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親友が女になっちゃったので全力で愛でたいですが。  作者: 落単 竜念
現実は甘くない。かといって理想も甘いわけじゃないらしい。
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かわいいを作るには

「カワイイは正義」という言葉をよく耳にするけれど、言いえて妙だ。

カワイイは正義であって、善ではない。俺たちはただその強大な力に屈服することしかできないのである。

 広大な一本道のアーケード街は、いつものように活気であふれていた。


長方形の模様に規則正しく並んだ地面やドームのような半円筒型の屋根、時折現れるS字のような休憩所はいかにも近代的なのに、未だに残っている古びた外観の雀荘や、屋根に吊るされた沢山のローカルな広告が、隠せない田舎感をありありと表現しているように見える。


 春休みの平日ということもあって、無駄に手を挙げて騒ぐ男集団の猛々しい声や、アイスクリームをお互いに食べさせ合っている女の子たちの姦しい声が屋根に反響して響いていた。


つまりはいつもよりうるさい。


こいつらどっからこんな声出してんの?命の危機迎えても同じ声出せんの?


傍から見れば、俺たちも若い男女のカップルに見えるのかもしれないが、事情を知ってる俺たちからすれば、そんな扱いまっぴらごめんだ。


行く当てもないので、とりあえずデカいショッピングモールを目指しながら二人で歩く。


それにしても、歩くたびにチラチラとこちらを見てくる人の多いこと多いこと。


なんでこんなに俺たちが注目集めてんの――っていえば、まあ間違いなく隣で歩いている祥吾(仮)の姿に騙されているからなのだろうけど。


それは、こうして第三者からみてもやっぱりコイツが魅力的に映るのは間違いないということを証明していた。


人の第一印象は顔で決まるという言葉をよく耳にするが、その点で言えばコイツは100点に近いし、その上にコミュ強でもあるのだから、その評価は更に上がるだろう。


第一印象だけで言えば世の男性が絵に描いたような理想の女の子になれるに違いない。


『その後の印象?知らない子ですね。』


とばかりに自らその印象をぶち壊しに行ってしまうのと、本来は男であるということが問題なだけで。


あれ、欠点が致命的過ぎませんかね。


隣を歩いていた祥吾も、やっぱり他人の視線をよく感じていたらしい。


ほんの少しだけ肩をすくめて、


「なあ、俺ってやっぱり美人なのか?義明から見てどう?」


と聞いてきた。 口裂け女かよ。


本当は素直に褒めたいところではあるが、そんなことをしても、本来男であるはずの祥吾からしてみれは複雑だろうし、


俺は俺で、素直に褒めるなんて行動を取れば間違いなくそれをネタに祥吾から煽られるに決まっているので、あえてぶっきらぼうに答えておく。


「さあな。外見は美人なんじゃねーの?中身は知らん」 


「パッケージだけよくて中身クソってダメな美少女ゲーのテンプレじゃん……」


知る必要のない情報がまた一つ増えてしまった。


というか、お前から教えてもらった情報で役立つものは果たして出てくるんだろうか。


――――――――――――――――――――――――――――――――


そんなこんなでショッピングモールに着く。


建物の内部は7階建てで、婦人服の売り場は5階にあるようだった。


試食のおばさんや主婦で溢れる食品売り場を横目に、外の景色が見えるエレベーターに乗り込む。


上昇していく様子をまじまじと見つめる中、一緒に乗り込んだ小さな女の子がちょっと怯えて母親の服を摘まんでいた。


微笑ましくて思わず笑顔になったが、これで祥吾からの冷たい視線を食らうのは流石に納得いかなかった。



なんでだよ、「YESロリータ、NOタッチ!!」ってお前も言ってたじゃねえか。


つーかそもそも俺はそんなこと言ってねえよ。まずYESロリータの時点で大問題だろうが。



「ファッションにこれっぽっちも興味ない二人でどうやって女性の服を買えばいいんだ?」


「分からん。でもないではないだろ。店員さんにオススメの服を聞いてみるとか、マネキン買いをしてみるとか」


「お前……天才か?」


以前のように目をキラキラさせて俺の方を見つめてくる祥吾。


これだけ素直な羨望の目線を向けられると少々恥ずかしく感じてしまうが、残念。


