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親友が女になっちゃったので全力で愛でたいですが。  作者: 落単 竜念
現実は甘くない。かといって理想も甘いわけじゃないらしい。
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かわいいに謝れ

俺が祥吾に弄ばれていると、時計の針はもう2時を回ろうとしていた。


そろそろ限界が空腹だったので、祥吾と共にフードコートに移動して、俺たちは向かい合ってラーメンをすする。


既にピークを過ぎており、デザートを食べている中学生の集団なんかに混ざってラーメンをすするというのは何となく浮いているような気がするが、まあいっか。


そもそも俺たちの存在自体が浮いてるようなものだし。



ズズッーと勢いよく麺をすする音が二人分響く。ん、二人?あれ?


「なんでお前も全力で麺すすってんの?」


思わず気になったので、祥吾に聞いてみる。


「え?ダメなん?」


「うーん、ダメというか、女子でそんなに全力で麺すすられると困惑されそうじゃないか?」


他の男とか見たら結構マイナスじゃねーかな。


俺は別に気にしないけど。


「うーん、美味しく食うのが一番だと思うんだけど……ダメ?」


さっきのように、あざとい笑みを浮かべて上目使いで訴えかけてくる。



ふっ、甘いな。どんなに面白い一発ギャグでも2回目は面白くないって学んでこなかったのか??


悪いが、さっきテメーに散々弄ばれた俺に通用すると思うなよ!


「あ……ああ、やっぱりそれが一番だよな」



はーい思いっきりドモりましたー。


ま、勝てるわけないんですけどね。多分一生勝てない気がする。



え、一生ってお前それ大丈夫か?


50年後にもなってババアの笑顔にやられるジジイとか誰が求めてるんだよそんなの。


それはそれで一周回って面白そうだけども。


「だっさww思いっきりキョドッってるしー」


「うっせー!!自分でも分かっとるわい!!」


悲しいけど、これが現実なのよね。


嬉々としてラーメンをすする祥吾の姿は、さっきよりも活き活きとしているように見えた。


なんか今日って目の錯覚多くない?


それからテーブルに肘を置くな!!



「デザートどうする?」


「うーん、いいや、お腹いっぱいだし」


「あれ、そうなん?」


「自分でも知らなかったんだけど、身体に伴って胃袋もちっちゃくなっちゃったみたい。


てか今思ったけど女の子が『ちっちゃい』って言葉使うのかわいくない!?小っちゃい女の子!」


「おまわりさんこいつです」


まあ確かに、その辺の身体的な変化もいろいろあるのか。


というか、こうして話してると声の高さが違うのが一番の違和感なんだけど。



声かー。あー、カラオケ行きてえ。


「カ?」(カラオケ行きませんか?の略)


「カ?〇」(カラオケ?オッケー!の略)


おおよそ日本語とは思えない言語でコミュニケーションが取れてしまうあたり、やはり俺も少々おかしなやつなのかもしれない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ということでモールを出て5分歩いてやってきました、俺たちの行きつけのカラオケ店。


いつものようにカードと学生証を提示して、3時間600円でフリードリンク付きとかいうぶっ壊れサービスを享受する。


こんだけ安いと死ぬまで通いたくもなるが、以前見かけたどうみても社会人っぽいスーツ姿のおっさんが古びた学生証を提示している様子を見て諦めた。


あまりにも情けなさ過ぎて当時の俺がお代を肩代わりしようか考えたレベル。なにそれやばい。




まずは普段祥吾がいつも歌っていたJ-POP曲を入れる。


「あの頃きーみーとー……うわぁ、低音出せねぇ!!!

マジかー、これ歌えなくなってるのかー」


やはり、声変わりならぬ声戻りの影響は大きいらしく、露骨に落ち込む祥吾。


歌える曲のレパートリーが大幅に減ったのは確かに可哀そうだが……


「逆にアニソンとかいっぱい歌えるようになったんじゃないのか?」


祥吾の目が活き活きと輝きだした。


元々祥吾は表情がコロコロ変わるタイプではあったが、女になるとそれが更にハッキリと分かるようになった気がする。


全てを忘れて思いっきりはしゃぐ姿を見てると、思わずこっちまで笑顔にさせられてしまった。



何たる屈辱……末代までの恥じゃん。



「おお、ホントだ!!お、これ歌えるじゃん!!ラブ、ラブ、ビッグバーン!!」


「ガッチガチの電波ソングやめろ」



所々音が裏返ったり、音程が狂ったりはしていても、全力で楽しんでいる祥吾の姿を見ていればそんなのは気にもならなかった。


俺は俺で、美少女とのカラオケという夢空間を堪能できたからまあいっかな。


女の子の瑞々しい肌が踊る姿というのはいいものだ。


たとえそれが、友人に向かってオ〇ニーの何たるやを講義してくるような頭のわるい中身をしているような男だったとしても。


アカン夢が一気に崩れてきた……。



「さーて、じゃあ最後に『まんげつ』を――」「それはやめろ!!!!!〇すぞ!!!」


カラオケボックスの中でくらい、夢を見させてくれませんか。ダメですか。



つーか俺にもちょっとは歌わせろよ!!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――



外に出ると、薄暮の前の白い雲と赤くなりかけの淡い光が街並みを照らしている。


どこからか聞こえて来るピアノ調の蛍の光が、俺たちの一日の終わりを優しく告げている気がした。



「そろそろ帰るか」


本当は街で夕飯まで食っても良かったんだが、夜遅くまで女の子を連れまわすって、個人的には気が引ける。


いや、女の子って言っても中身はやべーやつなんだけど……なんというか、世間体?


