ミッション5 タイプラプターとの遭遇、討伐せよ
ブリーフィング
東雲組幹部捜索任務にて異常が発生、マザービーストが出現した。このマザービースト、仮にタイプラプターと命名、は、声による攻撃により通信を遮断。本部と連絡が取れなくなった。
タイプラプターは更に我々に対し攻撃を開始。任務の続行が困難と判断した。
よってこの状況を打開するため、東雲組幹部と一時協力し、タイプラプター討伐任務へと任務を変更する。
セレス 裏路地
「キャロット、奴の匂いを覚えておけ、仮に逃げられた場合お前の鼻なら追える。そしてもう一つ、離れるな」
「きゅふ・・・!」
キャロットは俺の動きに支障が出ないように首の後ろに引っ付いた。
「随分と可愛いの連れてんな。キャロットって言うのか?」
「お前には関係ない事だ。今はタイプラプターに集中しろ」
「むしろ俺っちはあのバケモノよりもそっちが気になるけんどなぁ」
『クギギギギギギィ』
「来るぞ」
タイプラプターは素早い動きで俺たちに襲い掛かる。同時に散開しM4を向け銃弾を連続で撃ち込む。女も気に乗じて、大口径のハンドガン、ハードボーラーを何発か撃ち込んだ。
「ちっ!!効いてねぇ・・・あいつ、さっきも思ったが皮膚が固ってぇ。弾丸が表面で止まってやがる」
女の言う通りだ、先ほども思った事。俺のサブウェポンは9ミリ弾だそれを至近距離で放ったにも関わらず、タイプラプターはのけぞる事もなく少し血を流しただけだ。
そして奴はマザービースト、ほんの数秒で完全に完治する。
「ならば・・・」
俺はタイプラプターに向かっておもむろに走った。
「おい、突っ込んでどうすんだぁ?」
「こうする」
俺はタイプラプターの顔面を殴り飛ばした。いくら固くてもこんだけ殴れば、完全覚醒者ですら脳震盪は起こす。
『ギ ギギィ』
よろめいた。今だ。俺はゼロ距離で弾倉の弾を一気に脳天に撃ち込んだ。
「リロード!!カバー!!」
「あいよ!!」
「任せな!!」
子供は替えのマガジンを俺に投げた。それと同時に女が弾倉をフルにしたハードボーラーを一気に撃つ、後は奴の心臓を撃ちぬく!!
俺はM4のマガジンを空中でそのままキャッチ、薬室まで装填、一気に撃ち尽くす。
『ズガガガァン!!』
「お、やったか?」
タイプラプターは動かなくなった、しかし・・・
『グギガガガッァァァァ!!!』
「んぐっ・・・まだ。駄目なのか」
奴はしばらく動けなくなっただけだ。またあの声で俺たちの動きを封じている。
そして即座にタイプラプターは体勢を立て直した。
「ちっくしょったれ・・・どんだけ固ぇんだよ、スティンガーがあれば・・・」
「こんな事ならロケランの一つでも持ってこりゃ良かったかなぁ。生憎俺っちは今・・・だぁー仕方ない!!ここは俺っちに任せな!!」
子供の方が立ち上がった。そして腕に何かを装着した。
「なぁ兄ちゃん。これの事だけは絶対に言うなよ?こまっちゃんも!『おーばーてくのろじー』ってやつでんね、これが俺っちの真の専売特許さね!!プラズマキャノォォォン!!」
「何!?」
子供の腕から激しいスパークが放たれ、巨大な電撃の玉がタイプラプターに向かって飛んだ。玉は見事命中、タイプラプターをいともたやすく吹き飛ばした。
「な、すっげぇ衝撃波・・・」
「だが、あれならば・・・」
「最大出力、これなら流石に・・・って、ぇえ!?」
あれは・・・確かにあのプラズマキャノンの威力は計り知れないほどのパワーがあった。貫通力だけならば対戦車ライフル以上だろう。だが、それでもタイプラプターの心臓に達するにはまだ威力が足りないらしい。
「くっそー、敵に奥の手見せても駄目なのかよ。俺っちショック・・・」
『ググギィ』
「あ!逃げた!?」
「マズイ、キャロット追えるか?」
「きゅふふん!!」
よし、これならば逃がしはしない。後は市街地に奴を出る事を阻止すればいい。ビーストが街中に現れるという状態は、奴らの実験でもない限り避けなければいけない。俺はタイプラプターを追った、
