第三十五話
とりあえず俺は、部下共の襟首を掴んで回収し、王太子のそばにぽいぽいと積み上げた。
「……いやいやいや!扱いおかしいでしょう!俺たち一応人間っ!人間ですからね!?ものじゃあるまいし!」
なんか喚いてるが、気にしない。うん。邪魔だし。
次に、勇者たちも同じように回収し、部下共の隣に積み上げた。
「あ、そういや“聖女”って、いたんだけっけ?」
「いますよ!ここに!」
あ、いたいた。とりあえず聖女は横に避けておく。
「応急処置ぐらい、できるだろ?」
“代用”聖女とはいえ、ね。
次に続こうとした言葉を察したかのように、聖女はギュッと唇を噛んだ。
「……できるわ。馬鹿にしないで」
まぁどうでもいいけど。
俺はくるりと《彼女》を振り返った。女は、ふふんと鼻で笑った。
「武器も無しに、どうするつもり?妾に命乞いでもする?」
俺は無言で、リアの亜空庫から2振りの黒剣を取り出した。一応相手は神だし、本気で相手にしようかな、と思ったし。
ちなみに、放り投げた普段の愛用剣とこの黒剣は俺の力作である。性能は、というと…
投げた方の普段の剣:
攻撃力・0
攻撃速度・-999999
頑丈さ・∞
ユニーク性能・攻撃威力をとにかく分散する。普通の攻撃力に対し、1点のみの攻撃力は所持者の素の攻撃力のおよそ千分の1。
本気の時に使う黒剣:
攻撃力・500万
攻撃速度・+100
頑丈さ・999999
ユニーク性能・攻撃威力をとにかく凝縮する。刃の先のみの攻撃力は所持者の素の攻撃力のおよそ百倍。合計攻撃力が1億を超える場合、刃に触れたモノは全て黒い灰となる。
……まぁなんとなく、俺の力作度合いが伝わってくれると嬉しい。上の剣は殺さないための剣、下はその逆。俺が言うのもあれかもしれねーが、とにかく、とにかく切れる剣だ。ちなみに、それを2本な?
一応参考までに。騎士が使う、普通よりちょっと上等な剣は、攻撃力25である。…べ、別に、自慢したい訳ではないけど…
慎重に、ものすごく慎重に剣先を動かし、それからフッと軽く剣を振った。すると、それだけで斬撃が女の首を切り裂こうと走る。
女はサッと氷の槍で弾くと、冷笑した。
「妾を舐めてるの?これくらいの威力では、妾に傷一つ付けられないわ」
俺は無言で上を指で指し、それから挑発するように女を指してから、首に親指を向けて、横に動かした。
「ちょ、ほんとに何やってんですか団長っ」
見かねたように副官が叫ぶ。俺は無視して、魔王城の天井を切り裂き、塵に還した。
「ほら、殺るならデカいフィールドで殺ろうぜ?」
俺が嗤うと、女はぷるぷると怒りに震えて、槍を構えた。
「よくも…よくも!下賎モノがっ!妾を、妾を馬鹿にしてっ!」
「おいおい、そんなに震えて大丈夫なのか?筋力、足りないんじゃねーの?」
「……後悔してもゆるさないから!」
俺が地面を蹴って飛び上がると、後を追うように女は飛び上がり、光翼を広げた。俺は感心したかのように呟く。
「へーえ。光翼、使えるんだ?すごいすごーい」
氷の槍が、雨あられと降り注ぐ。
「いやー、俺はてっきり…」
槍が、下を這いずるように伸びてくる。
「あんたが…」
避けた槍が、方向を翻して迫ってくる。
「氷しか使えないんだとばかり思ってたんだが…あんま、間違ってないんじゃね?これ」
「使えるわっ!使えるから!」
初級炎魔法の、ファイヤーボールが5個ほど飛んできた。
「…いや、絶対苦手だろ」
なんか、本気出すほどの相手じゃないような気がしてきた。辛い…
とりあえず、片っ端から切り裂く。女の魔法は全て黒い灰となった。
「お前こそどうなのよ!魔法全く使ってないでしょ!自分が苦手な癖に、なにごちゃごちゃ言ってんのっ!」
はぁ…
俺は、ポイっと上着を脱ぎ捨てた。すると、久々に体が軽くなり、思わずゆっくりと伸びをした。
「俺は、別に使えないわけじゃあないんだよな。」
単に、必要無いだけであって。
この際、隠す必要も無いので仮面や、そのほか諸々の魔道具もぽいぽいと捨てる。ものすごく重かった。特に上着が。
銀髪が風に揺れて頬にかかるのを感じた。現れた歪な身体に、下にいる勇者・騎士・王太子たちが揃って息を飲んだ音が聞こえた。まぁ普通、驚くよな。
一応威圧の被害は意識して抑えてるが、アイツらがこの姿を見て失神しないのは上出来だ。日頃の愛(笑)の成果に違いない。
息をするように魔力を視て生きてる魔石材料共は、会った途端吐き気を堪えてふらついてたがな…… 失礼な話だ、全く。
女は、驚いて目を、これでもかと見開いていた。わお、目玉が転がり落ちそう。
「こ、この魔力は…まさか!?」
あ、もしかして覚えていてくれた感じ?
「全ての神格化した悪魔、魔神を統べる、大魔神ペリト!?」
いや、違います。あれ?なんで間違えられたんだ?あ、もしかして…あれか、左目に埋め込んだ魔眼か…うぅ、思い出しただけでも恥ずかしい…




