された」


 ん・・・どうりで真っ先にディエゴが違和感を覚えるわけだ。殺した奴が再びここに来たんだからな・・・


 「そうか・・・君たちには本当に済まないことをしたね。この償いは必ずする。約束しよう」


 「今となっては、怒りも  ないです。むしろ  またいつもみたいに  生きられたのが、嬉しくもあるんです」


 アンディは少し笑っていた。分からない。散々利用されて、怒りの一つ覚えるものではないのか?


 「私も  生き返って ヴォイドさんと出会って・・・短くても 初めて私  満足を感じたんです」


 満足か・・・やはり俺には理解できない。空っぽの俺には、何をやっても何も感じたりはしない。


 この時だった、二人の体は徐々に薄く透けはじめた。


 「そろそろ・・・本当に 死ぬんだな。意識が遠くなってく・・・」


 「ヴォイドさん・・・あなたは私を何とも思ってなくても、私はあなたが好きでした  誰かを好きになれた。それだけで私は十分幸せです。最後に殺されるのがあなたで、本当に私は幸せ者だよ・・・ありがとう。ヴォイドさん」


 マリアは最後に俺に向かって笑って見せた。殺されることに幸せだと・・・そんな幸せの感じ方があるのか?


 マリアはそのまま、完全に消えてなくなった。


 「ディエゴさん、あなたは  悪い人じゃない。あなたの心にはまだ、善の心がある・・・俺は、信じます。あなたが、全ての世界を 変えてくれることを・・・」


 そう言い残し、アンディも消え去った。


 「あぁ・・・変えて見せるさ。全てを思い出し、そして全ての不幸をこの世から消し去る。それが俺に出来る償いだ」




 


 「ディエゴ・・・」


 しばらく沈黙した後、俺が口を開いた。


 「どうしたんだい」


 「今お前に聞くのはどうかと思うが、変わりはないから聞く。お前、最初から全て知っていたな、知っていたうえでお前は見て見ぬふりをしていた」


 ディエゴは何も言わなかったが、俺はそうとしか考えられない。この全てはディエゴの茶番だ。ディエゴは俺の力を計るために、全てを仕組んでいた。


 「それはどうかな?俺を疑うのは君の自由だが、俺は嘘は言っていない。全て本当の事を話したつもりだよ」


 そう来たか・・・まぁいい。俺にはやはり関係のない事だ。


 「そうか。だったらいい。忘れてくれ。さて、帰還するか」


 「その前に、君に言っておきたいことがある。ヴォイド ロドリゲス君」


 ディエゴは急に神妙な面持ちで俺に話しかけた。


 「何だ?」


 「今回の件で、俺は一つ決めたことがある。君に、俺の計画を伝える」






 「了解だ」





 帰還


 「アンディ ジョンソン及び、マリア サンチェスのタイプラプターは抹殺。現在チルドレンの報告がない所を見るとタイプラプターの件はすべて片付いたと思われます」


 『まさか・・・そんな事になっていたなんて。にしても、上層部の奴ら・・・職員を危険に晒して変な計画進めるなんて何考えてんだ、ったく・・・』


 タイプラプターの件に関しては報告しなければいけないので、一部を端折ってジョシュに報告した。


 「さぁな、上層部は自身の保身ばかり考えている奴らばかりと噂を聞いたが、例の坂神 桜蘭などを危険視しての行動なのか?」


 『だと思うよ。にしても プロジェクト・リボーンか・・・随分懐かしい計画だな』


 「知ってるのか?」


 『知ってるも何も、当時計画に携わってたもの。発案者は確か、今は上層部にいるえっと、ウーラって名前で呼ばれてた奴だ。でもね、いくら今でも非人道な実験が行われてるとはいえ、あれはないわな・・・』


 「何かあったのか?」


 『いや、死体にビーストの超回復する成分やら覚醒者の血液やら様々な情報をインプットして強制的に生き返らせようとしたんだけど、念には念をって自爆装置を入れてたのね。そうしたら案の定暴走して、挙句の果てには体そのものが暴発、更に自爆装置も起動であたり一帯焦げ跡まみれと血の海と死体の山』


 それは・・・ヤバいな、色々と。


 『それ以外でも、死体が溶けたり、粉になったりしたこともあったっけ。それでディエゴがいい加減キレて、ほら、ディエゴって死者に対してはやたらと礼儀正しい所があってさ』


 あぁ・・・確かにそうだな。


 『それで計画は頓挫したんだ。でも、どこかの馬鹿がまた引っ張り出してきたみたいだね』


 「そのようだな。ディエゴはやはり相当怒っていたようだ」


 『おーこわ』


 「にしても、今日はやたらとフレンドリーに話すな」


 『あれ?そうだった?なんだか懐かしい話だったからかね。じゃ、報告どうもね』





 俺は報告を終えた。にしても今日はやけに静かだな。サンチェスがいないからか?いや、どう見ても人数が少ない。


 「ヴォイド ロドリゲス君」


 「ディエゴか、なんだかやけに人が少ないようだが、何かあったのか?」


 「あぁ、今は完全覚醒者も出払っている状況だ。俺も今から中央にいかねばならない。しばらくは戻らないだろう。だが・・・」


 「だが?」


 「・・・もうすぐだ、そう遠くない日に戦いがやって来る。東雲組に、例の兵器。それだけではない。坂神 桜蘭君たちにアウロ上層部、アダムス連合あらゆる者たちが一斉に動く。そしてその時に真の裏切り者が動き出すだろう」


 「裏切り者だと?お前、何か知ってるのか?」


 「あぁ、そしてその時俺が、俺たちが動く時だ。全ての世界に終止符を打つ・・・」


 ディエゴは笑い、この基地を旅立った。





 俺は部屋へと戻る。


 「きゃる?」


 部屋に戻るとキャロットが出迎えた。だが、今日は少し様子が変だ。


 「どうかしたのか」


 「きゅ~・・・」


 元気がない。まさかマリアの事が既に伝わって・・・って、ん?


 『ぽんぽん』

 

 キャロットは俺の頭を軽くたたいている。何をしているんだ?


 「な、なにをしているんだ?さっきから」


 しばらく俺の頭を撫でるようなしぐさをすると、うずくまって動かなくなった。


 気が付いたんだ。俺の表情から今日何が起きたのか・・・俺は、悲しんでいるのか?分からない、何も感じない。だが、もやもやするのは確かだ・・・


 「キャロット、俺は疲れた。だから先に寝るぞ・・・来たかったら来い」


 「きゃる!」


 キャロットは俺のベッドへと入り込んだ。

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