ミッション7 敵組織を壊滅せよ
ブリーフィング
『ヴォイド、今回君に与える任務についてだが、昨日タイプラプターによるアウロ職員襲撃事件を受け、急遽ディエゴ アンダーソンを基地へと呼び戻した。その為本来ディエゴがやるべきであった任務を君とリザヴェノフの二人で遂行させることにした。
任務は中央地区近郊の反政府組織の壊滅だ。以前、「反逆者たち」と呼ばれた反政府組織の中にある過激思想派が、三上 礼抹殺の一報を受けた後暴徒化。
当初は烏合の衆であった彼らだが、突然統制が取られるようになった。このままでは我らの障害になる可能性が極めて高いと判断したため組織の壊滅を決定した。
くどいようだがこれは本来ディエゴがやるべき任務だ、生存者も痕跡も一切残さず約1000人を抹殺しなければならない。難易度はかなり高いが任務の成功を信じよう』
今回の任務は一気に難易度が上がったな・・・完全覚醒者というのはたった一人で戦争を可能にするのか。
「よろしくねヴォイドちゃん、今回は気張っていかないとね!」
「そうだな、流石の俺でもたった二人で1000人壊滅は聞いた事すらないぞ・・・それにしても、この任務は元々奴一人でやる任務なんだろ?完全覚醒者とは一国の軍の戦力が一人にあると言う事か」
「そうね、完全覚醒者の戦力って言うのは小国の軍を一つ潰す程度って専ら言われてるわ、でもディエゴはそんなレベルじゃない、彼の風の魔法はあらゆる兵器を吹き飛ばし、正に天下無双。その実力は米軍の全戦力以上とまで言われているわ。それはいいけど、キャロットちゃんはどうしたの?」
「流石に連れて行くわけにはいかない。キャロットはあの二人の元に置いてきた。ディエゴの手伝いをするように言ってある、ディエゴにもそう伝えてある。大丈夫だろう」
「そう、それなら安心ね」
中央地区、『親研究所』付近。
俺たちは巨大な謎の研究施設の前に来た、遠くには摩天楼がそびえ立つ巨大な街が見える。あれがこの世界の首都、中央地区ミコト市。この世界ではあそこを主に中央と呼んでいるらしい。
「それにしても、この研究施設は?」
「あ、それね、こっちの世界でのビースト研究の施設よ、『親研究所 第壱號棟』三上ちゃんが昔ここで捕らえたビーストの研究をしてたのね。でももうもぬけの殻で研究資料も全部廃棄したわ。それでもって今回の任務はここ、どうやら『反逆者たち』はここを一つの拠点としてたみたいね。いままでノーマークだったから調べるのには苦労したんだって。
ディエゴの話によると今回のターゲットは三上ちゃんがいなくなった今、我こそが世界を導くとか言って集まった集団で、エアリア ソルティって奴が主導で集まったらしいわ」
「それで俺たちはここにいる奴ら全員の抹殺か」
「そ、今はいいけど、麗沢ちゃんたちともし手を組んじゃったら結構マズくなりそうなのよね。もしくは麗沢ちゃん一行と私たちアウロ、そして反逆者たちって言う三つ巴の状態になってそれも避けたいってね」
確かにそうなるとかなり面倒だな。潰すに越したことはないな。
「しかしだ、俺はかなり腕に自信があるがそれは人間の考えられる範囲内でだ、お前らのようなでたらめな戦闘能力は残念ながら俺にはない。出来たとしても逃走者を一人残らず始末する程度だ。どうするつもりなんだ?」
「セカンダビリティよ、覚醒者と完全覚醒者の一部には魔法とは違う能力があるのは知ってるわよね。私もセカンダビリティ持ちの一人なの。それを使うわ。ヴォイドちゃんはとりあえず殺していってくれればそれでいいわ。殺せば殺すほど私の力は強くなる。あとそれとヴォイドちゃん、私たちをでたらめな戦闘能力って言ってたけど、あなたは気が付いてないだけで既にあなたもその域に達してるわ。
私たち完全覚醒者のほとんどが銃火器を使わないのはそれを遥かに超える力を生身に持ってるからなのよ。今はまだ実感がないかもしれないけど、あなたの力は自分の予想を軽く超えてるはずよ。じゃ、そろそろ行こうかしら」
俺たちは研究所の中へと足を進めた。
「なぁエアリア、俺たちってミカミを潰す為に反逆者たちになったんだよな。確かに奴がいなくなって統制を取るのがいないってのはわかるけどよ、それって俺たちがやらなきゃいけないことなのか?アレックスとかがいるじゃん」
