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今時、時代錯誤な大きな大理石で出来たような宮殿の大きな間の真ん中で大きな椅子に腰かけたギリシャ神話に出て来そうな恰好をした金色の髪に青い目をした端正な顔の男は、まだあどけなさを残す女の子に品定めするような視線をよこす。
「…名と年齢は?」
尋ねられた少女は、警戒心を露にしながらも素直に口を開いた。
「小笠原陽菜…16歳」
「フム…オガサワラヒナか、呼びにくい名だな」
男はその青く透き通った目で陽菜の価値を値踏みしているようだ。
その行為を不快に思いながらも陽菜は
「……小笠原でも陽菜でも好きなように呼んで下さい」
と小さく呟く。
「では、ヒナと呼ばせてもらうよ。私はアランだ」
そう言った男は微笑み「クリス」と誰もいない空間に向かって声を発した。
すると、誰もいなかったハズの彼の隣に急に数分前に陽菜を迎えに来た髪の長い女が現れ
「お呼びでございますか?」
片膝をつき深々と頭を下げた。
この光景を見る限り、自分の目の前の男はこの宮殿で一番偉いのだろう。安易に予想でき、彼女の名前がクリスだとわかった。
いきなりクリスが現れたことにも多少は驚いたが、先程自分を向かえに来たときもいきなりだったことと、自分を一瞬でこんな大きな宮殿へと連れてこれたことを考えると、信じられないけれど
"そーゆー力"
を持っているんだと、理解した。
そしてアランは「あぁ」と頷くと、陽菜に視線を移した。
「この娘の世話をしてもらえるか?」
「えっ!?」
クリスは驚きの声とともに、戸惑った表情を見せた。
「わ、私がですか!?」
「あぁ。他に誰がいる?」
「い、いや、しかし…、私は女性と接することに慣れておりませんし…」
「それを言うならここにいる者みんなそうだ」
「で、ですが…」
クリスは更に何か言おうとしたが、アランの鋭い眼差しを見て言葉を飲み込み頭を下げた。
「…御意」
そんな姿を見て満足気に頷いてからアランは、陽菜が不思議そうに首を傾げているのに気が付いた。
「どうした?」
「いや…大したことじゃないんだけど」
「何だ?」
「その…」
陽菜が未だ頭を下げたままのクリスに一瞬目をやり、言いにくそうに
「こんなキレイな女の人がいるのに、どうしてみんな女の人に慣れてないのかなぁって思って…」
そう口にした瞬間、不穏な空気が辺り一面に漂った……
気がした。