ミッション8 タイプラプターの秘密を探れ
ブリーフィング
「ヴォイド ロドリゲス君。今日はこの俺と任務に出てもらいたい」
突然の出来事だった。今朝いきなりディエゴが任務の同行を俺に申し出てきた。奴の実力は知らないが話を聞く限りでは軍一つでは足りない程らしい。俺自身、前回の任務で小銃程度はもう通用しない体になっている事は分かったが、戦闘能力そのものがそこまであるとは到底思えない。
それなのに何故こいつは俺を・・・
「どういうつもりですか?」
「タイプラプターの件だ。俺はあの二人を調べるうちにタイプラプターと二人には何かしら関係があるのではないかと考えた。そしてその答えが出た・・・・・・」
俺はディエゴから答えを聞いた、
「そんな事が・・・あり得るのか?」
「有り得てしまったんだ、全く世の中というのは哀しいものだよ。俺は確かいつもそうだったな、少し行動を起こすのが遅く、手遅れになる・・・」
ディエゴの表情は以前見た時同様に爽やかではあるが、ほんの少し怒りの感情がにじみ出ている。
「この任務には君が必用なんだ、ヴォイド ロドリゲス君。君でなければタイプラプターの秘密を知る事は出来ない」
フロンティア 荒野
俺は何もない荒野へと連れていかれた。そしてそこにはサンチェスとアンディが待っていた。
「あ、ヴォイドさん・・・」
「あなたが来たと言う事は・・・まさか」
「察したようだね。君たちには第二段階、つまり覚醒に至ってもらう」
「え、ぇえ!?そ、そそそそんな!!い、いきなりなんて!!私まだ心の準備が!!」
サンチェスはいつも通りだ。おどおどしてビビっている。
「よろしくお願いします。俺は前から覚醒者になりたいと思ってましたから」
一方アンディは落ち着いている。ディエゴの話によればアンディは覚醒者候補の一員で既に覚醒に関する教育を受けているらしい。覚醒で一番危険なのは恐怖する事だ。恐怖心が覚醒を妨げ一気にビースト化を進行させる。
「あぁ、お前なら出来るだろう。だが・・・」
俺たちは視線を一気にサンチェスに向けた。
「ひ!!み、見ないでください!!緊張しますから!!」
「済まない、マリア サンチェス君。では俺はアンディを、ヴォイド ロドリゲス君は彼女を頼む」
アンディとディエゴは遠くへと離れた。
「少し気分は落ち着いたか?」
俺はサンチェスに呼びかけた。
「す、少しだけ・・・でもほんとなんでだろう、あなたとだけは普通に話せるみたい。他の誰かといるとどうしようもなく怖くなって・・・」
「恐怖心という感情は今のお前にとっては最も危険な感情だ。それは分かるな?」
「はい、分かってます。恐怖心がビーストに変えてしまう。でも、怖いものは怖いんです。私だって他のみんなと仲良くしたいのに・・・全然できなくて、その挙句こんなことになって・・・私どうしたらいいのか、全然わからないんです!!」
サンチェスは、強く拳を握りながらすすり泣いている。
「だからこそ俺がここにいる。俺がお前を覚醒させてやる。どうしたらいいのか分からないのなら、俺が導こう」
俺はサンチェスに手を差し出した。サンチェスは泣いた顔のまま顔を上げる。
「えっと・・・」
「手を取れ。恐れるな、お前は俺を恐れていないのならば、取れるはずだ」
『パシッ』
サンチェスは勢いよく手を出した。ぎこちない無駄に力を込め俺の手を握った。
「やります、私やってやります。絶対に覚醒しますから!!」
「あぁ、任せろ。覚醒に必要なのは凄まじい感情の昂ぶりだ。言い換えればそれは恐れる事を乗り越える事こそが覚醒への道と言っていいだろう。お前はアンディと違って不器用でおっちょこちょいだ」
「あ、あはぃ・・・そうですね」
「と言う事はだ、お前はなんでも出来る奴とは違い、そこを克服さえできれば覚醒に至れると言う事だ。他の覚醒者は器用な奴が多い。その為か覚醒のきっかけは怒りや、正義と言った漠然としたものだ。だがお前は、すぐ近くに変えたいものがある。それだけでも十分のはずだ。お前はたった一歩踏み出すだけでいい。やれるか?」
こいつの最も苦手な事は誰かに自分の感情を伝える事。常に誰かに怯えていた彼女は、俺という存在がそれを克服するための第一歩となった。真のコミュニケーション障害の彼女ならば、あとは自身の感情を爆発させるだけで一気に覚醒する。
「あと、一歩・・・」
「あぁ、お前の最も望んでいる事を、やりたいことをすればいい。お前は誰かに怯える自分を克服したいんだろう?だからこそ俺はここに来た。唯一恐れる事のない俺を、さぁ踏み出せ」
「わ、私は・・・私はずっと・・・」
