ミッション1 基地を防衛せよ
創暦520年 五月某日。アナザーベース、フロンティアクレーター総合指令基地。
ここはアダムスと呼ばれれる世界、俺たちの世界とは異なるいわゆる異世界だ。俺はここの世界の研究をするUN.AWRO、国連の異世界研究機関と呼ばれる裏組織に連れられここへ来た。
普通とは違う、様々なルールのあるこの世界、俺の役目はここで戦う事。俺の戦いの記録を、ここに残す。
ブリーフィング
「ヴォイド、麗沢 弾の件は残念だった。まぁ仕方ないよな、彼らはある意味異常だから、失敗するのも無理はない」
今俺に話しているのはジョシュ カンナという男だ。主に無線での指示を出す人物で、普段は別の場所にいるが今日は珍しくこの基地にいる。
「んで、麗沢の件は任務続行だけど一旦保留で、今日からは別の任務を任せたい。いいか?」
「俺は兵士だ。頼み事は聞かない。俺が行動するのは命令がある時のみ」
「あ、そう言う事。じゃ、指令だ。ここは巨大なクレーターの中に築かれた基地で、この世界の者は誰もここの場所は知らない。それは知ってるよな?」
「あぁ」
「地元の者もここには寄り付かないようにさせる偽の言い伝えを残してある、だが時折野盗や好奇心でやって来る冒険者、はたまた単純に迷い込んだ者がここに近づく事がある。
今回、君に与える任務はフロンティアクレーター基地外周に現れた野盗共輩の排除だ。ターゲットの場所は現場に着き次第連絡する。排除の方法は君に任せる」
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フロンティアクレーター基地、外周。
俺はクレーターによって出来た崖の上にいる。
「きゅぅるるん♪」
俺のすぐ後ろでプカプカ浮いているのはキャロットと呼んでいる変な生き物だ。何故か俺に懐き、常に一緒に付いてこようとする。
この程度の任務であれば、よっぽどのことが無い限り特に支障はない。
『現場に到着したね。ターゲットはそこから見えるはずだ』
「あぁ、数は五人。いかにもな風貌をしている奴らだ」
『そうそいつらだ。何度も言うようだが、排除の方法は君に任せる。殺害、気絶、どちらでもいい。要は奴らがここに近づくのを阻止すればいいんだ』
「任せろ、その手の任務は慣れている」
『よっしゃ、じゃあ世界最強の兵士の実力、見せてもらおうかな』
さて、作戦開始だ。
俺は背中に背負っていたライフルを下ろした。今回の任務は別に殺害を命令されているわけではない。そういった任務の時は大体弾薬に麻酔弾を使う。
俺は別に殺しが好きという訳じゃない。むしろ命あった者が一瞬でそれを軽い指の動作で奪うさまを見るのは気分がいいものじゃない。
俺はもう少し近づく事にした。麻酔弾は元より火薬量がダントツに少ない。射程は最大でも300メートルほどしかない。話し声が聞こえる、まだ奴らとは600メートル以上はあるが、これもこの世界の影響か・・・便利なものだ。
「おいこっちにマジでお宝があんのか?」
「らしいぜ、ここには誰も寄り付かないってのは知ってるだろ?だがそれはガセなんだとよ、本当はどっかの誰かがここに財宝を隠したって話だ。俺たちゃそれを手に入れて、ここフロンティアを支配してやるんだ。それくらいの財宝があるんだってよ」
ほぼ正解。
「金か・・・俺ぁ金よりも女が欲しいなぁ。東雲の若頭あたりを一発犯したいぜ」
「なぁに、金がありゃあいつを買っちまえばいいじゃねぇか。そうだ、また俺も混ぜろよ」
「お前ら二人がかりだとすぐ壊しちまうんだよな、この間拉致った女なんか、数十分であの世に行っちまったし、俺も使いてぇんだ、もうちょっと丁寧に扱えねぇのか?」