お前がアホなだけやぞ。まさに残念系ヒロインである。ヒーローどこだよ。



そんなことを話していると、いよいよ女性服のフロアに着いた。着いてしまった。


問題はこっからである。うわぁ、マジで女物の服しかねぇ。


女慣れしていない男二人で女物の服を選ぶってやっぱ厳しすぎない?実質罰ゲームじゃん。


そもそも自分が着ない服を選ぶってこと自体に猛烈な違和感があるな。


適当に色々なお店をぶらつきながら、気になる服を選ぶ作戦でいこうか。


というか、経験も知識もない俺たちにはそうするより他なさそうだ、一軒一軒巡っていこう。


「うおお。お。おぉぉ?」


思わず逃げようとした祥吾の腕を無理やり引っ張り、まるで壊れておもちゃみたいな声を上げた祥吾と共にお店へと入っていく。


こうしている俺たちの姿は、もしかして無理やり彼女をファッションデートに付き合わせているカップルのように見えたりするのだろうか。


せめて逆だろ。なんで俺が女物の服を無理やり選ぶんだよ。



「いらっしゃいませー、何かお困りでしょうか?」


「すみません、初夏に合う服を探しているんですけど……」


何軒か巡った結果、結局オシャレについては二人とも一切分かんないので店員さんに全部聞こうという当たり前の結論に俺たちは辿り着きました。


やっぱり俺たち頭悪いな。勉強はできても地頭は悪い典型的な例である。


「どういう系統が好みだー、とかあります?」


「ううん、特にはないですね。店員さんだったらどういう服を選ぶんだろう、って気になったのでー」


「私、ですか?そうですねー、今日は暖かいですからこういう服なんかお似合いだと思いますよ」


付き添いで来た俺を気にも留めず、店員さんと祥吾が服選びの談議に花を咲かせている。


ここに来るまでは、えらく嫌そうにしていたが、来てしまえば意外とノリノリでいけるらしい。


というか流石は祥吾、女になっても相変わらず抜群のコミュ力である。


そもそも、自分から話しかけに行ける時点で強いよなー。


あのコミュ力だけは羨ましい。おまけでついてきてしまう下ネタ知識はいらない。

 

他にも何着かオススメの服を見繕ってもらって、祥吾が試着室に入っていく。


チラッと服が見えたが、割と淡い色を基調にした服が多めなように見えた。


どれもよく似合いそうだ。まあ、素材が良いからほぼ全部似合うんだろうけど。


店員さんと話しながら何故か祥吾がニヤニヤしてるのだけはすっごい気になるけど……まあ、落ち込まれるよりはいいか。


俺は、試着室に行った祥吾を、その出口付近で待つことにした。


それにしても、やはり店員さんも含めてこの店にいる俺以外の全ての人間が女性という空間には、やっぱり慣れなくてどうしても緊張してしまう。


ああ、意識すると余計にダメだ。


なんとなく、女性の甘ったるいような匂いがするような幻覚すら感じてしまって、どうも落ち着かない。


仕方がないのでスマホを取り出してゲームをしていると、先ほどまで祥吾と喋っていた店員さんから茶々を入れられる。


「もしかして、先ほどの彼氏さんですか?彼女さんの服を一緒に選んであげるなんて、優しい彼氏さんですね!!」


店員さんも、もちろん仕事中だからその営業スマイルのまんま話しかけてくれるんだろうけど。


こう、男に対して気さくに喋ってくる女の子はとても好感が持てると同時に、とても危険な存在である。


慣れていない男の子なら、直ぐに勘違いして好きになった挙句、『もしかしてあの子、俺のことが好きなのかな?』なんていう黒歴史不可避な台詞を周りに言いふらしてしまうに違いないのだから。


俺の悪口はやめろ。小学生あるあるだから!


少なくともこのトラップに1割の男子は引っかかったことがあるに違いないだろう。


もちろん全然違うし、そんなことは天地がひっくり返っても起きないのだけど、ここは俺も女性慣れするチャンスだし、店員さんが作ってくれたノリに乗って喋ってみよう。


「そうなんですよー。一昨日までは彼だったんですけどねー」


 あ。


「え?え?」


「ああ、すいません、何でもないです忘れてください。


 本当は彼女ではないんですけど、いい友達ですよ、あはは……」


いかんいかん、つい祥吾と話すように冗談を言ってしまった。いや真実なんだけど。


女の人=祥吾だと思ってたとかどんだけ女慣れしてないんですかねこのバカは?


「おまたせ、待った?」


俺のミスで二人の空気が少し気まずくなったこのタイミングで、祥吾が試着室から戻ってきた。


ナイスだ!!


