お隣さんは転校生で幼馴染(?)
知っている人からの自己紹介で、ここまで新鮮に感じたのは多分これが最初で最後だと思う。
こんな経験2度とあってたまるか。
県立熊城高校。
俺と祥吾が通っている高校の名前である。
私学を含めても県内のトップ校であり、毎年半分の生徒が旧帝大や医学部へ進学するという全国トップクラスの進学実績を誇っている。
ちなみに風の噂によると、変人が多いことでも有名らしいが、この学校に入って以来、祥吾を超える変人に出会ったことは無いので、多分それは嘘だと思う。というかいたらソレは多分一般人を辞めてないと釣り合わない。
散り始めた桜の並木道を通って正門に入ったところで、転校の手続きとやらで職員室に向かう祥吾とは一度別れて、正面玄関前に大きく張り出されたクラス分けの掲示を見上げる。
自分や友達の名前を探して一喜一憂する同級生を横目に、遠くから俺も自分の名前を探す。
えーと、俺は……あった、3組か。去年と一緒だな、まあどうでもいいや。
そして本命の祥吾は……あれ、いない。
まさか、と思って他のクラスの分もすべて探してみたけど、やっぱり見つからなかった。
え、どういうこと……
ってそっか、転校生だもんな、そりゃあいないよな。というかむしろ居たら大問題だな。
クラスメイトの名前も見てみるけれど、幸か不幸か、俺にも祥吾にもあんまり親しくない人が多かった。
いや、祥吾の親友がクラスメイトにいたら気まずすぎるし、これはかなりラッキーなのかもしれない。
けど、転校するなら名前はどんな風に変えたんだろう?しまったな、そこは聞いておくべきだったか……
考えても仕方がない。人事は尽くした。あとは天命を待つのみだ。
「1年3組からきました、潮義明です、一年間よろしくお願いします」
退屈な始業式を終えて、教室に戻る。
やる気のなさそうな小さな拍手が、俺を微妙に迎え入れる。
お前らもうちょいやる気出せとか、俺の席窓際の後ろ側とか神席かよ、とか、
今の俺にとってはそんなことはどうでもよくて、脳内はただ一つのことに支配されていた。
どうかアイツがネタに全振りして別クラスに行きませんように……!!
他の人の自己紹介などお構いなし、両手を合わせて祈り続ける。頼む、頼む……!!
そして、担任の男性教諭はどうでもいい話の最後にこう続けた。
「突然だが、このクラスに転校生が来ることになった」
クラスが突如として騒然となるが、そんなの今の俺にはどうでもよかった。
今、「このクラスに」って言ったよな!?
よっしゃぁぁぁぁぁ!!!きた!!どうやら俺の祈りは通じたらしい。やったぜ。
あれ、どうして俺はこんなところで神様の無駄遣いをする羽目になってるんだ??
「入ってくれ」
「失礼します」
この声は間違いない、祥吾だ。良かった……
人の言うことをキチンと聞いてくれる子でホントによかった……
ドアが開き、祥吾が教室に入ってきた瞬間、騒然としていた雰囲気は一気に吹き飛び、全ての視線が祥吾に釘付けになって動かなくなってしまった。
彼女がこのクラスに適応するのではなく、このクラス全体が彼女のために変化する、と言えばいいのか……絶対的な王に服従する平民のような異様な光景が、目の前には繰り広げられていた。
うわぁ……スゴイな。
みんな一切喋らずにじっと目の前の彼女を見つめるのに精いっぱいだもん。
アイツなんて口開きっぱなしだよ。
俺がたどった道をみんなが歩む様子はなかなか滑稽に見えるが、やはり、それだけの外面的魅力を彼女は持ち合わせているのだ。
俺は今朝一度見てたからあんまり動ぜずに済んだけど、改めて見てもいいよなぁ……あの制服姿。
ウチの高校にもかわいい子はもちろん居るが、これはちょっと格が違いすぎる。
これ、コイツの中身が祥吾だって知ったら男子ども発狂するんだろうなぁ……可哀そうに。
ちなみに、男子どもの中にはもちろん俺も含まれています。当たり前だな!!
意識してゆっくり歩き、上品なしぐさを見せようとしている祥吾を見ると、思わず手に力がこもる。
頑張れ――!!と、膝に置いた手を握りしめ、彼女の自己紹介を見守る。
「初めまして、今日からこのクラスにお世話になります。よろしくお願いします」
よしよし、出だしは良さそうだ。願わくばこのままボロが出ないように――
「あ、すみません。名前を言い忘れてました。私の名はーー」
そう思った瞬間、祥吾は突然白チョークをもって黒板に名前を書き始めた。
は?
俺含めて全員が困惑する中、そんな様子を一切気にも留めず彼女は名前を書き続ける。
へえ、「岩田」という名字にしたのか。
「あ、間違えました」
へえ、「岩田」じゃなくて「上島」って書きたかったんだー。
んなわけあるかあああああああああああああああ!!!
どこをどう間違えたら名字を間違えるんだ!?
ついに本当に日本語が不自由になってしまったのか!?
そもそもこんなに自己主張強い転校生がいてたまるか!!!!
しかも字が綺麗なのが余計にムカつくぅぅぅ!!!
ボロが出ないどころか既にボロボロだった。
左の腿を全力でつねり、ツッコミたくなる衝動をグッと堪える。
耐えろ、耐えるんだ……
名前を書き終え、祥吾が再び前を向く。
「私の名前は上島祥子って言います。改めてよろしくお願いします」
チョークの粉が付いたままだぞ、とか。
祥子って祥吾から濁点抜いただけじゃねーか、とか。
その漢字で上島って呼ばないのかよ、とか。
またしてもツッコミたいところが溢れ出しているが、
これ以上は真に受ける方がアホらしいので、一旦思考を停止して状況を受け入れることにした。へー、わー、すごーい! いや最後は違うな。
担任の男性教諭さえも呆気にとられていたようだが、気を取り直して、説明を続ける。
「えー…、実家の都合でこっちに引っ越してくることになったそうだ。
名簿順だから、えー……潮―手を挙げろー」
「はい」
「あの後ろが空いてるから、あそこに座ってくれ」
「はい、分かりました」
今の奇行を一切感じさせない様子で、堂々とした足取りで彼女がこちらへ向かって歩いてくる。
そして、俺の真横を通り過ぎる瞬間、小声でこう囁いた。
「……………」
いや俺にも聞こえない程の小声で喋ってどうすんねん!!!!
今のように2~3千文字程度の短いやり取りをポンポン繰り返すのと、4~5千文字のある程度のやり取りを一気に投稿するのって、どっちがいいのでしょうか?
感想欄とかに意見を書いていただけると泣いて喜んだあと犬のように従順にそっちの意見に従う所存ですので、心優しい方、ぜひお願いします!!
今回もお読みいただき、ありがとうございました(^▽^)/