第六話
あー、無理無理無理無理…
ため息が出る。いや、これは到しかないだろ。だって、勇者だぜ?匙投げられまくりの勇者だぜ?しかもあの勇者だぜ?いやいやいやいや。
あー、無理無理無理無理…
やってらんねー
「…またため息が出てますよ」
副官が呆れてる。いや、これは到しかないよ、うん。
「勇者の件ですか?」
そうそう、ほんとこの副官察しが良い。
「受けなければよかったのでは?」
「それもそう。まぁしょうがなくないけどしょうがない。あー、無理無理無理…やってらんねー」
「不満が口から出てますよ」
「おっと」
副官がため息をつく。
「そんなに嫌ならお世辞なんて言わなきゃいいのに…キャラじゃないでしょうに。」
うむ。この副官、マジで察しが良い。
…なんか、いろいろバレてそうで怖いわー
「1週間後、勇者一行が到着予定です。」
そして副官、不満を一切隠そうとしないあたりよい性格してる。しかも、俺が不満で現在副官がいくら不満を出しても常識の範囲内ならば咎められないことを見越してやってる。
伊達に1年副官務めてないってことか。
あぁ…勇者なんていなきゃいいのに。アルザナの馬鹿ども、一体何を考えてるんだ…いや何も考えてなかった。アルザナの馬鹿どもだもんな。これはもう、5年前に諦めてる。
「…みんな」
ハッとして俺は口元を覆った。疲れてるのかもしれない。口癖が出そうになった。やべやべ。
オマケに副官が見てる。バレてないといいな…せめて、続けようとした言葉だけでも。俺が『カイト』でいる間に言ったことは無いはずだが…何しろ察しが良いからな、この副官。
「…勇者の件を考えるのもいいですが、とりあえず」
とりあえずこの仕事済ませてからにしてください、と微笑む部下。バレてないかもしれない。だがバレてなくてもこいつは鬼畜。なんか、育て方間違えたかな…
俺は机の上に積み上がる新たな仕事を見て、またため息をついた。
あれかな、訓練の仕返しのつもりかな、副官クン。
「いいえ?」
察しが良い副官は俺の心の中はなんでもお見通しらしい。あ、これもしかして喋らなくて良い系?それはいいな、楽だ。
「…仮にカイト団長が話すのを面倒くさがった場合、私は副官を辞めますよ?」
無いとは思いますがね、と微笑む部下。…いやー、今日もよい鬼畜っぷりで。
ガチャンッ
「やあカイト。キャラに似合わずため息なんてついて、やっぱり引き受けなければ良かったんじゃないか?もう断れんがな。」
変人王子が現れた。
つか、断れなくなった状況においてそれ言ってくるとか性格の歪みを感じる。…あ、いや、これは天然かも。
「…恐れながら申し上げます、殿下。」
おお、珍しい。副官もとうとう殿下に口ごたえをするのか?わくわく
「カイト団長がため息をつくのは平常運転であり、日常茶飯事でありますので、さしてキャラ乖離はしていないかと。」
あ、なんか思ってたのと違うわ。そこなのか?ツッコミどころ。
「ふむ。確かにこいつはもともと日常的に怠惰なため息をついていたな…うむ。その通りだな、第九騎士団副官殿」
なんか納得してるし。
まぁいいやそんなこと…
それより勇者だよ勇者。マジ問題。
「いえ、それより問題なのはこの仕事の山かと。」
…あ、ハイ。そうでした。いや別に現実逃避ではないのだよ副官クン。
つかやっぱこれ俺は喋らなくてもいい系だろ。副官ほんと優秀だもん。
_| ̄|○、;'.・ ゴホゴホオェェェェェ
…キャラに合わないことはするものじゃないな。俺が『もん』とか寒気だわ。悪寒と吐き気が半端ない。
俺はまたペンを手に取りつつふと、窓の外を視た。呆れるほど青空。遠くに、入道雲が見える。
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みんナ、死ねばイいの二…
勇者やだー