「いいけどー、じゃあ最後にプリクラを撮らないか?」



「えっ」


えっ。



思わず反射と内心でハモってしまった。


お前どう見てもそういうの苦手なタイプだろ。何があったんだ。頭でも打ったか?


こんな状況だと頭を打ったっつーのがあながち冗談とは言い切れないから困る。俺の冗談を潰すな。



「だってさ?服見て飯食ってカラオケ行って……ってガッチガチのデートしたんなら、折角だし最後までデートやりたいって思うじゃん?」



言われて思い返してみると、まさにその通りだったなと実感する。


中身は全く別物なのに、言葉にすれば綺麗なデートをしたようにしか思えない。


おかしい、こんな事は許されない。



「それにさ、」


祥吾は続ける。


「どうせなら、女になったこの時間も楽しまなきゃ。何もしないなんて勿体ないよ、きっと。


一回きりの人生、折角なら楽しんでいきたいじゃん?」



何気ない表情を浮かべながら、凛々しい表情で祥吾がつぶやく。



……その心が強いと思った。勝てないな。お手上げだ。


こんなに自分を信じきれる強さは、どこから生まれてきたものなんだろう。


隣で歩いていたフリをしていた彼は、いつの間に俺のはるか前方を走っていたのだろう。



物思いに耽りながら、隣で一緒に歩く祥吾を流し目に見つめてしまう。


焦点をどこにも合わせていないその瞳が一体何を見つめているのか、俺には分からないけれど。


こんなに強くて恰好いい祥吾だから、俺はコイツと友達でいたいんだ、と。

俺は憧れていたいんだ、と。


それだけは、心にハッキリと刻み込まれたような気がした。



ついでに言えば、こんなにカッコいい雰囲気のままゲーセンに向かってんのは、どうみても間違いだとも思った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



外の柔らかい天気なぞおかまいなし、ゲーセンは今日も今日とて騒音と機械音で俺たちの鼓膜から襲いにかかってくる。


が、本日の俺たちのメインはそっちじゃねえ、プリクラコーナーである。


男がプリクラについて詳しい方がおかしいので、とりあえず空いている機械に入ってみる。


何枚目かの100円玉を入れ終えると、突然頭のわるいアナウンスが響きだした。うるせえ。


どうやら、フレームや美白効果なんかについての設定を選べる仕組みになっているらしい。


面倒くさかったので、全部右を選択する。



友達モードと間違って恋人モードを選んでしまったのは見なかったことにした。



それじゃあ、次は「〇〇のポーズ」でいくよ~~♪♪ 3.2.1 パシャ!!



あたまのわるいアナウンスの指示通りに、様々なポーズを撮っていく。


二人でハートマークを作ろうとして綺麗なグータッチを決めてみたり、ぶりっ子の一番うわっ……てなる角度を研究してみたり、拳で抵抗してみたり。


脳をフル回転させて、何とかネタになるポーズを作り続けてみる。



ところでさ。


最初は勢いだけでイケても、頭が冷えてくると後々辛くなってくることってあるよね。


勉強とか、掃除とか。



……つまり何が言いたいかというと。


この状況、超絶死にたい。



ねえ、何で?何で俺たちは男二人でプリクラを撮る羽目になってんの?


なんでプリクラで全力で頭脳を使う羽目になってんの?


冷静になって考えてみると、写真なんて携帯で撮ればよかったやん?おかしくない?



後ろ向きな思考を音声が遮る。



「それじゃあ最後は、二人でキスをしながら!二人の愛の証を撮っちゃうよ~~」



うわぁすまんな音声さん、流石にそれは乗ってやれねえな。無理ゲーだ諦めよう。




そう思って隣をチラリを見ると、妙に乗り気の方が約一名いらっしゃった。


え、マズイんですけど。流石に俺まで被害者にされるのは勘弁してほしいんだが?