「おう、待った……ぞ」




……と思っていた時代が俺にもありました。


「どう?似合ってる?」


 祥吾は薄手の白のブラウスに淡い青色のカシュクールワンピースを着ており、頭には黒のクロッシェを被せていた。


本来の姿とは違い、清楚で天然なお嬢様のような服装に黒のクロッシェが落ち着きを与えており、可憐でありながら女性としての強さも感じられる。


これ、ちょっと被りづらいな……と頭上の帽子を押さえて一人ごちた姿に、まるで彼女の近辺だけが避暑地の別荘になってしまったかのような錯覚を覚えた。



……いやもう無理!!!これ以上直視できねぇ!!


アイツは男だアイツは変態のドン引かれ野郎だ……と頭で分かってはいるのに。


理性で考えていることを全て吹き飛ばしてくるほどに、可愛さが直接本能的に訴えてきて抗えない。


暴力的な可愛さである。


「はいはい似合ってる可愛い結婚したい」


必死に目を逸らしながら褒めてはみるものの、それで納得する女性はいないに決まっているわけで。


「えー、誠実さがない。やり直しー」


この状況を楽しむように、祥吾もあざとい猫なで声でお褒めの言葉を要求してくる。


あー、嫌すぎる。


そんなに表現のボキャブラリーが多い方でもないし、そもそも女の子の服を褒めたことなんてないから何を言えばいいのかわからねぇ……!!


とはいえ、周囲に人のいる状況で冗談を言うわけにもいかないので、諦めて素直に褒めることにした。


「すげえいいとこ育ちのお嬢様っぽい、淡い色ってすごい好きだから個人的にはめっちゃツボ。

中身を知らなかったら街中で2度見するレベル」


俺がそう言った瞬間、祥吾は目を丸くしてきょとんと身体を硬直させたかと思うと、両手を口元に当てて爆笑し始めた。


アレ?なんか俺凄いこと口にしてないか?いや気のせいだよな?


真面目に考えると黒歴史確定なので、振り返らないことにした。


その爆笑するときに体をよじらせるのやめろ。


その身体でそんな仕草されるとかもうなんか色々と残念過ぎる。


「あーはっはっはwwwwwwwwおもろすぎwwwwチェリー丸出しじゃんwwwwww」


男であった事実を微塵も隠さないように、思いっきり腹を抱えて下品に笑ってやがる。


何つー笑い方してんだお前。


女の子がそんな笑い方すんなや……と言いかけたところで、コイツが一昨日まで普通の男だったことを思い出す。


ほーん、つまり俺は男に見惚れたやべー奴ってことか?死にてえな?


いや、人の家で平気で屁をコケるようなその中身に惚れたわけじゃなくて、まるで造られた人形のように綺麗な外見に騙されただけだからセーフ、ギリセーフのはずだ。


と俺が理性と本能のギャップに苦心していると、目の前の祥吾からLIMEが届く。


『いやー、童貞殺しの服って本当に童貞殺せるんだなwwww

ありがとう、また一つ賢くなったわ』


さっきまで激しく争っていたはずの本能くんが今のパンチで一撃で沈みました。


ああああぁぁぁ!!


試着室に入る時に妙にウキウキしてたと思ったらそれが理由かよ!!!


顔を上げて睨みつけるように祥吾と目を合わせると、見下したような尖った目つきでまだ「にひひー」と笑っていやがった。


小さな瞳と相まって視線はものすごく冷たいのに、笑いをこらえきれない口元が冷徹な雰囲気を台無しにしているようで、完全に煽られているようにしか見えない。



くっそ……コイツもし男に戻った瞬間絶対に左ストレートぶちかましてやるっ……


祥吾は一通り満足げな表情をすると、また試着室に戻っていった。


ちなみに、この後数パターンにも及び童貞殺しの服を見させられて、その度に俺は理性と本能の狭間で発狂する羽目になった。


最初の方こそまだ大笑いしていた祥吾だったが、途中からだんだんつまんなさそうにされてきたので、


「どうして俺の揺れ動いてしまう心とは対照的にお前は無表情なんだ」と聞いてみた結果、


「何度も同じようなリアクションしてくるから3度目くらいから俺のリアクションに飽きた」とのこと。なんで俺はいつの間にリアクション芸人になってんだよ。


あまりに理不尽すぎて絶句していると、何故かそれを肯定と受け取ったのか、しばらく自慢気にリアクションのバリエーションや模範的なリアクションについて解説し始めていたが、俺はそんなもん一切聞く気になれなかった。


ここで祥吾に一句叩きつけてやりたい。


かわいいが やっぱりともだち やめたいなぁ!!!

このくだり、攻守交替して後々もう一回やる構想を練っているんですが、既に楽しいです。

というかデートをお昼からにしたせいでこのあとの時間の潰し方が思い浮かばなかったんですが、これ書いてる時に思い浮かびました。やったぜ。

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