「ぁあ?ちょっと激しくしただけで死ぬあの女が悪いんだぜ、けどよ、東雲の若頭ならそうもいかねぇだろ」
あいつ等は野盗で、これまでにも多くの罪を犯したのだろう。話を聞く限り相当な悪党だ、だが俺には関係ない。ターゲットに変わりはないんだ。少しの間、眠れ。
俺は一発の弾丸を発射した。サプレッサーを付けたライフルから『ボスン』という音を立て、弾丸は一人の男の首筋に命中した。
男はその場からガクッと崩れ落ちた。周囲の男たちは咄嗟の事で訳が分からず、あたふたしている。
「な、なんだ!!」
もう一発、次々と男どもは倒れていった。だが流石に状況を飲み込めた最後の一人が逃げ出した。
「ちくしょー、言い伝えの方が正しいじゃねぇか。あいつ俺を騙しやがって、後でぶっ殺す」
仲間を置いて逃げるとは野盗らしいが、賢明な判断ではあるな。だが、逃しはしない。
奴は岩陰に隠れるように移動している。狙撃されているという認識はちゃんとあるんだな。ただ闇雲に走ってるわけではなさそうだ。
『ターゲットが逃走を始めたみたいだが、大丈夫か?』
「余計な心配はするな、もうすぐ終わる」
ジョシュから連絡が入る。心配性か・・・
「きゃ~る!!」
「あぁ、分かっている」
キャロットは小さい手である方向を指している。そうだ、そっちだ。俺はキャロットの指さした方へと走った。
俺はスナイパーライフルを背中に戻し、代わりにアサルトライフルを取り出した。こっちには実弾が入っている。ただ、これは普通の弾ではなく弾頭が鋼で出来た特殊なやつだ。
この任務はあいつ等が俺の腕を試すものでもあるが、それは俺も同じだ。この世界での環境に慣れるには実際に使ってみるしかない。
『ダァン!!』
引き金を引いた、小さな炎をバレルの先端から出し、鋼の弾頭が発射された。弾丸はとある場所に命中した。
「うわ!!なんだぁ!?」
男の目の前に巨大な岩が転がり落ちた。俺は予めここの地形を頭に入れていた。そして敵が逃走を図った際にどこを通るのかを予測、案の定俺の思惑通りに行った。
ここは断崖の多い地形で、逃走ルートも限られる。さらに逃走するにはこの最も細い場所を通るしかない。俺はその先にある岩に細工していた。
俺の放った弾丸は撃ったと同時に土の魔法が発動。すると弾丸は小さな岩に変貌を遂げる。そこから細工した岩に当たると、弾丸は更に大きくなり巨大な岩となり奴の目の前に落ちた。
なるほどな、今回は軽くやってみたが、こういう応用も出来るのか・・・さて、
「くっそ・・・なんで急に岩が落ちてくん・・・だっ・・・・」
俺は最後の一人を眠らせた。
『これで全員無力化したな、後はそいつ等を外にやれば任務完了だ』
やはり置きっぱなしという訳にはいかないか、面倒だな。俺は下に降り野盗を掴んだ。
「おい、手伝おうとするのは良いがお前では持ち上げられないだろ・・・」
キャロットは倒れている野党の周りを飛んでいる。どうにも俺を手伝おうとしているらしい。
「きゃ~・・・るん!!!」
「な、なに?」
キャロットは男の下に潜り込むと、掛け声と共に男を持ち上げてしまった。しかも割と余裕な顔だ。
「全く不思議な生き物だな・・・だが、手間が少しは省けた。礼を言わざるを得ないな」
「きゅふふふん!!」
キャロットは嬉しそうに飛び回った。だが、そんなことしたらその男、遠心力で大変な事になるな。
男は一瞬意識を取り戻した、だが自身にかかる遠心力で頭に血が上り白目を向いた。
「行くぞ」
俺たちはそいつ等を少し先に置いておいた移動用の車の荷台に乗せ、基地から離れた場所に置いた。後はこいつらが先に目覚めるか、誰かに発見されるだけだ。恐らく置いた場所的に後者だな。
『ミッションクリア、いやぁさすがだね』