「分かってないな、奴ではダメなんだよ。奴をまた王にしたらまた歴史は繰り返すだけだ。この世界には新たな王が必用なんだ、世界を正しく導く奴がな」
「そういえば・・・アレックスが最初っからミカミを特別視してなきゃあんな事にはならなかったんだよな。わかったよエアリア、俺はあんたについていくぜ」
「あぁ、この俺が世界を正しい形にしてやる。ついてきな」
「成程ね、あなたがエアリア ソルティちゃんか・・・リーダーシップはありそうね。でも、あなたでは世界を導くなんて100年早いんじゃない?」
「だ、誰だ!?」
男性しかいないこの空間に、突如としてリーダーを煽る女性の声に、周囲はどよめいた。
だが混乱は一瞬だけ、そのすぐ後にはここに来た者は敵だと即座に判断したようだ。それぞれ武器を持ってリザを取り囲んだ。
「貴様、一体どうやってここに?外の奴らは・・・」
「見張りという者は常に殺される可能性があると教育しておけ。そしてどの場所も常に二人は置いておけ。少しトイレに行くと持ち場を離れるというのは不用心にもほどがあるぞ」
俺は見張りだった奴の死体をエアリアの前に転がした。やつから滲み出す汗は尋常じゃない。この程度で動揺するとは、本当にこいつが1000人を纏めているというのか?
「お前ら、一体何者なんだ!!」
「この世界を本当の意味で導いてる者、この世界の真の支配者よ」
「支配者だと・・・ふ、ふざけるな!!そんなの聞いてないぞ!!おい!!こいつらを殺せ!!」
小物・・・こいつからはこれと言った気迫は全く感じない。カールや東雲の女には確かにあったあの気迫、世界を導くと豪語している奴がどんなものかと思えば・・・拍子抜けだ。
「うんうん、結構私好みの子がいるわね。どお?私のペットになるって言うのなら悪いようにはしないわ」
「な、なんだと!?ちょっと美人だからってちょ、調子に乗んじゃねぇ!!」
「あら威勢がいいのね、ますます好みだわ。でもねちょっと今溜ってるのよ、まずはあなたからいただこうかしら、なに、すぐイかせてあげるから安心して!!」
リザは中にいた小太りの男をいきなり押し倒した。成程な、こいつと任務をやって初めて何故完全覚醒者になれたのかを理解できた。
リザが押し倒した時には既にこの男はすでに死んでいた、押し倒す瞬間に脊髄が一気に砕け散るほどの衝撃を与えていた。そしてだ、奴が息絶えた後リザの呼吸が一気に荒くなっり、リザは死んだ男に熱いキスをした。
リザの性癖はただ太っている男が好きなんてものではない。こいつが求めているのは死体だ。死体に性的興奮を覚えている。
「さぁかかってらっしゃい。一瞬で骨抜きにしてあげるからさぁ・・・」
この言葉に嘘はない、リザは周囲を取り囲んでいた男どもを文字通り骨抜きにした。男たちはその文字の通りにくねんと有り得ない方向に体を向かせながら滑らかに崩れていった。
「ヴォイドちゃんはあそこら辺お願いできる?私お楽しみ中だから」
「あぁ、存分に楽しんでおけ」
最初にキャロットがいるのか聞いたのはこうしたかったからのようだな。別にこいつが何しようと俺は構わんが・・・
「れ、連絡を!!応援を呼ぶんだ!!あ、あれ・・・どうなってんだ。繋がらない!!」
「無駄だ、ここの通信機器はもう既に使えない」
「な、なんで!!どうなってんだよ!!」
一人の男は必死に通信機のボタンを押している。
「チャフグレネード。一時的に電波障害を発生させる兵器だ。なに安心しろ、あと15分もすれば復旧するだろう。その前に全滅しなければな・・・」
「へ、へへ!!お前たちは確かにめちゃ強いけどさ、数はこっちが圧倒的に多いんだ!!こうなったらやってやるぜ!!」
「ほう お前、中々いい顔をしているな。お前たちのリーダーとは大違いだ。見ろ、奴はどこに行った?リザが他の奴らに夢中になってる間に逃げたらしいな」
「あ、当たり前じゃねぇか!!ボスがいなかったらどうやって俺たちを率いるんだよ!!エアリアはきっと仲間を呼びに行ってるに違いない!!」
・・・こいつのエアリアへの信用は本物。しかし当の本人はあの有様・・・誰かが奴を動かしている?
