ミッション3 街中の偵察任務、情報を入手せよ
ブリーフィング
『ヴォイド、今回の任務は戦闘ではない、前回の任務で明るみに出た東雲組についてだ。奴らはセレス郊外に拠点を持っているとみられ、その近くに位置するセレスティアルオブルピナスにて東雲組の一員と見られる者の情報を手に入れた。君はセレスに向かい、東雲組についての情報を手に入れてほしい。そして昨日も話した通り、今回も別の人物が同行する。彼女の護衛も君の任務だ。
なお今回は一切の戦闘を禁止する。武器は最低限のナイフのみ許可、服装も現地に合わせる事』
今回の任務は偵察、というより潜入捜査と言った方がしっくりくるな。
俺は自室に戻り着替えを始めていた。しかし服装か・・・どんな服を着ればいいのか。迷彩服しかないぞ・・・
「ん?そう言えばキャロットがいないな。どこだ?」
いつもなら部屋に戻るなりやって来るキャロットがいない。どこかうろついているのか?
『コンコン』
部屋のドアがノックされた。
「すみませんヴォイドさん。今いいですか?」
ん?この声は確か・・・俺はドアを開け外に出た。
「しっかりと話すのは初めてでしたね、私、静也丸 峰子って言います。ここではシィズ・ナナと呼ばれています」
確か完全覚醒者の一人、リザやジョシュの話では武器の扱いに関するエキスパートだったな。
「ヴォイドだ。一体何の用だ?」
「いや、この子がここに呼んだの」
シィズの目線の先にはキャロットがいた。
「きゃる!!」
キャロットは俺の元に飛んでくると、俺の周りを飛び回り、しきりに指を指す。
「どうしたんだ?一体・・・」
「・・・ねぇ、今日のあなたの任務ってセレスに行くんだったわよね」
「あぁ」
「もしかしてその格好で行くの?」
俺の今の服装はTシャツに下は迷彩だ。
「問題あるのか?」
「えぇ大ありね、その服装でセレスはないわ・・・あ、まさかキャロットちゃん、ヴォイド君のファッションが悪いから私を?」
「きゃるん!!」
キャロットは大きく全身で頷いた。服装・・・駄目なのか。
「へぇ~、すっごい賢いのねー。よし!!私に任せなさい!!あなたに一番のを用意してくるわ!!」
そう言うと凄い速さでシィズは去っていった。
「服装・・・か、そんなもの考えたことも無かったな」
「あ、どうもです!!」
少し考え事をしていたら、後ろから声をかけられた。この声は聞き覚えがある・・・
「お前は・・・」
「えっと、メモはどこに・・・あった!!ワタシハ、マリア ジャスミアーノ サンチェストイイマス、アナタガ、ヴォイド ロドリゲスサンデスカ?」
こいつはメモを取りだし、片言で聞いた。
「あぁ、まぁ、そうだが・・・」
「そ、そうだったんですか~、はぁ~良かった。偶然集合場所が見つけられて、丁度そこにこの間のあなたがいたものですから。いや~、今日の仕事やっとほぼ同期と同じ人とやれるわ。」
「まて、お前の任務はまさか・・・」
「ちょ、任務って・・・セレスの調査じゃないですか。異世界の住民の生活を観察できるいい機会ですよ。一回これやってみたかったんですよね~。ここじゃ外は崖ばっかだし」
間違いない、こいつだ。同行する方向音痴はこの女だ・・・そして一言いいか、集合場所はここではない。
「それよりも、その格好で外に出るって事は、お前覚醒者なのか?」
「え!?いやいや、そんな訳ないじゃないですかー!!」
見るとこのサンチェスの服装は大きな白い帽子に、カーディガンとワンピース。どう見ても休日の外出する女性の格好だ。
「普段外を警備してる人はヘルメット被ってますけど、こういった調査の仕事の時は周りと同化させるために特殊な防御シールドのあるこの服を着るんです。あ、この服はたまたまここに戻っていたシィズさんに作ってもらったんです。あの、に、似合いますかね・・・」
サンチェスは照れくさそうに俺の意見を求めた。悪いが知らん、
「そう言えばさっき、シィズが俺の服をと言って走っていったな・・・ん?噂をすれば・・・」
丁度その時シィズが戻って来た。
「お待たせ!!って、あら?サンチェスちゃんよくここが分かったね。集合場所はあっちだけど、まぁいいわ」
「へぇ!?こ、ここではないのですか!?」
あぁ・・・やっぱこいつが、任務に同行するのか・・・
「あ、また迷ってたのね・・・まぁいいわ、さてと、ヴォイド君これを」
俺はシィズから服を手渡された。俺は早速これに着替えた。
「うん!!やっぱガタイの良いあなたにはキャップとサングラスが似合うわね!!」
ぬ・・・、このスキニーとか言うやつ、動きずらい。足が締まる・・・
「よし!周りから見ればいい感じのカップルってとこね!!では行ってらっしゃい!!」
さて、ようやく任務開始か・・・ん?
