家族の理解
希望が見えたことで気持ちが落ち着いてきたメアは村へ戻ることにした。
帰り道お互いの自己紹介をする。
「わたしはメア。今日が七さいのたんじょうびで、えっとしょくぎょうはまほうつかいでぼうけんにあこがれてて、あとはすきなたべものはトマト!きらいなのはピーマン。アメのこともたくさんおしえて?」
『ボクは......いや大したことないただのアクセサリーだよ。少し魔法が使えるくらいで前の持ち主がいなくなってしまってここに落ちた。そんなところかな』
「アメはおとこのひと?おんなのひと?」
『性別なんてないよ。もうボクはメアのものだ。好きに扱えばいい』
どこか寂しけに話すアメにメアは満面の笑みで口を開く。
「じゃあおともだちになろう。アメはなんでもできそうだし、たよりになりそうだし、おはなししててもたのしいもん」
『お友達か』
どこかフフッと嬉しそうな声をあげた気がした。
そんなことを話していると村の入口で待つメアの母が目に映る。
「メア!」
日が暮れ出してもなかなか帰らない娘に心配していたのだろう。母は駆け寄りメアに抱きつく。
「遅いから心配したじゃない。職業適性が思ったようにいかなかったのはわかったけど心配させないでね」
母はメアを抱きながら言葉を発する。
メアは母を抱きしめ返す。
心配させちゃってごめんなさいという事だろうと娘の成長を感じつつ安堵の表情になった。
しかし.....。
「おかあさん!わたしきめたんだ!おかあさんにしんぱいされないくらいつよくなってわたしせかいじゅうをたびするぼうけんしゃになる!」
決意を秘めた燃えるような瞳で宣言する。
そうだ。うちの娘はこういう娘だったんだ。半ば諦めつつあまりの前向きさに笑ってしまった。
(この子にとって職業適性とかそんなことは関係ないみたい。ここまで前向きじゃあ親として精一杯応援してあげようかな)
そして日が沈む中でまたぎゅっと娘を抱き、自分自身に気合いを入れると一気に娘を担ぐ。
「それじゃあ思いっきり頑張らないとね!」
小さい大切な娘だがいつまでも子供じゃないんだと言い聞かす。
満面の笑みで頷く我が子。
「その代わり十五歳まで頑張っても半人前だったらこの話はなかったことにするよ!」
大きな声でわかった!と返事が帰ってくる。
(一体誰に似たのやら)
そうして二人は家へと向かう。
家に帰るとメアの父親が料理を作り終え配膳をしていた。甘く香るミートソースの匂いが走り回ってペコペコなお腹を魅了しつまみ食いをしたくなる。
「メアおかえり。今日はメアの大好きなミートスパゲティだ。顔と手を洗っておいで」
優しい声に諭されお風呂場へ向かう。
鏡をみるとまだ目が腫れ顔中に砂がついている。
『さすがにそれじゃあ言われるよ』
アメがからかうように声を掛けてくる。
もうっとメアは頬を膨らませ綺麗にしていく。
手と顔を洗い改めて食卓へと戻るとお母さん対お父さん、おじいちゃんの構図になっていた。
「母さん正気か!?メアを冒険に行かせるなんて」
「まだ絶対に行かせるとは言ってないじゃない。十五歳までに私達を安心させるくらいの強さが身につけられればってことよ」
「いやそれでものぉ〜」
そんな口論に私も割って入る。
「おとうさん、おじいちゃんおねがいします。わたしいろいろなところをみていろいろなひととあってみたいの」
う〜んっと唸りながら何かを考えている父親。彼も娘のことをよく理解しているし、意思は率先してくれる理解ある親である。
「わかったよ。メアが言い出したら聞かないのは知っているしね。ただし!お母さんとの約束通り僕達を安心させるだけの実力を身につけないとダメだ。わかったね」
うんっと大きく頷くメア。
おじいちゃんはまだ納得していないようたが両親が納得したことなので反対はしなかったようだ。
「でも魔法使いだろ?父さんと母さんは剣や槍ならそこそこ教えてあげられたけど魔法はからっきしなんだよな」
そう。メアの魔法の教育に関してこの村ではそこまで知識ある人もいなかったのである。
「魔法都市の学校へ行けばいいじゃない。基礎から教えて貰って、やるからにはいい環境を与えてあげなきゃ」
魔法学校は基礎学を中心とした低学年四年、応用を中心とした中学年が三年、最後に実践を踏まえた高学年が一年の魔法都市にだけある魔法使いが通える魔法特化の学校のことだ。もちろんなかなかのお金もかかる。
「魔法学校か。そうだな。すぐに会えなくなるのは寂しいが一一一」
『それは今すぐには必要ないかな』
どこからともなく声がする。
突然の声にメア以外の全員が辺りを見渡すが四人以外の姿は見えない。
するとメアが腕を出してブレスレットを見せる。
『ボクはアメ。メアの魔法の教育に関してはボクが担当するよ。固定概念に縛られた教育でいまの伸び盛りな時期を潰させたくないしね』
は?っと三人は頭が追いつかないようだ。
アメがメアと関わることになった経緯を説明するがそもそもなんでブレスレットが喋っているのかが分からない。ただその態度や語り方から決してメアを傷つけるようなものではないだろうということは理解できた。
「おとうさん、おかあさん。がっこうもいってみたいけどわたしはアメにおしえてもらうね。わたしをつよくしてくれるってやくそくしたしね」
両親もそれでメアが納得するならということでどうにか整理ができたようだ。ブレスレットに子供を任せるとは思わなかったがあとは見守ってみるというスタンスになったようだ。
おじいちゃんはアメが喋った時点で半ば放心状態だった。
「ギュルルルルルル」
話が一段落したところでメアのお腹が盛大になる。
大きな笑いに包まれ父親が腰をあげる。
「冷めちゃったからいま簡単に温めてくるからな。今日はメアの誕生日だ。思いっきり食べていいぞ」
こうしてメアの誕生日は無事に一日を終えた。明日から始まる地獄の日々があるともしらずに.....。