リディアとオリバー
その部屋に入った瞬間に番だと分かった。
逸る気持ちを抑え、その相手へと向かう。
同じようにして私を探していたのだろう相手を見た時、私はその場に縫い付けられたように動けなくなった。
私の番は狼じゃない。
その衝撃は私の体を貫いたまま、その場から動けなくした。
目の前の#縞栗鼠__・__#の獣人は丸い耳をピコピコと動かしながら、にこやかに笑う。
「こんにちは、君の名前を教えてくれる?」
僕の名前はオリバーです。と自己紹介をする声がリディアの体の緊張をといていく。
「私はリディア。あなたは私の番?」
「そうみたいだね」
ふわりと笑う笑顔は優しく、淡い茶色の髪やまんまるの耳と相まってリディアの目には綺麗にうつった。
じんわりと体温が指先にまでともるのを感じて、リディアはほっと息をつき目を閉じた。
落ち着いて話をしてみると、オリバーが見かけで判断するよりも遥かに強いのであろうことが分かった。
というのも、だいたいにして狼の里は荒くれ者が多いというイメージから嫌煙されがちにもかかわらず、滞在をしていること。
まだ若いうちから旅をしているというのも、自分の腕に自信がなくてはできない。
できないことはないが、身ぐるみ剥がされて捨てられるか、命すら失ってしまうのがオチだろう。
オリバーの出身地は山をいくつも越えた先にある国だった。
それだけの距離を彼は移動してこれるだけの腕が、事実あるということだろう。
話を聞くほどに何だかリディアは自分が人の見かけだけで判断する浅はかな人間のような気がしてきて恥ずかしくなった。
羞恥が込み上げ、顔には熱が集まる。
目が潤みそうになるが、リディアはぐっと手を握るとそれを抑えた。
(こんなにも、気持ちが抑えられなくなるものなのか.......)
今はじめて兄の不安や葛藤が少しだけ分かった気がした。
それでも、今まで思い続けて努力してきた自分を無駄にすることもリディアには出来そうもなかった。
たとえそれが意地のようなものなのだと言われても。
リディアはリディアなりに、番のために強くありたいと努力してきたのだから。
その自分を否定することはやはり出来ないのだ。