第二十四話
毒が回ってきたカイトの夢。
ああ、これは夢だ。
俺はぼんやりとした思考で考えた。毒が案外効いているようだ。まぁ、即死系の毒だしな、一応。
…多分、これは誰かの記憶だ。
視線の位置は、人の頭より上の空中から。間違いなく人間ではない。
下では、ニンゲンたちが忙しなく動いている。何かの準備をしているらしい。
と、突然、白い服を着たニンゲンの前にある大きな輪っかが光った。とてつもない魔力の塊が動いているのがわかる。
――ああ、ことしも しょうかん が はじまったね
ふと横を見ると、自分と同じようにふわふわと浮いて、下を見下ろしているモノが見えた。
ああ、これは精霊の記憶だ。おそらく、リアがリアになる前の。
ーーねぇ こんどの せいじょさま は だれだろう?
精霊たちは、次々と集まってきて白い輪っかを囲む。やがて輪っかの上は精霊たちでいっぱいになった。
光がいっそう強くなったかと思うと、次の瞬間、パアッと分散し、中には男女36人の人間たちが座り込んでいた。
ーーあっ!
ーーいたよ!いたよ!
ーーせいじょさま!
ーーちがうよっ あのひとは…
ーーおかえりなさい!おかーさま!
突然、精霊たちが1人の少女を見て騒ぎだした。精霊が見える精霊使いはその様子を見て、少女に近寄り、聖女の証である金色のベルを渡す。
ニンゲンたちは何やら騒いだりゴソゴソと何かしたりと忙しそうだが、精霊たちは言葉もわからなければ興味もない。
ーーちがうよ このひとは おかーさま じゃ ない
ーーでも にてるよ?
ーーそれじゃ おかーさま の うまれかわり なんだね!
ーーだとしても かえってきてくれて うれしいなっ
ーーね、おかーさま こっちだよ きづいて…
“聖女”。それは、神々に認められ、力を授けられた心清らかな少女に与えられる称号。
…と、言われているが、実際は大精霊に認められたヒトのことであり、どちらかと言うと“精霊の愛し子”の方が似合っているのだが…それを知っている人間はいない。
精霊から見ると、人間たちの時間はあっという間に過ぎる。少し見ている間にも、召喚された人々はこの現実を受け入れ、日々鍛錬をし、勇者らしさを帯びていく。
しかし一方、聖女には…聖女らしさがなかった。百歩譲っても普通の少女。かなりの人見知りで、小柄で、すぐに人の後に隠れたがる。誰かが見ている前では、緊張して力を使えない。たとえ、精霊たちが頑張って応援して力を貸していても、だ。
そんな風に過ごしていれば、ほかの人間から本当に聖女なのか疑われるのは当然だ。誰も力を使っているところを見たことがないというのに納得出来るわけがない。
それは、女神も同じ気持ちだったようで。
ある日の昼。皆で森へ訓練をしに出かけた時。突然、山賊たちが一斉に襲撃してきた。守りの騎士たちはなんとか山賊を追い返そうと戦ったが…
そして、聖女を含む少女たち約3名たちは連れ去られた。
もちろん、精霊たちは激怒。山賊たちの手から聖女を救い出そうと頑張った。
山賊の砦の牢屋で、精霊たちが助けてくれようとしていることに気づいた聖女は、他の少女も助けて欲しいと精霊に頼んできた。それで、精霊たちは3人の少女を助けようと、まぁ色々やった。うっかりやりすぎたりもしたが、なんとか聖女が望む通り“こっそり”脱出できるというところまでいった。
…ところが。
あと少しというところで、聖女は捕まってしまった。残りの、2人の少女が裏切ったために。
精霊には、ニンゲンの言葉が分からない。分からないけど、聖女がひどく傷つき、悲しんでいることは分かった。そして、どうしようもなく怒っていることも。
怒り?いや、憎しみと言った方が近い。ドロドロとしたどす黒い感情。
“聖女”はたまたま精霊に好かれた人間であったり、精霊たちの“おかーさま”に似ているために精霊に懐かれた人間であったりしたが、何にしろ人間ということには変わりがない。とくに、この人間は元々短気なタチだったから、憎しむことも多々ある。
まぁ、そういった“聖女”は闇堕ちするんだけどな。
裏切った少女たちへ向かって何かを必死に叫ぶ聖女の周りには、聖女に影響され、闇色に目を光らせた若い精霊たちが、少女たちを睨みつけていた。
まだ夢続きます。




