魔法レベル上げの修行
次の日の早朝、村から出た先にある岩山にメア達は来た。
『今日から魔法の特訓をするよ。まずはファイヤーボールをメアのイメージであの岩に向かって使ってごらん。魔法の使い方は頭の中にイメージを強くもって形にするんだ』
ここまで魔法を使ったことのない少女に丁寧に教えるリング。疑うこともなくメアは集中しイメージをしていく。
イメージは昨日のあの熱さ、それを一点に集めて手のひらに乗るほどの球状へと変化させることということだ。
メアの集中力の賜物なのか赤い炎が手のひらへ収束され野球ボールほどの赤く輝く球体が出来上がる。
「ファイヤーボール」
そう口にすると共に炎の球体を掴み岩に向けてぶん投げる。
投げられた球体は少女が投げたとは思えない速度で岩山へ飛んでいき物理的に岩を貫いた。
貫かれた穴には岩が溶けた跡が残る。
『あははははっ。ファイヤーボールを最初から掴んで投げるなんて人は初めてだよ』
「でもとばしかたわからなかったし、それにそんなにあつくかんじなかったんだもん」
昨日の特訓で炎の耐性が上がっているメアにはすでに火への恐怖心などなく子供ながらの発想で見事に飛ばすことに成功した。
そして先程の初めての魔法を見て感じたアメが今後について思案すること5秒、メアの戦闘スタイルについての結論に一つの答えを導き出す。
『僕の考えられるメアが強くなる方法でいいんだよね?』
「うん。アメのいうことならまちがいないもん」
『じゃあ簡単に説明するね。メアは魔法使いだけど魔法使いじゃないそんな戦い方を覚えてもらおうと思う』
???
少女が首を傾げ頭にはてなマークが浮かぶ。
アメは先程の5秒でこう思案した。
メアのすごい所は年齢離れした身体能力。これはきっと両親の影響なのかとても高いポテンシャルがあると断言できるほどでなんで一流の戦士に適正がないのか不思議なほどだ。
次に切り替えの早さと柔軟な思考。これは近接戦闘にて最大の武器になる。
それに僕がいることで魔法以外で身体能力の向上方法とファイヤーボールの炎の種類や行い方を増やしていける。
うん。これが僕の考えられる強くなるベストな方法かな。
『メアは素手で戦いながら魔法も使う。そんなスタイルで行こうと思う』
「まほうつかいなのに?」
そんな質問が飛んできたがアメは言う。
『メアの望みは魔法使いになることじゃなくて強くなることでしょ。大丈夫。心配いらないよ!その代わり予定より倍キツくなるけどね』
ニコッという笑顔を感じられるほどに爽やかな声で言われる地獄への一言。
「お、おねがいします」
そこへ若干の恐怖を覚えながらも弱音を吐かずに返事をするメア。そして身体と精神を酷使する地獄の修行が幕をあける。
『まずはメア。魔法レベルってなにで上がるのかわかるかい?』
「たくさんつかうとか?」
『当たり!さっき使ったファイヤーボールはメアの魔法力からしたらあと二発が限界かな』
「じゃあまいにち三回つかえばいいのかな?」
『そこなんだよね。この世界の人達は魔法を一つの現象として固定したがるんだ。前にも言ったけどファイヤーボールだけでもどんなこともできるんだ。まずはどんなときでもいまからいうことが発動できるように練習するよ』
それはファイヤーボールの温度を極端に下げて簡単にいうと温風が常に出続けるそんなイメージということだ。ものすごく効果を抑えることで使用する魔法力も抑えられるということだ。しかも抑えたといってもそれは魔法として発生しているので魔法レベルは上がっていくらしい。
そうはいってもそう簡単なものではなくセンスは勿論必要だがそれを練習する魔法力と時間も必要だ。
練習開始から五分もしないうちにメアの魔法力が底を尽き吐き気と共に倒れ込む。
しかしアメの回復効果ですぐに微量回復すると爽やかな声でさあもう一回やってみようと鬼教官のようにしごきあげられる。
三時間経過するころには吐きすぎて目が赤く充血し吐くものがなくなったと思ったところで血反吐を出すが一瞬にして回復され結果的に吐くものもないそんな状態が続く。
『さあ上手くできるようになったらこの練習も終わるよ。がんばれがんばれ』
少女の腕輪から軽快な声がかけられる。集中力を研ぎらせない少女へエールを送る。
地獄のループが始まって十時間。
『いい感じだよ。一回休憩しようか』
ひたすら練習し続けた少女に一休みが与えられる。
『最初に言おうか迷ったけど魔法を使うのにわざわざ魔法名をいうことないよ。言うのがこの世界の美学なのか、言うことでイメージを強調してるのかもしれないけどイメージさえできればそんなこと必要ないんだ。身をもってわかったかな?』
吐きすぎて声が枯れまともに声が出ないメアにアメが言う。
虚ろな目ながらメアは納得したのか首を縦に頷く。
休憩に入って十分程したところでメアの瞳に光が戻ってくる。それを見計らったようにアメはさあ練習の再開だと声を出す。
口を大きく開けて驚愕するメアに強くなりたいんだよね?っと進められなにも言えずさらに地獄の練習が再開される。
日が暮れ、辺りが暗くなるころ。
そこには温風を纏う一人の少女が岩山に立っていた。
『さすがメアだ。まさかこの特訓が一日で終わるなんてすごいよ!』
「あははは。でももうだめ」
枯れ果てた声でそう呟くメア。
『それは僕がいるかぎり半永久的に繰り返すことができるから起きてる限り温風を出し続けてね。明日からは近接戦闘の基本をメアの両親に教わって基本が出来たらさらにその先を目指して頑張っていこう。今日はもう遅いし帰ろうか。お疲れ様』
それを聞き安心して帰路に入るメア。
頭がボーッとして魔法を使うのを途切れさせるとアメの身体を包んでいる膜の温度が跳ね上がり目を覚まさせて声にならない断末魔のような悲鳴が夜空へと響く。