ミッション2 戦闘能力を把握せよ
ブリーフィング
『ヴォイド、次の任務は更に外に行ってもらう。移動はハイパーループを使うといい。場所はセレスティアルオブルピナス郊外。そこにいる人物の抹殺、それが今回の任務だ。
ターゲットの名前はカール スープストック。こいつはどこかからか我々の噂を聞き付け、野盗を集め、基地への侵攻を企てている。こいつの人心掌握術はかなり高い。こいつの元に野盗が集まれば少々厄介だ。その前に奴を倒してくれ』
「了解した」
『そしてだ、済まないけど今回、君の戦闘データの収集をしたいんだ。そこで一人同行させたい。良いか?』
「・・・まぁ、邪魔にならないような奴ならな、作戦に支障を出すのならば排除する事もやむ終えぞ?」
『その点は問題ない、彼はかなり優秀だ。俺が保証する』
「分かった、では任務を開始する」
・
・
・
「初めましてヴォイドさん、俺はアンディ ジョンソンって言います。お噂はかねがね」
「あぁ、だが一つ聞いていいか?何故フルフェイスのマスクなぞ付けているんだ?」
俺は顔の見えないアンディに質問した。
「あ、俺は覚醒者じゃないんです。零祖細胞を少しでも吸い込むと、体は覚醒の第一段階に入ってしまいますから、覚醒者以外が外に出る時はこれを付けるように言われているんです」
そう言う事か、吸い込んで一月以内に覚醒の第二段階に行かなければビーストへと変貌する、そう言っていたな。
「では行くぞ、くれぐれも邪魔はするな」
「分かってます。でも、世界最強の兵士の活躍を生で見れるなんて光栄ですね」
俺は無視して現場へと向かった。
・
・
・
セレス 郊外。
「キャロット、聞こえるか?」
「きゃる!!」
キャロットの反応を見る限り、前方の廃墟となった建物内にターゲットがいるようだな。
「あの、ヴォイドさん、その生き物は?」
「キャロット、待っている間少し遊んでやれ」
アンディはキャロットを物珍しそうに見ていた。俺は双眼鏡を取り戻した。
「奴はどうやら建物のかなり奥にいるな・・・周囲に見張りを立て護衛させている。まるで王様だな」
「そうですよ、あいつはここら一体を仕切ってるんです。ここの野盗たちを得意な話術で引き入れのし上がってきている。そしてここに住む住人から他の野盗から守る為の護衛代とか言って、食料とかを奪っている」
アンディは手に力を込めて熱く語っている。そうは言っても俺らも人の事は言えない感じなんだがな・・・こいつは何も知らないか。めでたいな。
「しかしもうこんなに集めてるなんて・・・どう狙撃するんですか?」
「・・・アンディ、俺が何故スナイパーという役割をやっているか分かるか?」
「え?あなたの狙撃能力は2キロ離れた相手にも当てると聞いております。そんな卓越した能力を持ってるからなのでは?」
「確かに、俺は2キロ先の相手でも当てる事は可能だ。アンディ、俺の戦闘データを取りたいのならよく聞いておけ、俺が最も苦手のしているのは狙撃だ」
俺はそう言い残し、ライフルをここに置きこの場を去った。
「え、どういう!?」
見てれば分かる。
俺は物陰に隠れながら先に進んだ。キャロットは遠くから大人しく見ている。
敵兵の動き、かなりピリピリしているな・・・本当に僅かな動きでも感知しそうだ。だが何故そこまで?俺は陰に隠れ、会話を聞いた。
「東雲の奴ら、どうやら俺たちの事を探ってるらしい、今日は特に警戒しろよ。アレがようやく手に入ったんだ。いつ奪いに来るか分からねぇ」
「あいつ等どこから情報を仕入れてるんだ?アレの情報は俺たちしか握ってねぇだろ・・・」
どうやらこいつらは何かを手に入れたようだな。それを奪われまいと警戒を強めているのか。しかし、東雲、前の任務でもその名を聞いたな。何者だ?