「カップル・・・もしやこれは今まで出会いの無かった私のチャンスなのでは・・・顔はそこそこ悪くないし。筋肉質すぎるのを目をつぶれば」
「キャロット、行くぞ」
「きゃる!!きゅふん」
「珍しいな、肩に乗るなんて」
何故かキャロットは俺の肩に乗って来た。
「はぅあ~・・・」
なんだ?
・
・
・
・
セレス
「おー!!これが外というものですか!!いいですねぇ!!」
サンチェスははしゃぎまくっている。あまりのはしゃぎっぷりにあのキャロットが引いてるぞ。
「俺たちの任務は調査だ、観光ではない」
「えー、少しくらいいいじゃないですかー。お!!あれは!! なんでしょうか!?」
オレンジだ。どこからどうみてもオレンジだ。異世界だがこれはオレンジ。
「お前、どれだけ出たかったんだ・・・」
「あの、少しよろしいですか?」
俺がサンチェスの行動を見ていたら声をかけられた。恐らくここに観光に来たであろう老夫婦だ。
「どうされました?」
「カメラを撮ってほしいのですが・・・」
「はい、構いません。どこを背景に?」
俺は老夫婦の依頼に応え写真を撮った。
「あら上手ねぇ、もしかしてプロの方かしら?」
「いえ、私もただの旅行者です。それよりも一つ聞きたいのですが、ここで最近東雲組という名を聞いたことがありますか?」
「しののめ・・・さぁ聞いた事ありませんねぇ。おじいさんは?」
「儂もさっぱりじゃ」
「そうですか、ありがとうございます」
観光客は知らない・・・やはりここに在住している者しか分からないか。
「ところで彼女さん、あっちの方へ行ったが大丈夫か?」
「ん?」
気が付けば・・・いない。
「くっ・・・あの野郎。ご老人、感謝いたします」
俺は痕跡を辿った。マズイな・・・ここはマルシェのような場所だ。人が多い。
「キャロット、分かるか?」
「きゃる!!」
キャロットはカバンの影から俺に指示をだす。どうやら匂いはちゃんと覚えていたらしい。
そして見つけた。
「おい、何をしている」
「あ、ヴォイドさん。いや・・・あの」
サンチェスはじーっと店のパンを見つめていた。よだれが垂れている。
「覚醒者以外がこっちのものを食べればどうなるか知っているな?」
「は、はい・・・」
覚醒者以外がもしここのものを食べれば、覚醒第一段階に入る。異世界の空気を吸うと同じだからな。
「それに勝手に消えるな」
「え、さっきのあそこからそんなに動いてないはずですよ?ちょっとパンの匂いに誘われて・・・って、あれ?ここどこ?」
はぁ・・・食い意地が張ってると言うか。こいつは一つ気になったら周りが見えなくなるタイプだ。だから自分の立ち位置を記憶できず。周囲の状況を観察できない。それに加え、純粋に地図を見るのがへたくそだ。何故90度傾けている。それにしてもパンの匂いでよくここまで来れたな、こいつの鼻はキャロットレベルか。
「というか、お前の任務は何なんだ?」
「私のですか?私は異世界の食文化の情報収集ですね。この世界ではどんなものを食べてるのかとか、あれ?言ってませんでしたっけ。私の仕事、基地の外で仕事する人の為の料理開発してるって」
あの缶詰か。以前の任務では世話になったな。
「ところでヴォイドさんの仕事って?」
「大して変わらん」
さて、気を取り直してと・・・東雲組の事を知っている奴はどこか、一番はやはりバーか?『居酒屋』と書いてあるが、ここが一番よさそうだな。
「済まないが俺はここに用事がある。ついてこい」
「え、入るんですか!?駄目ですよ、ここの世界のは食べちゃいけないって言われてるんですから!!」
こいつ、俺が覚醒者って気が付いてないのか・・・そう言えば、人と話すのは苦手と言っておきながら俺には馴れ馴れしいのは、俺は後輩か同期という感覚だからか。仕方ない、合わせるか。
「ふりをすれば問題はない」
「そ、そう言うものなんですか?」
「そう言うものだ、とにかくここでなければ俺は仕事が出来ん。そしてまたお前が消えられるのも困る、一緒に来い」
俺はサンチェスの腕を引いて店に入った。そしてカウンターテーブルに着いた。
「らっしゃい、なんにするんだ?」
「そうだな・・・焼酎?こんなバーでか・・・」
「そりゃ焼酎ぐらいどこでもあるぞ、あんたらどんな田舎から来たんだい」
「そりゃもうこんな居酒屋なんてないとこだ、じゃあ焼酎を、彼女には水を頼む」
「あいよ」
さて、任務を始めるか・・・
「はい、水だ。っておーいじょうちゃーん」
「ひぃやあい!!?」
隣を見るとサンチェスはガチガチに固まっていた、そしてがったがたな手で水をこぼしながら受け取っていた。
