お隣さんは転校生……だったらよかったのに
恋は盲目、という言葉は割と有名だが、人が盲目になる瞬間は、何も恋だけじゃあないとは思う。
例えば、応援しているチームが勝った時の興奮とか。
例えば、プレイしていたゲームをクリアし終えた時の達成感とか。
他にもそう、例えば、――こんな時とか。
HRが終わると、俺の後ろには想像以上の人だかりが出来ていた。
女子陣が主に質問攻めをして、男子陣は少し離れて気にしてないふりをしながらも結構ガン見してる、という光景が繰り広げられている。
それもそうだろう、中身はともかく、こんなにかわいい転校生が来たらみんな仲良くなってみたいに決まっている。あれ、中身無視してええんか?
そしてさぁ……頑張れよ男子、そこで詰め寄らないから彼女できねえんだよ!!!
そんな特大ブーメランを心の中で投げつつ、俺は席を立たずに彼女の声に耳を傾けていた。
「祥子ちゃんって呼んでもいい?」
「うん、みんなもそう呼んでいいよ~~」
「わー、近くで見るとすっごいキレイ!!何か秘訣とかあるの?」
「うーん、特に何もやってるわけじゃないんだけどなー、両親への感謝かなぁ?」
「あはは、何それ~~」
上手い!!上手いぞ祥g…子!まるで本当の女子みたいだ!!
無駄に語尾を伸ばすとことか、あの甘ったるい喋り方とか、男には理解できない部分まで忠実に再現してやがる!!!
……え、なんで?なんでこんなに完璧すぎるんだ?あれ、冷静に考えると結構キモイぞ??
「おーい、上島さん、ちょっといいか?」
「ん、なーに?」
質問の波が切れたタイミングで、祥子を呼び出す。
他の人には絶対に聞かれたらマズイので、廊下で喋ることにした。
窓際まで詰め寄ったところで、仮初めの笑顔を作りながら、気になったことをいくつか質問してみる。
「あのさ、その喋り方ちょっと完璧すぎない?」
「えー、これだって練習の賜物だよ?」
「その喋り方やめろ、頭痛が痛くなるわ」
廊下に人がいないことを目視してから、普通の顔に戻す。
「色々ツッコミたいとこがあるんだが……まずあの名前のくだりはいるのか、あれ?いらないよな?」
「ゴメン、アレ素で間違えた」
「そうか。日本語やり直せ、というか人生やり直せ」
「違う違うそういう意味じゃなくて。
最初はさ、岩田って名字にして、お前の前の席に座ろうかなーって思ってたんだけど、それだと俺がお前に嫌がらせ出来ないじゃん?
だから、転入届を直前で岩田から上島に書き直したんだけどさー。
ほら、思わずド忘れしちゃうことってあるじゃん?」
ねーよ。知ってるか?自分の名前を忘れたらそれはド忘れではなく痴呆と言うんだぞ?
「まあ、百歩、いや一万歩くらい譲ってそれをそれを認めるとして、だ。
何で突然自分の名前を黒板に書き始めた?」
「うーん、俺にもよく分からん」
「ふーん」
「その時の俺が無性にやりたくなったんでしょ。当時の俺に聞いてくれ。多分その時の俺も『分からん』って答えると思うけど」
なるほど、分からん。迷宮入りである。
「新学期の初日からかっ飛ばしすぎなんだよお前さぁ……」
「え?ダメなの?」
「ダメだから言ってんだよ!!君、立場って知ってる!?」
今の自分の立場を考えたことあるか!?
目立たないように行動するのが一番だよな!?
「うん、知ってるよ。でもさ、」
じゃあなんで、と言いかけたところで俺の思いを制するように祥吾がまくし立てる。
「自分の立場のために、自分を偽って、偽りの時間を過ごして。そんな時間、何が楽しいの?」
そう言った祥吾の声と表情は、まるで真剣な時のそれのように感じた。
小さく鋭い瞳が、俺の内心を射貫くかのように突き刺さる。
ん、まるで?
