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親友が女になっちゃったので全力で愛でたいですが。  作者: 落単 竜念
現実は甘くない。かといって理想も甘いわけじゃないらしい。
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かわいいは正義だがそれだけじゃ解決しないこともある

異世界に転生した人たちがまずこれを一切考えてないのいっつもすっごい疑問だったんだけど――

こんなに強い人になれたらいいなって、そう強く思うんだ。

そもそもこんなことを考える羽目になったのはコイツが女になっちゃったのが原因なわけで……。


中身は男なのに身体は女。そんな話題をネットやTVで何回か聞いたような気がするんだよなぁ……どこだったかなぁ。コナン?いや違うだろ。それでも性別は変わってねえよ。


推理を続けていると、思わずコナンのメインテーマが脳内再生されてしまうせいで、何度もコナンの顔が思い浮かんでしまう。


ああああコナンじゃねえって言ってんだろ!!コナンから離れろ俺の頭!!!!


遠い話だと思ってたからその時は適当に聞いてたけど、こんなことになるんだったらその話題も真面目に聞いておくべきだったなぁ。


いやいや100%無理だろ。こんなん予想出来たら未来予知ってレベルじゃねーぞ。


んじゃなくて……。


あ!思い出した!


「おい!!!!男に戻る方法見つけたぞ!!」


「え!?マジ!?」


「手術すればいいじゃん!!」


そうだよ、性転換手術だ。


たまにテレビでも話題に出ることがあるし、実際に男から女に性別を変えたオカマタレントだって何人もいたはず。


男から女になれるのなら、女から男になれないってこともないだろう。


言い切った途端に、祥吾の顔が蒲公英(たんぽぽ)の花が咲いたような笑顔を浮かべてくれる。


やめろ、そんなにカワイイ笑顔を向けるな。


平気で性知識を俺に振りまいてくるような歩く18禁のくせになんでそんなに素敵なスマイルなんだ……っ!!


お前はなぁ、アレだ。ゲーム終盤に出てくる魔王みたいにグェッヘッヘって気味の悪い笑いを浮かべてりゃいいんだよ。スッゲー似合いそう。


クソッ、女子と喋った経験がほとんどねぇから目を合わせづれえ……。


なんかもう、異性が目の前にいるっていう時点でスゴク緊張してしまう。


落ち着け、コイツは男、コイツは変態、コイツは人間的な何か……。



というか、いっつも下ネタ言いやがるせいで飽きられるくせに、何故かそのくだらない下ネタを定期的に思い出して聞きたくなってしまうところとか、タンポポの種そっくりだな。


タンポポの種もいっつも服にくっついて邪魔になるくせに、たまに童心を思い出しては茎をつまんでフーっと飛ばしてみたくなるもんな。


あれ、そう考えると今さっきの俺は意外とうまいこと言ったのかも知れないのか?


うーん、どうなんだろう……。流石に失礼か。  すまんかった、タンポポ。


「お前……天才か?」


まるでおバカ系アイドルのように、ふにゃりとしたカワイイ称賛の笑みを浮かべている。


あーあ、コイツの本性を知らなければただの可愛い天使にしか見えないのになー、勿体ない。


何とも勿体ない。


飯食って帰ってきたらソシャゲのイベントのラストスパート忘れてて報酬逃した時くらい勿体ない。あれ、こう書くと大したことないぞ、おかしいなぁ。


「俺たちのところって一般的に見れば頭いい高校らしいぜ?」


俺の言葉にグッ、と親指を立てて祥吾が反応してくれる。


「まあ、本当に頭のいい奴らはほんの一部だけどな……」という祥吾の言葉は悲しい程に事実なので、素直に聞き流すことにした。


そうと決まれば早速調査だ。OK、google?


スマホを取り出して二人でそれぞれ検索を始める。


なるほどな。性転換手術というのは、基本的には性同一性障害の人が手術を受けるらしい。


手術自体は1日足らずで終わるが、カウンセリングやその後の生活の適応などを含めると半年から1年ほどかかる、か……かなり大変やなーこれ。


ってうわ、安くても100万くらいかかっちゃうの!? 


ガチャだったら3000連!?。こう書くと100万円ってすっごい大金だな。


つまり10連ガチャは安かった……?



でも、逆に言うと時間とお金さえかければちゃんと男に戻れるのだ。


祥吾にとってはこれ以上ない吉報だろう。


でもなー、こんなカワイイのになー。


個人的にはど真ん中ストライクなんだけども、仕方ないか。


にしてもすごい変化球だよな、本来なら敬遠球のはずだったのに神様のせいで猛烈な変化がかかって突如俺の好みど真ん中に入ってきてしまった、みたいな。


つまり何が言いたいかというとど真ん中ストライクでも初見じゃ打てないよね、ってことです。


いやーでもなー。しょうがない、しょうがないって分かってはいるんだよ?