「この程度なら、帰還する」
『そうしてくれ』
俺はキャロットを連れて基地に帰還した。
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帰還
「帰還した」
「あ、ご苦労だったわね」
出迎えたのはリザヴェノフだった。
「ん?ジョシュはどうした?」
「別任務でもうここにはいないわ。でも、通信による指令はあると思うわ。そこだけは覚えておいてね」
「了解」
俺はリザに任務の報告をし、基地内の自室に向かった。キャロットはバッグの中に納まっている。どうにもこの場所はあまり好きではないらしい。俺の部屋ではそうでもないんだが・・・
「あ、あの!!」
「ん?」
一人の女が俺に話しかけてきた。見る限りここの研究者か。女は姿勢を正しているが妙に顔が強張っている。
「えっと・・・なんだっけ、あ、そうだ!!わたし!マリアって言います!!」
「マリア?」
「えっと、えっとぉ・・・あ、一つお伺いしてもよろしいでしょうか!!」
「あ、あぁ・・・」
「現在、わたしはこの基地に配属され数日が経ちましたが!!」
あ、新人か・・・てことは覚醒者でもなんでもない、普通の研究員か。
「ここの地理が全く持って分かりません!!」
「はぁ・・・」
で、こいつは一体何が言いたいんだ?
「わ、わたしは一体どこに行けばいいのでしょうか!!」
「・・・知らん」
「え!?じゃあわたしはどうすればぁ!?意を決して話しかけたのに・・・」
なんだこいつ・・・突然しゃがみこんで落ち込んだぞ。
「まずお前、どこに行きたいんだ?それを言わなきゃ答えようもないんだが」
「え・・・あ、そうでした!!わたしとしたことが!!えっと・・・第三会議室です!!」
第三会議室・・・あそこか、ここの地図なら覚えている。
「そこをまっすぐ行って左に入れば分かるはずだ」
「あ!!わかりました!!わたしほんと地理が苦手で・・・あと、しゃべるのも・・・」
「ここにいるからには最低ここの地図は覚えておいた方がいい、入ってはいけない場所もある」
「そ、そう・・・ですね。恩に着ます!!」
女は走ってどこかに消えた、あれ?今あいつ・・・
「・・・お前、どこに向かっているんだ?」
「あ、あれぇ!?なんであなたが!!」
「お前・・・右に曲がって走ったぞ、一周してきただけだ」
「な、なんですと!!」
なんでこんな奴がここにいるんだ・・・まっすぐと言ったのに右に行ってぐるっと回って戻って来た。早いとこ何とかしないと、大変な事をしでかすぞ・・・
「仕方ない・・・ついてこい」
俺は女を連れて道案内をした。
「俺もこの間来たばっかりなんだがな・・・」
「え、と言う事はわたしとほぼ同じ時期にここに?」
「まぁな」
「はぁ~、新人さんがいてくれてよかった~・・・どうりで話しかけやすそうだって思ったわけです。周りの人みんな私と歳が離れてて話しかけづらくて・・・」
「ここだ、じゃあな」
俺はさっさとここから退散しようとした。なんか面倒な奴に巻き込まれた気がする。ここは速いとこ逃げよう。
「あっちょ!!」
思いの外早いな、首を掴んで止めるとは・・・
「なんだ・・・」
「いや、わたし人と話すと緊張して、しゃべる物事の順序が滅茶苦茶になってしまいがちで・・・あ、そうじゃない!!あなたのお名前をお聞きするのを忘れておりました!!」
「・・・別にお前に言う様な奴じゃない」
「そうですか!!でもこの度は助けていただきありがとうございます。そこででして・・・」
また話がずれている。俺は女が頭を下げている間にさっさと逃げた。
はぁ、ここでの生活・・・ある意味退屈はないかもな。気が思いやられる・・・・