……はっ!?あぶない、一瞬納得しかけたぞ。
「お前は曝け出しすぎなんだよ、隠さなきゃいけないとこくらい隠せや」
申し訳ないが露出狂はNG。
とはいえ、偽りの時間が勿体ないという意見は大いに分かる。
100%無駄、とは言わないが、もう少し有意義な時間が過ごせたのではないか?というモヤモヤを感じてしまうことだって俺にもいっぱいある。コイツにはなさそうだけど。
「まあ、気持ちは分かった。ただ、目立っちゃいけないのは確かだからな?丁寧に行こうな?丁寧に」
「こんな容姿しといて目立たないわけなくない?はい論破」
「気持ちの問題に決まってんだろオタンコナス」
話を終えて一緒に教室に戻ると、やっぱりクラス中の視線を一手に受けてしまう。
その9割9分が祥吾に向かっているとは知っていても、隣にいるだけの俺ですら少し緊張してしまうというのに、コイツははたして大丈夫なんだろうか。帰りにでも聞いてやるか。
と思った矢先、さっきの女子陣の一人から俺に質問が飛んできた。
「あれ?潮くんって、祥子ちゃんとの知り合いなの?」
あ、マズった。思わずいつものノリで話し込みすぎてしまったけど、誰にも面識ないはずの祥子と俺がこんなに喋るなんておかしいよな。
何かフォローを考えないと――
「あ、ゴメンね。言ってなかったんだけど、実は俺、義明とは幼馴染で――」
隣の祥吾が突然ど真ん中ストレートを投げていた。
「タイムアウト」
思いっきり祥吾の首根っこを掴んでズルズルと廊下まで連れ出す。
グえっ、という到底女の子が出してはいけないような声が、突如ざわついたクラスの中に溶け込んでくれたのは不幸中の幸いだった……のか?
祥吾をドアの隣の窓まで引きずった後、今度は胸ぐらを全力で掴んでやる。
まるで弱者からカツアゲをするような体勢だ。転校生からカツアゲするヤンキーってなんだよ?
「ね?今の俺の話聞いてた?目立つことはやめろって言ったよな!?」
「く゛る゛し゛い゛う゛で゛は゛な゛し゛て゛」
確かにこんなんじゃ祥吾が何を喋っているか分かったもんじゃない。
祥吾が女であるということも忘れて、思いっきり男にやるようにやってしまった……
いや、親友以外にこんなことできない小心者だけどな。しかもやったこと全然ないけどな。
女の子相手にこんなことやるのは大人げなさすぎるので、身体の自由が効くくらいには力を緩めてやる。
解除はしない。女の子ではないから。
「ふう、やっと解放された。もちろん聞いてたよ?」
「聞いたうえでどうして俺を巻き込んだ?」
「え、だって支えてくれるって言ってくれたじゃん?」
「うん、まあ確かに言ったな?言ったけど、自分から災難を作ってもいいなんて一言も言ってないよな??」
あんなことを言われてしまったなら仕方がない、祥子の幼馴染っていう時点で俺も他の人から話題に上がることはほぼ確定してしまっただろう。
まあ、いいけどな。『ふーん』、で終わるような話題だし。
「というかさっき『俺』って言っちゃったよな?行動はともかく、言動はさっきまで完璧だったのに」
「うーん、一回戻しちゃうと、なかなか直らないみたい。練習不足だね、やっぱ」
さっきまで完璧だったっていうのも、それはそれでなかなかおかしいけどな。
「というか、早く教室に戻んなくていいの?」
「え?お前が言うなって話では……」
確かに、まだ耳には喧騒が聞こえてくるし、何ならさっきよりも大きくなってるような気もするけど……
あれ?おかしくないか?
初めて周囲に気を配ってみると、自分たちのクラスの人たちだけじゃなく、他のクラスの人達からもめっちゃ見られてたし、何ならみんな困惑してた。
そりゃそうだよな。『とんでもなくカワイイ美少女転校生が来た』って噂を聞いていざ向かってみたら、
何故か謎の男に首根っこ掴まれながらノリノリで喋ってましたーとか、
一目見ただけで、「ああ、あの二人は実は幼馴染で仲良しなんだなー」ってなるはずもない訳で。
ぐあぁぁぁ、しまったーっ……
思わずため息を漏らしてしまう。
なんだよー、初日からボロボロだったのは俺も一緒だった、ってオチかよ。
あんまり人のことをとやかく言うもんじゃないな。
人の振り見て我が振り直せ、ということわざが今の俺にはピッタリだ。
……え、コイツと同類!?ちょっと待ってよそりゃないって!!!
感想で昨日までに新話書きますとか言ってたくせに間に合わない雑魚、おる?wwwww
ごめんなさい喉痛かったり横浜から福岡の友人に遊びに行ったりヤフオクドームで野球見たりして書く時間なかったんです、許してください。
ヤフオク現地3連投です。木曜もハマスタ居たので現地4連投です。そりゃ喉も死ぬわな。
ちなみに今シーズンの現地勝敗は8勝10負1分です。明日は、勝ってね?
完全に深夜テンションで書いているのがバレバレな文章ではありますが今回はこの辺で。
今回もありがとうございました!!
次回は6月4日に更新します!!