第十九話
「男子c。突く時は右回りもう20°傾けろ」
「女子j。目を狙え」
魔王城への道中は大変楽しい。
「グルルルルル…」
「グギャッ!」
「ガウゥ」
「…女子共。うるさい」
「いやあの、この光景を見て悲鳴をあげない女性は珍しいのでは?」
7番か8番が恐る恐る声をかけてきた。…どっちだっけ?まぁどうでもいいか。
「勇者だろ?これぐらい慣れないと、ね」
後が大変だ、と続けると、部下が複雑そうな顔になった。
いやいや別に、俺はおかしなこと言ってねぇよ?魔王城に行けば、これぐらいすぐ見るだろうし。別に特に不快になるもんでもないし。むしろワクワクするんじゃね?
「んー、でも後で水浴びさせた方がいいかもな。いくら自動浄化機能が付いているとはいえ、さすがに洗いたいだろうしな。というか俺が洗いたい」
俺がザブザブと魔物の中を進みながら言うと、いつの間にやら現れた副官が青い顔をして沈黙を貫いているのが見えた。
夜、待ちに待った(?)水浴びタイム。やっぱり殺んだあとには後始末がついてまわる。
昼間、ほとんど勇者に任せたとはいえ、いつもの訓練の倍はやらせすぎたかなー。こっそりオークの巣穴を中身殺さずに2~3個ぶっ壊しておびき寄せたのはやりすぎたかもな…地面が血でぬかるんで歩きづらくなっちまったし。
「そこの川、比較的綺麗な上に魔物もほとんどいねぇから、てきとーに使っとけ。あ、お互い覗きとかすんなよ?一応言っとくが。なんかあるとめんどいしな」
野営の準備が出来たところで、俺は部下共と勇者共に声をかけて、立ち上がった。
「…あれ?団長さんはどこに行くんですか?」
気づいた生徒が声をかけてきた。
「ん。向こうの泉で水浴び」
瞬間、副官はハッとして部下共は戦慄した。
「じゃ、ごゆっくり?」
俺はニィッと笑うと、不思議そうに首を捻る生徒と怯える部下を置いて歩いて行った。
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「…?なんで、団長さんは川を使わないんですか?」
女子は不思議そうに首を捻っていたが、団員としてはそれどころではない。慌てて副官は勇者を全員呼び寄せ、5番が点呼をとりだす。
「…?」
勇者たちはわけが分からず、お互いにかおを見合わせる。8番がユウタの首根っこを掴んで引きずってくると、全員揃ったので団員たちがホッと息をつく。
「勇者たち。君たちもカイト団長の元で3ヶ月学び、少しは団長について分かってきたと思いますが」
全員を見渡しながら副官が説明を始めた。いつになく真剣な様子に勇者たちは真剣に聞き入る。
まぁぶっちゃけ、ここ近年副官が真剣になるのは団長が関わる時のみである。人外の中の人外に付き合っていると、その他のいわゆる『危険』な時が危険と感じられなくなっているためである。何があろうと、カイト団長に比べればマシ、という考えになっている。
「カイト団長は、普段から肌を見られることを嫌っています。そのため、仮面を外すことはないし、普段はフードすらとらない。長い袖のコート、手袋、長ズボン、ブーツ。よって見えているのは口と、たまに見る髪の毛だけです。」
そのレベルで見られることを嫌っているんです、と副官は一気に説明する。いや、そこまで見てねぇよと勇者たちが内心突っ込む。第九騎士団は本人たちが思っているより団長っ子だ。全員。
「で、その団長が水浴びする時、仮に近くに行こうとすると…」
勇者たちは蒼白になる。まぁ、この3ヶ月を思い返せば想像するまでもない…
「…まず辿り着けません」
勇者たちがは?という顔になる。なんか、思っていたのと違う、的な。
「団長は普段は引っ込めていますが、意識を緩めると半径5キロの間に常人なら即気絶するほどの威圧を放ちます。近寄れば近寄るほど強くなり、半径1キロの時点でうっかりすると死ぬレベル、と言われています。その威圧を団長を中心として球状に放っているので、前に1度、ドラゴンが空から降ってきたから昼飯にした、という話もありました。」
要は、化物である。ドラゴンなんて、第九騎士団がまとめてかかっても敵わないというのに。
「団長は一応、この野営地には威圧が届かないようにはしていますが…まぁつまり、団長が向かった水浴び地には何があっても近づいてはいけません。軽く死ねますから。」
副官がサラッと最後に告げると、勇者たちはコクコクと頷いた。
「…そう言えば、なんで団長さんは見られることを嫌っているんだろ?」
勇者の1人が不思議そうに言った。
副官は苦笑いすると、8番をチラッと見てから言った。
「憶測なら色々流れてはいますが…探りは入れない方が無難ですよ。以前、8番がスキル『遠見』を使って水浴びを覗こうとした時、突然8番が倒れて、次に目覚めた時には1時間ほどの記憶を失っていましたから。」
団長の仕業とは言いきれませんがね、と副官が呟いたが勇者たちの耳には届かなかった。もとより届ける気もなかったのかもしれないが。
ちょっと投稿遅れるかもです。