「俺たちの中に裏切り者・・・ん?誰 ぐぁ!」
「く、敵!!ぐ・・・ぐぅ・・」
俺は二人を一気に締め堕とした。早いとこ任務を遂行しないとな・・・例の東雲もここを狙っている可能性がある以上、奴らが来る前に任務を終わらせる。
「ジョシュ、一つ聞きたい」
『ん?どうした?』
「東雲とは何者だ」
『東雲というか、東雲組だね。奴らはここのフロンティア一帯に最近できた自警団だ。こっちにもまだ詳しい情報はないんだけど、どうやらかなりのやり手集団みたいだ』
「だろうな、ここの奴らの異常な警戒心はその表れだ。そしてだ、ここの奴らは何かを手に入れているらしい、回収するべきか?」
『その必要があるかもね、もしソレが東雲組に渡っても後に面倒になりかねない。ヴォイド、済まないがカールの抹殺に加え例のソレの回収を頼む』
「了解だ」
俺は通信を切り、先へと進んだ。敵兵から情報を仕入れていくとしよう。
「グゥア!」
一人の敵兵を捕らえ、叫ぶ前に口を塞ぎナイフを喉元に突き付けた。
「貴様らは何を持っている・・・」
「て、てめぇ東雲組か・・・」
「お前の質問に答える必要はない。俺の質問にだけ答えろ、貴様らの手に入れたモノとはなんだ?」
こいつはしばらく口を閉じていたが、俺が少しナイフを押し当てると観念して吐いた。
「こ、高性能型ロケットランチャー・・・敵を感知し、自動追尾する携行型の兵器だ」
なんだと・・・ここの世界にはまだ、そんな兵器は存在しないと聞いている。俺はこいつを締め堕としジョシュへ連絡を取った。
「聞こえるか?」
『聞こえている、しかしどういう事だ?自動追尾ロケットランチャーだなんてどうやって開発したんだろうか・・・』
「ここの情報が外に漏れている、と考えた方がいいのか?」
『いや、逆にその線が消えたと言えるんだ。カールはどこかからか組織の情報を手に入れていた。だから当初は裏切り者の可能性を感じてたんだ。その為に君をこの任務につかせた。だけど、その兵器技術はあり得ないんだ。
ここには君のような覚醒者や完全覚醒者がいる。その影響で組織内の兵器は最低限のものしかない。スティンガーミサイル的な誘導兵器はこの世界には存在してないんだ』
そう言えば見回りの警備員などの装備、かなり古かったな・・・リザも言っていたか、技術開発に予算が回るから兵器や防衛費はほとんどないと。
『ヴォイド、作戦変更の指示だ。君への任務はその誘導兵器の奪取、そしてカール スープストックを生きて捕らえろとの事だ』
変更の指示、出すのが早いな・・・まぁそちらの方がこっちとしてもやりやすい。殺した後でやっぱ生け捕りでしたの任務失敗は腹立たしいにもほどがある。
「変更の指示、了解だ」
さて、まずはカールを探すとしよう。
俺は先ほど双眼鏡で見た建物の内部に潜入した。警戒がより厳重になっている。
「よし、例のアレはあいつの元に届いた。これがあればあのクレーターの奥へ行けるって訳だ」
ターゲットと兵器は同じ場所にあるか・・・そしてクレーター、俺たちの基地は巨大なクレーターの内部にある。すぐにでも行動を開始しそうだ、急いだ方がいい、少々荒っぽいが・・・
俺は物陰から飛び出した。
「んな!!誰だ!!」
敵が質問する前に俺は敵を投げ飛ばし、気絶させた。そして一気にカールがいると思われる部屋へと入った。
「お前が、カール スープストックか?」
「侵入者?大分警戒していたつもりだが、よくここまで来れたな」
目の前には堂々と椅子に座っている男がいた。急な襲撃であるにも関わらずこの男は冷静に俺を見た。
「お前はどこの手のものだ?その服装、東雲という訳ではないようだ」
「答える必要はない、俺の任務はお前を連れていく事だ」
「そう慌てるな、俺としてもそう簡単に捕まりたくはない。もし動けば即座にこれを撃つ。俺もお前もただでは済まない」
カールは俺が動き出す前に、傍にあるあるものをちらつかせた。
「そいつは・・・FIM-92 スティンガー、何故こんなものがここに」
誘導ロケットランチャー、通称スティンガーミサイルと呼ばれるものだ。
「知りたいか?こいつはある人から貰ったのさ、技術だけだがね。それを元にこの世界で開発したのさ」
「まて・・貴様今この世界と言ったか?」
この男、知っているのか?別の世界があると言う事を・・・
「さしずめ君の正体も、クレーターの先から来た存在、ってところだろう?」
「お前、何者だ?」
「俺は生まれも育ちもここの普通の奴だ、だが、ちょっと他人より物事を知っているだけの、東雲組のカール スープストックだ」
東雲組?こいつは、そう言う事か・・・
