選択
ウォード家との会談からはや二日…………悩んだ末,ノアは騎士となり伯爵家の後ろ楯を得る事を選択した。力を貸すに関しては、ノア自身は頼るつもりがない。しかし、破棄することは出来ないだろうとノアは考えていた。
(性格からしても,貴族の面子からしても一度取り決めた契約を反故にするような方ではない……故に何かあるまで保留しかない。前向きに、切り札を手に入れたと考えるしかない)
自分のような一般人に出来ることはもうない,と思考を打ち切ったノアは、予め受け取っていた手紙に騎士になる旨を書き封筒に入れた。貰った手紙や封筒は、ウォード家が愛用している物であり、更に封筒にはウォード家のシンボルでもある盾が描かれている。エヴァン曰く、
「これで少しはスムーズに俺の手元に届くだろう!」
とのことであった。ノアは、爵位を承ったと言っても平民と大差のない身分である。彼自身、その事を自覚している為に内心では「それで良いのか!」や「危機管理的にアウトだろう!」と突っ込みを入れていた。とは言え、彼がそれを口にすることは叶わない。
「……はぁ。届けに行くか」
気持ちを切り替えたノアは、手紙をさっさと届けて畑いじりでもしようと考えた。パラティス中央区……王国の首都圏(とは言えギリギリ)に住んでいるノアと違い、ウォード家は領土を持ち治めている、正当な貴族だ。故にノアは自領に帰るまでの日にちに余裕はあるのだが、行動が早い事に越したことはない。と考えた部分もある。彼は決して厄介事をさっさと片付けたいと言う気持ちだけで行動しているのではないのだ!
* * *
「ほう……思ったよりも早かったな。それにしても……」
ウォード家当主であるエヴァン・ウォードは、ノアからの返事が予想以上に早かった事とその内容から思わず内心が口に出てしまった。彼からしたら、自身の一生に関わることもあり,悩み,家族に相談するなどで早くとも一週間程は返事が無いだろうと思っていたのだ。事実,ノアの家族のような『酷い結果にならなければそれで良い』という放任主義は、平民では珍しい部類なので、彼の予想は本来ならば的を射ていた。そして、会話の節々から感じ取れた頭の回転の速さに気を良くしていた。
(騎士にはなるが、易々と権力を借りる様な真似はしない……か。しかし、安易に断りはしない所から貴族の面子を考えたか……何かあった時の保険なのか…………どちらにしても平民にしては上手い返しだ)
エヴァンは平民を下に見ることは無いが、平民で高い教養を持つ者などそうはいない事を知っている。故に、貴族の権力に飛び付きもせず断りもしない曖昧な返しを選択出来たノアに驚いていた。ノアはエヴァンの予想を越えたのだ。今後の事を考えれば、後ろ楯が必要となるため,騎士となるだろうと考えてはいた。それを踏まえてエヴァンは、ノアが欲を出すかどうかで彼の資質を測ろうとしていたのだ。
権力に飛び付く様なら内容にもよるがそれまで……切るなら今後の事を多少は考えられる,謙虚……若しくは欲がない。しかし、ノアは保留。多少の図々しさはあれど、軽い願い事で消費せず,断りを入れて貴族の面子を潰すこともせず、先を見ての保留で躱した。
(辛うじて……所か文句なしの合格だな)
エヴァンは思わず笑みを浮かべていた。
それらしく書くのも一苦労だ……




