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「何か話が違うんですけどぉぉ…」
陽菜は机の上に広げられた大きな紙(羊皮紙と言うものらしい)に視線を落とし口を尖らした。
「そんなことはございませんよ」
クリスの声は冷静そのものだ。
「あ、ほら、ここ間違えています」
そう言って今しがた羽ペンを走らせたばかりの箇所を指した指を陽菜は恨めしそうに睨んだ。
だいたい、間違ってると言われても…どこがどう間違っているのかさえ分からない。
「…勉強させられるなんて聞いてない」
「訊かれなかったものですから」
その笑顔がすごく……憎い。
「う゛ーーーっ」
高校の成績でさえ欠点スレスレだって言うのに…。
こんな記号の羅列なんて解る訳がない。
「だいたい、“あ”は“あ”で、“い”は“い”だよ、こんな変な記号じゃないっ」
そう言いながら書いた文字に
「何だか記号みたいですね」
とクリスは苦笑いを浮かべた。
「…………」
陽菜は頭を掻きながら眉間に皺を寄せ溜め息を吐いた。
「勉強なんて…」
嫌いだ。
「慣れれば楽しいものですよ」
クリスの言葉に陽菜は、ますます嫌そうに顔を歪めた。
「慣れる訳ないじゃん…」
「大丈夫、すぐに慣れますよ」
そう微笑んだ後クリスは、再びペンを走らせたばかりの箇所を指差した。
「あ、ここも違います」
「……」
絶対に慣れない。
慣れる訳がない。
学校だったら、苦手な授業は先生にバレないようにこっそり居眠りしたり、友達と手紙の交換をしあったりしてやり過ごせたのに…マンツーマンじゃ、そうはいかない。
陽菜はクリスの顔をチラッと見て深く溜め息を吐いた。
そして、その後羊皮紙の上に慣れない羽ペンで記号のようなものを書いた側から間違いを指摘される事を数時間繰り返すのだった。