ん・・・よし、さぁ叫べばいい。
「な、なに!?」
流石に反応できなかった。俺は自身の感情を大声で叫ぶと踏んでいたが。サンチェスは自身の唇を俺の顔に押し立て、そのまま俺を倒した。
「こ、この力は・・・」
「私、あなたを初めて見たときから思ってた。一目惚れです!!」
「なん・・・だと・・・」
まさか過ぎる。こいつ、俺の事をそう言う目で見ていたのか。いや・・・そうか。そう言う事か、理解できた。
「ずっとこうしたかったんです。あなたが傍にいてほしい、傍にいたい、そう思ってマシタ!!』
「ん、それはまさかだな・・・そんな風に思われていたとは思いもしなかった」
『ワタシ、ちょっと妄想癖があって、あなたが夢にも出てくるくらいなんですヨ。ごめんなさい、変な女で」
「そうか、お前は自分を見失う事が怖かったからずっと他人を避けていたんだな」
『そうなんです、本当の私はもっと派手にスキンシップしたいって、思ってました。でもみんな嫌がって、それでそのうちにどうやってスキンシップをとったらいいのか分からなクテ・・・テ』
「スキンシップ・・・か。それがお前の望みなんだな。よく分かった。だが、お前のスキンシップは少々派手だな」
『ソ、ソレホドでも』
「あぁ、まさか人の体に穴を開ける程に激しいものな」
「え?」
俺はサンチェスを押しのけ、立ち上がった。
「まだ見えているか?サンチェス」
『ど、どうして血が!?』
俺の脇腹からは血がにじみ出ている。
「まだ気が付かないか?お前の体」
「私の・・・体? な、なに・・・これ」
サンチェスの見た自身の右手、それは人間の手とはかけ離れていた。これは・・・タイプラプターの腕だ。
「サンチェス、知っているか?ビーストの行動基準を」
「ど、どういう・・・』
「ビーストの行動基準は恐怖だ。恐怖を振り払うためにありとあらゆる生命を襲う、安息のある場所を求めてな。お前が周りをやたらと恐れていたのはそれが原因だ」
『そんな、嘘ですよ・・・私は・・・・」
「俺には何もない、心も、あらゆることに感情を感じたりはしない。だからこそだ。何もない俺と言う空間にお前は安息の地を見つけた。」
『チガウ、私はワタシ・・・ビーストなんかじゃない!!』
「あぁ、元々お前はビーストではない。だが、人間でもない」
『ど、ドウイウ・・・コト』
「それは俺から言おう」
突然暴風が吹き荒れた、そして一体の影が目の前に落ちてきた。そのすぐ後ろに一人の影がある。
『これって・・・タイプ ラプター?』
ディエゴとタイプラプターだ。そうだ、タイプラプターは二体いた。奴と対峙した際にほんの少しだが違和感があった。戦い方と、触れたときの感触が違っていたんだ。
「そうだよ、マリア サンチェス君。タイプラプターは、プロジェクト・リボーンと呼ばれる計画の中から生み出されたものだ。内容は文字通り、死者を生き返らせる計画だ」
『えっ・・・』
「プロジェクト・リボーンは死体に記憶データとビーストの力を注ぎ、蘇生を試みる計画だ。しかし蘇生はほんの一時的に可能にしたが意識は終始不安定で最終的には完全にビーストの状態になってしまう。
随分と前に凍結されていた計画だ。だが、俺の知らない間に上層部の奴が勝手にそれを再開した。その中で選ばれた被検体がアンディ ジョンソンとマリア ジャスミアーノ サンチェス。かつてアウロを裏切り、殺された者の名前だ」
ディエゴの言葉を聞き、サンチェスは大きく目を見開きこちらを見て固まっていた。
「殺された・・・私・・・ガ?』
「そうだサンチェス、お前は、既に死んでいた」
『チ、チガウ・・・・私 死んでなんかない 死んで・・シ・・・・ン・・・・ググゥ・グゥアアア!!』
サンチェスは頭を抱え叫んだ。その声は叫びと言うより咆哮だ。この声だ、最初に遭遇したのは、サンチェスだ。
「アンディ ジョンソンに、マリア サンチェス・・・その名は忘れはしないさ。俺がその死を見届けているのだからな・・・
俺は、お前たちに死ぬ以上の苦痛は与えたくはなかった、許してくれ。この計画がここまで完成したと言う事は遅かれ早かれ、あの計画も再開せざるを得なくなる。お前たちのこの苦痛は決して無駄にしたりはしない。必ず俺が真の平和を成し遂げよう。俺がこの手でお前たちを葬ってやる・・・全ては平和の為に。行こう、ヴォイド ロドリゲス君」
「あぁ・・・」
俺は大口径の銃を引き抜いた、ディエゴも大口径のリボルバーとフランベルジュを同時に構えた。
『ングギギギギァァッァァ!!!』
『グゥイアアアアア・・・』
そしてアンディとサンチェスだったものが、起き上がった。
「さぁ来い」