第十五話
それは、唐突だった。
夜、いつも通り部屋に入り、ふと窓の外を視た瞬間
そらは、あかかった
次いで仮面が反応し、己の体を束縛していくのを感じつつ、ぐらりと倒れた。幸い、下はベッドで怪我もなく、大きな音もしなかった。
手足が痙攣したようにビクッビクッと動き、額を嫌な汗が伝う。仮面の下で、目を見開いたまま顔はピクリとも動かない。心臓が、うねる。
…俺は……おレは……だ、れ?
わたしは…ワタ、シは……なんだった?
心臓が、心臓が耐えられそうにないほどにうごく。
血が逆流し、記憶も逆流し始める。
今、は、なにヲすれば、イい?
アレは、…なんだっ、け……
遠い、遠い昔。それは遥かな昔。でも、昨日みたいに近い昔のこと。たくさんの顔が次々に走り抜ける。どの顔も、見覚えがあるように感じるが、誰だか思い出せない。
さらにたくさんの記憶。むかしむかしの、終わりと始まりのモノ。あれを、あのヒトをみると、心が、痛いほどに震える。
…こワい?うううん。チガう。
アレは…
あれ、は…
s…
コンコン、コンコン
「…長、カイト団長、いませんか?」
ハッと覚醒すると、人間の声が聞こえた。あれは確か…
「…副官、か?」
「そうです。寝ぼけてるんですか?」
あの団長が?という言葉を言外に含ませて副官は言った。
「何の用だ?」
「夜分にアレなんですけど、魔物が城下町に出たらしいですよ」
…さっきの影響かもな。もうおさまったが…
「ん、分かった。すぐ準備する。お前は適当に起きてるやつ4~5人つれて下で待ってろ。」
俺は口元の血を拭いながら副官に命じた。
この前、王太子と一緒に出かけた時に血を舐めたのはやりすぎだったかもな。軽くやばいかもしれない。今回は平気でも、次は…
汗を拭き、うがいをしてから、俺は仮面を外して具合を視た。さっきくらいの小さな発作ぐらいでは傷一つついていない。優秀な仮面だ。ただの魔封じならば、さっきの発作で数十個は木っ端微塵になっただろうに。
仮面をつけ、念の為に薬を飲むと、口鎧をして部屋をでた。
さぁ、show time(嗤)だ♪
おっと、テンションがおかしいな。気をつけないと。
記憶の影がチラついたが、胸を手で抑えて耐える。次第に薬が効き始め、夢の中のように体が軽くなった。
これで大丈夫。少なくとも、今夜は。
カツ、カツ、カツ、カツ…
階段下で指示を待つ6人を見て、仮面の下で静かに微笑んだ。