焦る俺をよそに、ガイド音声に釣られて祥吾が迫ってくる。



目を閉じるな口を近づけるな近い近い近――って


「なんで口だけ近づけとんねーん!!!」


撮影機が写真を撮るパシャッという音と共に、

パッチーンとブッサイクな左頬が叩かれる乾いた音が機械の中に響いた。



あれ、叩く必要なかったくね?まあいいか。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――



帰り道。


行きと同じ路線のバスで最寄りの停留所に着いてから、夕焼けの田舎道を二人並んで歩く。


春の陽気は既に消え去り、わずかに残った寒い冬風がなびいて木々を揺らしていた。


「流石にさっきのビンタはやりすぎじゃん!?」


「すまん、思わず安心しちゃって」


「え?なんで安心したら思いっきりビンタ喰らうのおかしくない?


つーかまだ腫れが残ってるんだけど?どんだけ全力で叩いてんの?」


ビンタを浴びせたことについてはともかく、いくら祥吾とはいえ今は女なのだ。


流石に女の子に全力ビンタはまずかったかなーー


「もー、女の子に暴力ふるうなんてサイテー」


そんなことはなかった。


むしろ、どうぞビンタしてくださいと言わんばかりにあんなに口だけ尖がらせといて、ビンタをしなかった方が失礼にあたるのではないだろうか。タコかよ。



とはいえ、もしあの時、真面目に迫られていたとしたら俺は素直にコイツを拒めたのだろうか。


思わず隣で歩く彼女の口元に視線が移ってしまう。


……男のそれとは違って、荒々しくないし、綺麗に整っているようにも見える。



もしも、もしもの話ではあるけど。


あの柔らかい唇にキスをしたらどんな感じなんだろうかーーと考えかけてギリギリで踏みとどまる。


いやいや、さっき平気でビンタしていたよな!?


え、ええっえ、ええ。どうした俺。今日はいつにもましておかしいぞ。


いや、その言い方だとまるで俺がいつでもおかしい存在みたいじゃないか。そんな存在は祥吾だけでもうお腹いっぱいだよ。


はぁ、何考えてんだ俺ーーと思った瞬間、祥吾が呟くように話しかけてきた。


下心はないんですごめんなさいーー


「今日は、ううん、これからの分も先に言っとく。ありがとう。」


「なな、なんだ?急にどうした?」


「何となく。急に言いたくなってさ」


今のタイミングで言うなや。心臓止まったわ。成仏します。


俺の内心を知ってか知らずか、彼女は続ける。


「女になってもさ。いつもと変わらない景色を見て、いつもと変わらない義明がいて。


いつもとは違う遊び方だったけど、これもいつもと変わらない楽しい一日で。


永遠に変わらないものなんてないけどさ、こんな毎日は変えたくないなーって思うんだ」


「そっか」


「うん」


無言で歩く二人の上空を、遠くから響いてきたカラスの鳴き声が通り過ぎていく。



祥吾が何を考えて生きているのかなんて俺は知らないけど。


きっと、祥吾も消えない不安を抱えながら生きているんだ。


だったら、俺も俺の出来ることをやろう。


覚悟を決めて、コイツの「当たり前」を守ってやろう。


「守るよ」


「え?」


「いつか、お前が男に戻るまでは、俺はずっとお前の味方でいてやるよ。約束する」



俺がそう言うと、祥吾が急にキョトンとした顔になって固まってしまった。



……はよ何か言えや。恥ずいわ。


「……お前ってさ、そんなに恥ずかしいことを言えるタイプだったっけ?」


「聞くな。お前の熱に当てられたんだろ」


「ふーん」


満更でもなさそうな顔で祥吾が頷く。やめろ、ニヤニヤしてこっちを煽るな。


でも、今言った言葉は嘘じゃない。


支えになるって、俺は既に決めていたはずなんだ。



ーーじゃないと、きっと後悔するから。



「はーあ、女になって祥吾を煽るのがここまで楽しいだなんて知らなかったよ」


「俺も。女のふりをした男にここまで狂わされるなんて知らなかった」


普通は絶対知らずに一生を終えるはずなんだけどな。


つくづく数奇な運命を迎えてしまったものだ。


ま、後悔はしてないし、コイツと一緒ならする暇もないに違いない。



家の前まで着いて、じゃあ、またなーーと別れようとしたところで呼び止められる。


「どうした?また何かあったか?」


「これから俺が女として生きるにあたってさ。一つだけ、先に言っておきたくて。」


彼女は笑って続ける。


その頬はほんのりと朱く染まっているような気がしたのは、俺の幻想だろうか。



……これからの人生、いつまで続くのか分からないけれど。


誰と知り合って、誰と仲良くなって、誰と付き合ったとしても。


「いつかきっと、好きになるから。その時はよろしくね!」



彼女のあの精一杯の素敵な笑顔とあの一言は、一生脳裏に焼き付いて離れないんだと思う。

モチベを保つのって難しいですね。


なんで1日を描いただけでこんなに疲れているのか……どうみても欲張りすぎです本当にありがとうございました。


気になる人は「まんげつ カラオケ」で調べてみればいいんじゃあないですか。

ただし、間違って他の方に見られても責任は負えませんごめんなさい。

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