「ま、マコトニ あ、リガトウゴザイマシュ!!」
ここまでくると異常だな。まぁいい、こいつは今他の声も聞こえない程テンパってるみたいだ。
「なぁ、最近ここらへんで東雲組って奴らを聞いたことがあるか?」
「東雲だと?」
僅かに反応を示した・・・ビンゴだ。
「いや、知らないな」
「以前、野盗に襲われた時、その者たちに救われてな。礼を言いたいと思っていたんだ。だから噂を頼りにここまで来たんだが・・・」
これならどうだ、俺の予想が確かならば野盗たちと東雲は敵対している。
「・・・そう言う事か、ここだけの話にしとけよ。最近ここらの治安が悪化してきな、そんな時突然現れた自警団隊が東雲組って言うんだ。誰が組織してるのかとか、拠点はどこかとかは分かんねぇけどな。俺の店も強盗が入られたときたまたま東雲の奴がそこにいてな。滅茶苦茶な強さで強盗をぶっ倒したんだ」
「へぇ、それはどんな人でした?」
「一見すると綺麗な女の人だぜ、見た感じ二十代前半だ、けんどなぁ」
男は鼻の下を伸ばしていたが、その後妙な顔になった。
「どうしたんだ?」
「顔に傷があるんだよ、あれさえなければモデルレベルだ。そんでもってあの変わった武器だな」
「変わった武器?」
「あぁ、回転式拳銃は知ってるだろ?なんかそれに似てるんだけど、それにしては四角い箱を組み合わせた感じしててな、それをバンバン!!ってな」
オートマチック拳銃だと?この世界ではまだリボルバーが主流だ。オートマチック型は坂神 桜蘭という男が使うものしか現在は存在が確認されていない。
この世界でまだ作られていない武器を使う女か・・・これは怪しいな。
「あ、そうだ。そいつはここのどこかで同じく居酒屋経営してるって聞いたことがあるぜ。ま、とは言っても基本は店にいないらしいけどな。
ともかくあんた、礼を言いに来たのはいいが、東雲の連中は表立って行動する様な連中じゃない、基本陰で動く連中だ。下手に深追いしちまうとせっかく助けられたのに逆に殺されちまうかもしれねぇ。東雲探しはやめて普通に観光していった方がいいぜ。せっかくここまで来てんだからよ」
「そうですか、そうした方がよさそうですね。ごちそうさまです。おつりは結構ですので」
俺は焼酎を飲み干し、サンチェスの襟を掴んで外に出た。
「っは!!私は何を!?」
「どんだけ緊張してるんだ、そろそろタイムリミットだろ?」
「あ、そう言えば!!早いとこ帰らなきゃ!!」
「一人で走るな、あと三十分はある。問題ない」
「は、はい・・・・」
帰還
流石にこの短時間ではこれぐらいしか情報は得られなかったか。覚醒者以外が外に出る場合、特殊な防護服を着る必要がある、だがその防護服で外を活動できる時間は限られる、フルフェイスヘルメットのやつで24時間、そして今日サンチェスが着ていた服の場合は5時間ほどしか持たない。それ以降は機能を停止してしまう。
サンチェスは帰還するとこいつの上司が待っており報告をしていた。相変わらず緊張しているが、流石に先ほどのレベルではない。ん?あの上司、どこかで・・・
「お帰りヴォイドちゃん、デートはどうだった?」
「非常に疲れた。奴との共同任務は出来れば避けたい」
俺の方にはリザが来ていた。からかっているのだろうが、その程度では動じん。
「あの子、技術力はトップレベルでそれでここに引き入れたんだけど、どうにも人見知りが激しいのよねぇ・・・」
「それはどうでもいいが報告だ。セレスで東雲組との接触は出来なかった。だがどうやら東雲組が例の兵器技術に一役買っているらしい。話によれば東雲組の一員と思われる顔に傷がある女性がオートマチック拳銃を使用していたとの事だ」
「成程、オートマチックはセブンスイーグルのみなのよね、まさか三上ちゃんがまだ何か策を?」
「三上?誰だそれは」
聞いたことのない名だ。この感じ、今回の件と関係があるのか?
「あなたがここに来る原因となった子ね。私たちの存在と引き換えにもう死んじゃってるけど、あの子の計算高さは凄いのよ。うちのボスのディエゴやビリーですら一目置いてたくらいだからね、もしかしたら今回も関係が?って思ったの」
ディエゴか・・・ビリーという男にはあったことが無いが、完全覚醒者共の話にはたまに聞いている。基本この世界を見下し気味なこいつらが認めているというのは、相当の手練れだったと言う事か。
「だが断定するにはまだ早いだろう」
「そうね、報告ありがと。それにしても顔に傷のある女性か・・・それだけ情報があれば割と絞り出せるかも。明日あたりには結果が出ると思うわ」
リザはそう言うと姿を消した。