第一話
カイトは面倒くさそうに横の騎士を見た。めんどくさい。例え口元しか見えてなくても、その態度からその心境は丸わかりである。
「で、今度はどうした?」
「ワイバーンです。数は3。」
「多いな…ダリぃ」
あ、とうとう口に出た。…と副官は思ったが口には出さない。誰も自分の課題を増やしたいとは思わないのだ。特に、この団長の課題という名の地獄は。
ちなみに、多いとカイトが評したのはワイバーンの数ではない。最近の、魔物の発生頻度だ。ぶっちゃけるとワイバーン3匹はカイトが剣をひと振りするだけでまとめて真っ二つになる。カイトの、第九騎士団の騎士たちなら真面目にやれば、まぁすぐに片付くだろう。伊達にこの人外鬼畜野r…愛情溢れる優しき団長殿の訓練は受けていない。
参考までに、一応ワイバーンを冒険者がソロで挑むのは自殺行為とされている。A級魔物のワイバーンはかなり厄介なのだ、カイトの前では説得力がないが…
カイトは気だるげに立ち上がって指示を出していく。カイトは面倒くさがりで敬語も使わないし(使えないのか?)、制服は着ないし(常に茶色のコートと仮面という怪しすぎる出で立ち)、部下の訓練方法は人外鬼k…愛情に溢れているが、指示は的確、頭脳明晰、部下は間違いなく異常なまでに成長しているし、本人の戦闘力はまさしく人外。あと、ドS。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「多いな…」
俺はまた、ため息をついた。めんどくさい。めちゃくちゃめんどくさい。なんで騎士になったんだろ、俺。
のんびりとした動きで部下どもの方へ顔を向ける。ぶっちゃけ大して見てない。俺が付けている銀の仮面は、本来目の穴があるべきところに、緑色の石がはめ込まれている。仮面自体が魔道具だから、別に見ようと思えば視えるのだが、視る必要もないのにわざわざ魔力を動かす気も起きないので、今日も今日とて適当に指示を飛ばす。ぼんやりとした緑の視界で、騎士数名に課題を追加する。
「6番と17番、今日の風呂の湯をバケツで運んどけ。魔術、荷車、援軍一切使うなよ?」
「8番、手ぇ抜いたろ。魔剣の素振り、500追加で。終わるまで食事・睡眠なし。」
ちなみに魔剣とは、この場合魔力を全力で吸い取るヤバい系である。死なないように制限がかかっているとはいえ、持った瞬間に誰でも極限の疲労に追い込まれる。え?鬼畜?いやいや。これをやるとみんなかなり成長するんだし。
「おお…今日も相変わらずワイバーンが獲物扱いだな… 一応、A級魔物なんだけどな。」
馬の蹄の音とともに、呆れを交えた声がかかった。俺は顔を動かさずに同じく呆れた声を返す。
「今日も相変わらず暇人と変人を極めてるな、王子サマ」
「言っておくが、仕事はあるしサボってもないぞ?私は仕事の効率がいいからな。」
俺の言葉の後半を無視してドヤ顔で言うこの国の王子。とりあえず俺は、ワイバーンの首を、投げつけた。
王族に対する敬意が足りない?ハッ、俺にそんなものないからな!むしろここでグーパンを出さなかった俺は友人(笑)への敬意が溢れまくりだろ。
俺の表情…ではなく気配を読んだ副官がボソッと呟いたのが聞こえた。
「いや、それは自慢することでもないし、仮にも王族に向かって友人とか(笑)とか失礼すぎるでしょう」
俺は後ろを振り向いてニッコリ笑う。
とりまお前、午後の訓練1.5倍な?
副官が悲痛な顔をするが、まぁ放置で。ファイトー(棒)
一応、主人公はカイト。