第十八話
「あ、団長」
ご機嫌で歩く俺に副官が声をかけてきた。
「なんだ?」
「あ、あの…」
珍しく口ごもりながら、副官は後ろの勇者をチラッと見てから言った。
「…神殿へのお祈りが済んでいません。」
団長が神殿が嫌いなことは知っていますが、と呟く副官。俺の好き嫌いを気にしてくれるなんてなんていい子…!おかーさんマジかんどーしちゃうわー さすがうちのこね!
「…?今、寒気が…」
前言撤回。母の愛を寒気と取るとは…なんてひどい子。
…思考が逸れた。そうか、そんなに俺は神殿嫌いか…現実逃避するレベルなのか。
「んー、まぁアイツら魔王討伐乗り気じゃねぇのにこっそり連れ出しちまったし…ここでバレるのも厄介だな。」
わざわざ事前に女神に挨拶に行くのは、厄災レベルの魔物討伐の前だけ。例えば、絶滅した古代竜討伐とか、魔王討伐とか、魔王討伐とか、魔王とか。
だが、挨拶にいかないと女神の加護を全力で引き出せない可能性がある。
「あの子たち…なんでも、行方知らずの仲間がいるとかで、先に自分たちが帰るのが嫌で魔王討伐を先延ばししていたらしいですよ。愛されていたんですね、その子達」
と、説明したのはたぶん勇者たちと仲が良い5番。
何気に、『行方知らずの仲間』を過去形で話している。まぁそりゃそうか。なにしろこのご時世で行方不明とか言ったら十中八九死んでいる。
「…お前ら、適当に勇者たちを口実つけて神殿に挨拶させて来い。なるべくバレないようにな。命令。」
「…バレた場合は?」
5番が恐る恐る聞いてきた。俺は、フッと笑って言った。
「力づくで、連れていく」
「…っ、全力でバレないようにします!」
俺の顔を見て何を感じたのか、突然5番が意思表明してきた。
うむ。やる気があるようで何より。いつもそうしててね?
満足そうな俺の顔を見つつ、5番は首を捻った。
「でも、仮にも勇者が行方不明で死体も発見されないとは…何が起きたんでしょうね?」
「さぁな。勇者たちに聞いてみたらどうだ?」
俺はにィっとわらった。
騎士達はなんだかんだ口実をつけて、神殿に勇者を連れていった。その間、俺は街の外の山から神殿をながめた。
〈神殿じゃアないか、懐かしイな〉
いつの間にか、リアが隣にいた。いや、俺の影だからいつも一緒にいるけどさ。
〈それよりさ、魔王城行くんだって?〉
「ん、まぁな」
〈よかったじゃないか。これでようやく勇者たちは帰れるな!〉
「リア、落ち着け。騒ぐと誰かに見られるかもしれない。」
〈そんなヘマはしないよ・・・ククッ〉
〈神殿にはアイツもいるのか?〉
「そうなんじゃないか?あそこはアイツの住処だし。」
〈広すぎだ…羨ましい〉
「リアの城もすごく広いし、テリトリーはさらに広いのに?」
〈…誰かの影っていうのは、無限広いけどとても狭い。…、戻ってきたぞ。早かったな〉
「早いね。もっとお喋りしたかったのに。」
「おかえり。どうだった?」
俺は戻ってきた兵にニコッと微笑んで声をかけた。…若干口調やらが変わっているのは、先程リアと話していたせいだ。心がすぐに切り替わらず、少しイラつく。
フードを下ろした俺が微笑むといういつもならありえない光景を見て、騎士と生徒が一瞬ざわつき、およそ半数以上が赤くなった。…熱中症か?はたまた混乱しすぎたか?
「ぶ、無事、終わりました!」
僅かに赤い顔の副官が報告した。
「ん。結構。じゃ、行こうか。」
殺戮パーティへ。