リディアと兄
「また.......泣いてるの?」
目の前にはうずくまる兄とそれを撫でながら微笑んで頷き肯定をしめす姉。
声に呆れが混じるのはどうしようもないと自分でも思う。
私達は狼の獣人だ。
その獣性が狼というだけで、他の獣人から恐れられることすらある。
確かに感情の起伏が激しくなる時もあるし、荒ぶる心のままに行動を起こすこともある。
だがしかし、私の兄は違う。
この姿をみて狼の獣人が恐ろしいと思い続けられる者はそうはいまい。
そう感じるのは私だけではなくて、つまるところ今日も今日とて兄はイジメをうけたのだ。
兄がいることで嘗められると、狼としての矜恃に傷がつくと思っているクラスメイトに。
ため息をつくだけで、びくりと大きく震える肩をみると、まるで自分までが兄を虐めているような気にさせられる。
「兄さん、父さんたちが呼んでた。姉さまとの番の話みたい。」
ぱっと顔をあげた兄は涙をためながらも笑顔を浮かべていた。
姉さまという存在の大きさ、というよりは番の存在が与える影響というべきか。
獣人にとって番がどれだけのものなのか2人をみるとよく分かる。
姉の存在に救われて、そして番契約をできる日が近づく喜びを感じて微笑む兄に。
私はこうはなるまい.......幼い頃から変わることの無い決意を新たにし、私は告げると踵を返した。
小さな頃、私たち兄妹はよく似ていた。
好きな物や嫌いな物。
得意なことや苦手なこと。
あまりにも似ていたから、両親も驚いたほどだ。
幼馴染の姉さまもよく似ていると言って微笑んでいた。
でも、その姉さまに関わることだけが。
私たちにとって大きな違いで、そこからの私たちの違いとなっていくことになる。
私たち兄妹にとって姉さまは大切な存在だった。
私にとっては幼馴染であり、尊敬する姉
として。
兄にとっては、幼馴染であり唯一無二の番として。
番と出会うのがあまりにも早かった兄は、その事に気づくよりも早く共に過ごしていた。
そのせいか、無意識に姉さまに向かう執着は酷く。
周りの人への警戒心、周りの環境への心配は計り知れない程であったと思う。
そうして敏感に周りを意識し、そして番である姉さまの立場や意思を慮りすぎた兄は泣き虫になった。
姉と他。
そう区切ることで自分と番をまもるためだろう。
そうだと分かっていても。
兄が泣いているところを多く見ると、妹としては何だか情けないと思ってしまうのも致し方ないもので。
私は強くありたいと思うようになったのだ。
私のその思いは年々強くなり、自立心を促した。
おかげさまで『男勝り』なんて言われることもあるけれど気にしていない。
気にせずにいられるのも、ある意味では兄のおかげだ。
情けなくも優しい兄を私は大好きなのだ。