5
あの後、
“此処にいる者達です”
そう言ってクリスに紹介されたのは、先日クリスと一緒に陽菜の前に現れた筋肉質の男カインと、カインより少々若く見えるが負けず劣らずの体格をしたエリック…、他にも数人紹介されたが、みんな似たり寄ったりな名前と背格好で、正直陽菜は覚える気にはなれなかった。
一通り紹介された後、部屋に戻った陽菜に
「この宮殿の大きさに比べて、人が少なくない?」
と訊かれたクリスは複雑そうな笑みを浮かべ、陽菜を椅子に座るよう促した。
「そうですね…、此処で生活する以上は知っておいて頂いた方がよろしいですね」
クリスはそう言うと、小さく息を吐いた。
「この世界は、とても小さくで、…国が3つしか存在しておりません」
「3つ!?」
「えぇ。それも全て小さな国です。その中で、一番大きな国が此処…アラン様が統治しているこの国なのですが…」
クリスはそこで一旦言葉を切り難しい顔を見せた。
「…現在、この国は分裂状況にあります」
「分裂…」
「はい。此処にいた者の約半数が今此処から姿を消しております。先程紹介しませんでしたが、兵士や使用人なども見事に半数…」
「へぇー…」
陽菜は相槌を打ちながら
ここはもっと驚くべきだろうか?
と考えた。“少なくない?”とは言ったものの、実際こんな宮殿見たことがないので、中に何人居るのが普通…など知る由もないし、半数が消えたなどと言われても、それがどんなに大変な事なのかすら想像がつかない。
そんな陽菜の気持ちを知ってか知らずか、クリスは言葉を続けた。
「今の所、国民にも他国にも今の状況を知られていませんが…、露呈するのも時間の問題です。…もし、露呈してしまえば」
クリスの神妙な面もちに、陽菜は思わず生唾を飲んだ。
「もし…バレたら?」
「国民の混乱を招くどころか…反乱なども起こるかもしれませんし、他国はこの領土を乗っ取ろうと戦を仕掛けて来るでしょう」
「それって…」
もしかしなくても、
「めちゃくちゃヤバいんじゃ…」
陽菜の呟きにクリスは“そうです”と頷いた。
「だから、そうなる前に対策をと、貴女をお連れしたんですが…」
だけど…
「まだハッキリと対策案がないんだね」
「はい。申し訳ありません」
「分かった、何となくだけど状況は理解出来た。…だけど、とりあえず、消えた人達を呼び戻した方が早かったんじゃない?」
その質問にクリスは
「それが出来ないんです」
と苦々しく言った。
「どうして?」
「…散々、国中をしらみ潰しに探し回ったのですが……、何処にいるのだか…」
「え?でも…」
クリスの“力”があれば簡単に見つけられるんじゃ…
そう陽菜が言おうとした事が分かったのか、クリスは小さくかぶりを振った。
「私の“力”なんて、大したことありません…。結界を張られてしまえばそれまでです…」
「そう…なんだ」
「…はい。つくづく、自分の不甲斐なさを痛感いたします」
そんなことないよ。
そう陽菜は言おうとしたが、声に出す前に飲み込んだ。
自分にそんなこと言われても気休めにすらならないと分かっていたから。
何も言えずに黙り込んでいる陽菜にクリスは困った様な笑みを浮かべた。
「申し訳ありません。弱音を吐いてしまいました。今のはお忘れ下さい」
「えっ、あ、うん」
陽菜の戸惑ったような返事にクリスは微笑み、そして今までの空気を取り払うかのように短い咳を一つした。
「さて、…そろそろ始めましょうか」
「えっ?」
始めるって…
「何を??」
その陽菜の質問の応えにクリスは満面の笑みを作った。
嫌な予感…。。。