「きゃる!!」
「そこを右だ!」
「おいあんた、そのウサギみたいな奴の言ってる事分かんのか?」
「いや、だが大体予想がつく。それだけだ」
「どうやら本当だねぇ、このレーダーにも反方がはっきりある。市街地に出られる前に片づけるぜぃ!!」
流石に早い・・・先回りするしかない。
「おい、ここの地図はあるか?一瞬でいい。見せろ」
「おい?そんなんで・・・」
「俺を舐めるな。いいから見せろ。お前も奴を市街地には出したくないだろう?」
「わ、分かったよ・・・ほい」
理解できた。これならば俺は右に行けば挟み撃ちに出来る。
「キャロット、お前はその女と共に直線で後を追え。そして子供、お前は俺と右から攻めろ、そうすれば挟み撃ちだ」
「考えてる余裕はねぇな、了解だ」
「頭いいねぇ、回転も早い。敵ながら天晴!!」
「どうでもいい、少しでも遅れればアウトだ」
俺と子供は右から攻めた。
「お!!こりゃドンピシャ!!行けるぜい!!」
これで終わりだ。俺は手りゅう弾のピンを抜いた。一つだけ持ってきていたんだ。いくら皮膚が硬くても内側からならば確実にやれるはずだ。
「行っちまえーーー!!」
俺は角を曲がり手りゅう弾を振りかぶった。
「何だと!?」
「うおぁ!?」
だが、タイプラプターの姿はどこにもなかった。代わりに女と出合い頭に衝突しかけた。
「きゅぅ?クンクン・・・きゅらら?」
「あり?反応が・・・消えてもうた」
タイプラプターの姿はきれいさっぱりどこにもなくなっていた。
「奴はどこに行った・・・」
「地下に潜った・・・は、ねぇな。小型だがここのマンホールの入るような小ささは無かった。完全に消えてやがる」
女の言う通りだ。完全に消えている、隠れる場所などどう考えてもここにはない。そして街中に逃げられたかと思ったがそうでもない。悲鳴の一つ聞こえない。
「俺っちに追跡できないなんて、なぁ兄ちゃん、本当に何も知らないんだよな?」
「あぁ、俺に与えられた任務はお前らを連れていく事、それ以外は何も言われていない」
「その言葉に嘘はなさそうだな・・・実際奴はあんたを襲った、それが証拠か。で、どうするんだお前?」
「任務再開だ」
「え~、やっぱりなの?こ~んなに協力したってのに?」
子供は嫌そうに俺を指さした。任務は任務だ、お前らの事情は俺には関係のない事。
「ヴォイドさん!!」
「お前は・・・アンディ?何故ここに」
あいつ等が俺と対峙しあっていたその時、聞いたことのある声が聞こえた。フルフェイスマスクを付けたこの男、アンディ ジョンソン。
「何故お前が?」
「別任務ですよ、先ほど凄い大きな音が聞こえてましたが、あれは・・・それにマズいです。さっきの騒ぎで野次馬が様子を見に出てこようとしてます。ここは退いた方がいいのでは?」
お前が来なければ来る前に任務完了できたんだがな・・・まぁ、責めても仕方がない。
「おい、ここは俺の任務失敗と言う事にしておいてやる。さっさと行け」
「お!物分かりいいじゃん!お言葉に甘えて~、サラダバー!!」
子供は寒いギャグを述べて去っていった。
「おいあんた、一つだけ言っておきたいことがある。東雲は争いを望まない。だが、うちは、うちだけは、お前らを絶対に許さない。必ず復讐するとボスに伝えておけ。ディエゴ アンダーソンにな」
「言う義理はないが、まぁいいだろう」
俺たちと、女は同時にここから姿を消した。住民はここに誰がいたのか知る由もない。
帰還
「報告、東雲組幹部捕獲任務は、セレスにおいて女性の幹部を発見、抵抗を受けたため戦闘を開始した。その際武器職人である子供とも遭遇、両者を捕らえようとしたが、その際、ビーストによる襲撃を受けた。ジョシュの話のよれば反応はマザービーストの事。仮にタイプラプターと名付けたビーストはこちら側にも攻撃、仕方なく東雲組幹部と一時協力しタイプラプターの討伐を試みるも、奴は突如姿を消した。
