靄の向こう
この作品は牧田紗矢乃さん主催、第四回・文章×絵企画の投稿作品です。
この作品は、桧野 陽一さんのイラストを元に執筆しました。この場を借りて、御礼申し上げます。
桧野 陽一さん:https://10819.mitemin.net/
夢か現か。
それが判然としない中、俺はそこにいた。
「……起きた?」
彼女が声をかける。
ただ、声は少しぼやけて聞こえる。
まるで夢のようだ。
それでいて意外と近くははっきりとしていた。
風の流れ、木々の香り、しかし彼女は向こうで靄に包まれているように見える。
「少し待ったんだよ」
彼女はまるで展望台のようなところから、ずっと遠くを眺めている。
鉄パイプのようなもので組まれた柵が、彼女をまだこちらがへととどめている。
「ごめんな」
何に謝っているのだか。
それすら知る由はない。
「いいの、貴方がここに来てくれたことが、とてもうれしいから」
ここ、そういえばここはどこだ。
少しずつ夜から朝へと時間が過ぎていく。
その証拠に、朝焼けが、雲を燃やし尽くし始めた。
彼女はさみしそうな顔をした。
「まあ、いいわ。私ははこの通り大丈夫だから」
だから、寂しくないようにね。
と、彼女は最後に言いおいた。
はっと目が覚める。
夢、それともここが現実なのか。
目が覚めたということは、きっとこちら側が現実なのだろう。
そこで、俺は、彼女は火事で死んだという話を聞いた。
幽玄な世界、そこで見たのはきっと、彼女そのものだ。
魂と話をすることは、それだけ親しいということを意味すると、医者から言われた。
本島かどうかはわからないけど、もしそうなら、彼女は俺と仲良くしたかったということなのだろう。