仕方ない、任務遂行のためにも奴を動かしている人物を探さなければ、一旦奴を生け捕りにするとしよう。
「そうであれば嬉しいな。だが、ここのシステムは既に掌握済みだ。出口は既に塞がっている。残念だが、誰も外には出られない。ここはビーストの研究施設、そう簡単には開けられはしない」
『ズガン!!』
俺はそう言い残すと銃弾を男の頭に撃ち込んだ。
「大体逃走経路は予想がつく、さて、俺の任務は出来るだけ多く殺す事だ。安心しろ、俺はあいつより性格はまともだ。せめてもの情けはかける、死ぬ恐怖を感じる前にあの世に送っておいてやる」
俺は一発一殺という感じで一発の銃弾で一人を確実に殺していった。
「リザ、そろそろ時間だ」
敵はまだかなり残っている、逃げる者もいれば果敢に向かってくる者もいる。10分経って殺したのはまだ合計で100人程だ。あと5分以内に任務を完了しなければいけない。
「そうね、久しぶりに堪能させてもらったわ。ヴォイドちゃんありがとうね、これだけいればこの先もしばらくは暇はしないかも」
リザは一体何をする気だろうか、気になるな。
「さぁ起きて・・・私のかわいいペットちゃん・・・」
ん・・・これは。
「うあぁぁぁぁ・・・・」
「ぉぉぉぉ・・・」
生気のないうなり声がこの建物中に響いた。一つ二つだけじゃない、約100ほどの唸り声。
「な、なんだ!?」
「ひ、ひぃ!!!」
そして続いたのは生きてる奴らの酷く怯えた声。現状を把握できない脳と同時に異常を理解した脳が合わさり、身動き一つとれない状況になった。
そしてその数秒後には、生きていた声は全て断末魔に変わった。
「やめろぉぉぉぉぉ!!
「助けて!!」「いやだああああああああ!!」
殺された仲間が起き上がり、そいつに殺される。
通常とはかけ離れた現実を突きつけられたこいつらは、ろくな抵抗をすることなくただ仲間だった奴に殺されるだけの運命をたどった。
こうなったこの空間に、聞こえる全ての声がうめき声になるのには5分もかからなかった。
「軍を一つ潰せるというのは本当のようだな。まさに地獄絵図だ」
「ふふ、地獄絵図ね・・・私にはここが天国に見えるわ。さてと、どの子を連れて帰ろっかな~♪」
リザは無邪気に死体をころころと転がして選定のようなことをしている。
「後は、奴だけか・・・」
「そうね、場所はもう分かってる。尋問は任せるわ、私だと聞きだす前に殺しちゃうから」
リザもやはり奴の事が気がかりだったらしい、俺は出口へと向かうと案の定エアリアは必死にドアへ向かおうともがいていた。死体に覆いかぶさられ、身動きが取れないにもかかわらず、まだ出口へと向かう手はやめない。
「生きる事に執着するのは悪い事ではない。だが、部下を率いるはずのお前が守らなければいけない部下を見捨て自分だけ生きようとするのは、感心しないな」
「お、お前・・・くっそおおおおお!!」
『ズガァン!』
ん・・・銃か。俺はこの時気が付いた。弾道が見える。極限まで精神を集中させてるからではない。普通に見て反応できた。そして、俺は銃弾を指でつまんで止めた。
「うそ・・・だろ」
「あぁ、嘘じゃないようだな。俺自身もでたらめな存在になっていると言う事か。今ので指の皮がめくれたなんてことも無い。おそらく全身に受けてももう通常の銃弾は俺には通用しないようだな」