「お前、俺たちをおびき出す為にわざと目に付く行動に出たな・・・」
「そう言う事、本当に引っかかるかは半信半疑だったが、やはりあいつの言葉は信用できたな。察しの通り、俺がここで野盗を集めたのはお前らを探し出す為に芝居を打ったわけだ。そして上手くいった。後は、お前を捕らえれば俺の任務は完了だ。
さっき言っていたな、俺を捕らえるのが任務だと、さぁてどっちが完遂できるかな!?」
カールは椅子を蹴飛ばした。俺はそれを払いのけた時、既に奴は俺の懐まで入り込もうとしていた。俺は体勢を沈ませ同時に奴の突っ込む勢いを外に弾き、投げ飛ばした。
「やるな」
投げ飛ばしたのは良いが、カールは受け身を取り、すぐさま体勢を立て直した。
・
・
・
「お前、中々やるじゃないか・・・」
こいつの近接攻撃、かなりのやり手だ。
「近接戦闘でここまで持ちこたえたのは、お前が初めてだな・・・」
「それは光栄、だが流石に時間をかけすぎたようだ」
その時、部屋のドアが勢いよく開けられた。野盗共がここでの騒ぎを聞きつけやって来た。
「てめぇ、さっきはよくもやってくれたな!!」
「やっちまうぞオルァ!!」
「俺の任務は、お前を連れていく事でもあるが・・・別の任務もある。俺の戦闘データを測る、それが任務だ」
「なに?」
「この状況は好都合だ」
俺は精神を集中させ、一気に放った。
「ぐ、な、なんだこりゃぁぁぁ!!」
「あっつ・・・つ、つめたい・・・」
次々と野盗は倒れていった。冷気の炎、熱くも冷たい、この魔法が人体に燃え移ると、その肌は一気に腐りまるでミイラのようになっていった。そして正面を見ると、カールは初めて表情をこわばらせた。
「複合魔法、まさか・・・覚醒者を送って来るなんて・・・」
「終わりだ」
俺は冷気の炎をカールに放った。もちろん殺す気はない、手足を動かせなくするだけだ。
「ぬぐ!! くそ、やっとお前らに近づけたと思ったのに・・・いや、まだだ!!」
カールは力を振り絞ってロケットランチャーに手を出そうとした。だが、その行動はお見通しだ。俺はソレ遠くに蹴飛ばした。
「あ~あ、これは本当に俺の敗北じゃないか・・・」
「その通りだ、来てもらうぞ」
「なぁお前、お前は何のためにここまで来て戦ってるんだ?」
「言う必要がどこにある?無駄口を叩くのならば、気絶させて連れて行くだけだ」
「話しぐらいいいだろ?因みに俺がこんな回りくどい事をしてまで戦っているのは、俺たちのカシラの為だ。カシラの為なら俺はどんなことだってする。だからずっとやってこれた。
そしてお前のその力は、そんな力を扱えるのは並大抵の精神じゃ不可能だ。何か特別な感情がなければ、そんな風に魔法は答えてはくれない」
「・・・俺が戦うのに感情などない、俺は・・・!!」
しまった!!カールはいつの間にか自分の頭にデリンジャーを突き付けていた。
そしてカールは自分の頭を撃ちぬいた。してやられた、会話をすると見せかけこいつは、俺の隙を作っていた・・・自分が死ぬ隙を。
俺は即座に脈を測ったが、既に流れていない・・・
「任務・・・失敗、ジョシュ」
『あぁ、聞こえている・・・流石にこのタイミングで死ぬなんて誰も思わないよ、それに戦闘データはきちっと取れたし、後はそのスティンガーを回収すればいい』
「了解だ・・・」
俺はスティンガーを拾い、外に出た。
何故だ、俺としたことが・・・こんな初歩的なミスを。
帰還
「おかえりなさいヴォイドちゃん」
基地に帰るなり早々で迎えてきたのはリザヴェノフだった。
「リザ、何故お前が?」
「今回の任務、ちょっと気がかりでね。それはそうとそれが例の武器?」
「あぁ」
俺はスティンガーをリザに渡した。
「うーん、これ自体はここの世界で作られたものなのは間違いなさそうね。そしてターゲットの忠誠心、東雲・・・か。これは私たちが調べるわ、ヴォイドちゃんはゆっくり休んでて。あ、そうそう明日の任務は偵察をお願いしたいの。そこでまた同行してほしい人がいるんだけど・・・」
リザは急に口ごもった。
「どうかしたのか?」
「あの人、方向音痴なのよ。気が付けばすぐいなくなっちゃうのよね・・・」
「そんな奴の面倒は見切れない」
「そこを何とか頼みたいの。あの子滅茶苦茶優秀で、次の任務にはどうしてもいるの。半ば護衛任務と思ってもらえればいいから」
「守るのが任務というのなら、俺はそれを実行するだけだ」
「じゃ、よろしくね~」
リザはひらひらと手を振ってスティンガーを持ってどこかに行った。
「きゃる?」
「何を見ている」
キャロットは困った顔で俺を見ていた。
「・・・次はもう失敗しない」
「きゃる!!」