その後アンディと合流、東雲組幹部捕獲任務は失敗に終わった」
「報告ありがとうねヴォイドちゃん、それにしても無事で良かったわ。ジョシュから連絡が取れなくなったって聞いた時は焦ったわよ。しかし・・・小型のマザービースト、タイプラプターか、初めて聞くわね」
俺は帰還したのち、リザに任務の報告をした。この反応からするにリザはあのビーストの事はやはり知っていないようだ。
「お前たち完全覚醒者も知らないのか?」
「少なくとも私はね。もしかしたら他の連中が何かやったかもしれないけど、マザービーストを使うような実験をするのは考えにくいのよ。それにそのタイプラプターってのがマザービーストとすると、その素体となった人間は誰なのかって話になってくるのよね。覚醒に失敗した事例は最近聞かないし・・・」
リザは真剣に考えている。どうやらかなり気がかりのようだ。
「これはディエゴに言った方がいいわね。それはそうとヴォイドちゃん、東雲に関してはまた後日任務を与えるわ。今回の事で東雲は警戒を強くしちゃったからね」
「済まない、俺の不手際だ」
「いいわよ謝らなくても。まだここに来て不慣れだろうし、立て続けに予想外の事が起きてるもの、私やディエゴでもこれは無理だったわ。気にしなくていいわよ」
リザはこう言っているが、俺はここに来て任務を三度ミスっている。一つは麗沢 弾の異常な幸運により逃がし、二つ目はカールに隙を突かれ自害させてしまった。そして今回の件。任務を失敗してしまうという感覚は逆に新鮮だったが、そろそろ挽回したい。
俺は廊下に出た。するとそこには申し訳なさそうにアンディが立っていた。
「あ、ヴォイドさん。すみませんでした、俺が余計な事をしたばかりに任務失敗させてしまって・・・」
こいつもこいつで、任務を失敗させてしまったことを後悔しているのか。
「謝る必要はない、任務失敗は余裕をかましてイレギュラーに対応できなかった俺のミスだ。むしろ初心を思い出したいい機会だ」
「そ、そうですか・・・」
「それはそうと、何故お前あの時一人でいた?一般兵には単独任務は与えられないはずだ」
一つ気がかりだったのはあの時、アンディは一人でいたことだ。外に出る任務の場合不測の事態を備え最低二人で行動する。
「実は、同行してた奴は先に帰りまして、俺はちょっとやりたいことがあって残ってたんです。そこにあの騒ぎが聞こえまして・・・」
「そう言う事か、だが一人で残るのは危険だ、タイプラプターがお前を襲っていた可能性もあるからな」
「そうですね・・・仲間にも伝えておきます」
ただでさえ今は不測の事態が立て続けに起こっている。これ以上の面倒は正直起こされて欲しくない。面倒と言えば・・・
「おー!!ヴォイドさん!!いい所にいました!!」
口にも出していないというのに・・・どこから湧いて出た。うしろからサンチェスが探してましたと言わんばかりに現れた。
「今度はなんだ・・・」
「実は、また道に迷ってしまいまして・・・ここに行きたいんですが・・・」
「あ、そこなら俺も行くところだ。案内するよ」
ふぅ、丁度良かった。これならこいつに任せればいい。
「は、はひ!!あ、せ、先輩・・・い、いらしてた の、のですかか?」
良くないな、相変わらずの人見知りが発動した。アンディは先輩だったのか。
「マリアは相変わらずだな・・・付いてきて」
アンディはサンチェスを連れて目的地に向かっていった。
「どうして奴は俺以外だとああなるんだ・・・ん?」
俺は少し気になった。サンチェスの後ろ姿、まるで常に警戒してるようだ。何かに怯えている、そんな感じだ。しきりに周りの人間と目を合わせないようにしている。
「きゅう?」
「キャロット、気になるか?」
キャロットもその姿を見て、カバンから顔を出し首をかしげた。