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ここは侯爵となった元粉挽き屋の三男の居城。青年が領主の仕事をしていると、長靴を履いた愛猫が彼を訪った。
「主人、お願いがありますにゃ」
「猫、どうした?…あぁ、長靴に穴が空いたのか」
「寿命ですにゃ」
「そろそろ尻尾が二股に分かれそうな歳の君がいうと重みが違うね」
「新しい長靴を買って欲しいですにゃ」
「もう普通の家猫暮らしを謳歌しているのだし、いらないんじゃないのかい?」
「長靴は私が鼠を捕ることしか能のない凡百の家猫とは違うということを示す重要なアイテムですにゃ。世界一有名な猫たる私のアイデンティティですにゃ」
「七回どころか百万回生きた子とか、赤いリボンの女の子より有名だという自信は評価したい。」
「赤いリボンのお嬢さんがナンバーワンな気がしてきましたにゃ…」
「落ち込まないで!飼い主としてはナンバーワンよりオンリーワンだよ。僕には君が一番さ」
「主人…っ!」
「さて我が最愛の相棒、長靴に希望はあるかい?」
「胸当付胴付長靴が欲しいですにゃ!」
「漁師さんや釣り人愛用のゴム長靴付きツナギ!アイデンティティとか二の次で、水に濡れずに魚を得たいという熱意は伝わったよ」
長さはまちまちになるかと思います。