この俺を見たエアリア逃げる手を更に早くしじたばたと暴れた。
「聞いてない・・・こんなの聞いてない!!」
「聞いてないか、お前、誰の命令でここの奴らを纏めていた?そうとしか考えられない。言えば楽に殺す、言わなければ・・・そうだな、骨を一本ずつ折るのも悪くない、いや、ちょうど死体がいる。こいつに指を一本ずつ食いちぎられることにしよう」
「ひっ、た、助けてくれ!!なんでも言うから!!命だけは!!そ、そうだ俺はお前らに着く!!それならいいだろ!?」
「お前の答え次第だな、単刀直入に聞こう。お前を操ったのは誰だ?」
「そ、それは知らないんだ・・・電話越しに指示されて、世界を正しく導くための戦いに備えろって、俺はそいつから言われたことだけやってただけだ、人心掌握のやり方もそいつから言われたことをそのまま言ってただけだ。本当に知らないんだよ!!」
嘘はなさそうだ・・・しかし、世界を正しく導く戦い。まるで俺たちを排除する為に戦いに備えていると言っているようだな。東雲・・・いや、奴らではない。あの女は俺たちに恨みはあるようだが、こんな捨て駒のように人間を使いはしない。
むしろ近いのは俺たちだ。使うだけ使って切り捨てる・・・まさか内部にいると言う事か?
「お前のおかげでいい情報を得る事が出来た。感謝しよう」
「じゃぁ!!」
「あぁ、こっちにようこそ」
「あっ・・・」
奴の顔が安堵に満ちた瞬間に俺は引き金を引いた。そうした方が奴にとっても幸せだろう。みすぼらしく生き恥を晒すくらいなら俺たちの糧となって死ぬがいい。お前は俺たちの味方になって死んだんだ。
「リザ、帰還するぞ」
「話は聞いていたわ。麗沢ちゃんに東雲、それに加えて内部裏切りか・・・ますます面倒になるばかりね」
「あぁ」
帰還
「・・・であって指導者、エアリア ソルティは死亡。他の戦闘員も殲滅した」
俺はジョシュに通信を入れ帰還報告を行っている。
『よくやってくれた。リザとヴォイドに任務を指名しておいてよかった。そして裏切り者の可能性についても報告感謝するよ、この件は上に掛け合って、と言いたいが・・・』
「どうかしたのか?」
『ディエゴが妙な事を言っていてな。少し気がかりなんだ・・・詳しくはまだ知らないが、昨日のあの二人、特にアンディについて疑問が残ることがあってな、アンディ ジョンソンって奴はちょっと前に殉職したことになってるんだ』
「なんだと?」
『そんでそのすぐ後に同姓同名の奴がここに入って来てるって事になってる。これは単なる偶然か、それにもう一つ気がかりなのはこれはまだ断定するには早すぎるけど、タイプラプターが現れたのはどっちもアンディがいた場所なんだ』
言われてみれば、最初に遭遇した時、取り逃した直後に奴は現れた。そして二度目は・・・まさかアンディが裏切り者だというのか?しかし奴はタイプラプターに襲われ・・・いや、自らを襲わせたのか?
『とは言ってもいきなり仲間を疑うのも良くない。今はディエゴからの情報を待つことするか』
「それもそうだな」
『今日の任務は流石に骨が折れただろう。今日はもうゆっくり休んで明日に備えてくれ』
「そうすることにしよう」
俺が部屋に戻るとキャロットは既に部屋にいた。そしていつものように頭に乗ってくる。特に変わったことはない、いつもの感じだ。