分かってはいるんだけど、納得がいかない、というか。


江戸時代の人々は、マグロのトロの部分を「脂っこすぎる」という理由で捨てていたそうだが、今まさに同じような状況を俺も味わっているような気がする。


その人にとっては当たり前の事なんだろうけど、傍観者の意見的には「うぁぁぁ勿体ねえぇぇぇ」、みたいな。


まあ仮に手術で男に戻ったとして、それでもまた突然祥吾が女になったらどうなるんだろう。


『え!?俺この間手術して男に戻ったのになんでまた女になってんだよぉぉぉ!?』


ヤバい、発狂してしまった祥吾を想像しただけで面白い……。


なんて呑気に考えていた俺とは対照的に、祥吾の顔は優れていないようだった。


スマホを見たまましかめっ面で固まってしまっている。


手術の痛みとかが大変だ……なんていう記述でもあるのかな?


あるいは、ホルモンバランスの乱れでも発生するんかな?


「あー。やっぱりか……手術したら生殖機能消えるんか……エッティーできねーじゃん……」



そ っ ち か よ 。本当にブレないなこいつは……


こいつの脳内診断したらエロで9割くらい占めるんじゃねえの?


むしろ1割何が残るのかが気になるまである。


「まーたエロトークか……本当に好きやなお前は」


「は?楽しむだけのHのどこに性欲を掻き立てられる要素があるんだ?こっちは大真面目やぞ!!」


「そんなもん知らないし知りたくもない」


「いや、違う、今度はそれだけじゃない」


下を向いていた祥吾が急に顔を上げて、真剣な表情でこっちに向き直る。


真面目に説明されても困惑するだけなんだが?


とも思ったけど、どうやら今度は本当に真面目な話だったらしい。


「なんつーかさ、俺の身体ってまあ俺のものではあるけど、そもそもこの身体って両親から貰ったものなわけじゃん?それを弄るのは……個人的には嫌なんだよな」


あぁー……そうか、この問題があったか。


自分を飾るっていう意識がないから、整形のように体をいじくるのって女性よりもむしろ男性の方が抵抗感が大きいという話を聞いたことがある。


実際俺も、整形したいかと聞かれれば多分NOと答えると思う。



「勿論有効な手段が一つ見つかったってだけでもめっちゃ進歩だけど……出来ればこれは最終手段に取っておきたいな。あんまり究極の2択はしたくねえ」


「でもそれ以外に現実的に男に戻る方法ってなくないか?」


「まあ、な。でも、いつでも男に戻れるって意識ができただけでもグッと楽になったわ、ありがとな。


つっても、一番いいのはやっぱ自然に男に戻ることだから、それを期待しつつ、どうしても我慢できなくなったらそれも考えようかな。


そん時はまた相談させてくれ」


「おけ」


そう語った祥吾の表情は確かに、少しではあるが今までよりも柔らかくなっている気がした。


なるほどな、確かにその辺は当事者の意識次第だろう。


まあ何にせよ、俺はもう少しだけこの美少女と一緒に過ごせるらしい。やったぜ。


とはいえ……素直に喜べない。


あんまり笑えない話題が残っているからだ。


「じゃあ、この話も一旦置くとして………友達にはこの件伝えてるのか?」


祥吾の喉がグッと一瞬締まる。


言いたくないけど、これは俺が先に切り出さなきゃいけない話題だろう。


「いや、まだお前にしか伝えてない」


理屈だけで考えるのであれば。


こんなこと、絶対に広まらない方がいい。


何に悪用されるかわかったもんじゃないし、知らないところで自分の話をされるのなんて考えただけでも虫唾が走る。


……こんな屈辱、他の人に味わわせちゃいけない。


だから理屈的には、俺たち二人だけの秘密にしておくべきなんだ、それは間違いないけど……


それは今の友達と普通に喋ったり、遊びに行けなくなったりするということだ。


苦しいことは時間が忘れさせてくれるけど、


楽しいことは時間と共に美化されていくものだから。


【友達を切り捨てろ】


そんな残酷なことを強要するなんて、あまりにも酷だ。


少なくとも、俺の立場なら絶対に出来ない。


だから、伝えてもいい程に信頼できる友達を探すところから始めれば――


「まあ、お前以外に喋るつもりもないけどな」


俺の考えを断ち切るように彼は言い切った。


無意識に目が見開く。


は?今、何て言った?


友達を諦めるってお前は本気で言ってるのか?



いきなり転校しますと言われて一切嫌だと言わずに頷けるようなものだぞ?



数秒間の沈黙の中で俺たちはお互いに視線を交わす。


2人でいるには広すぎるリビングがこの静寂と緊張を増幅させてくる中で、


祥吾の目は言葉よりも雄弁に俺に何かを語りかけているようにも見えた。



「は?お前正気か?」


見開いた目を一切崩さずに、俺は祥吾にこれ以上ない程真剣に問いかける。


「何を言いたいのかは大体わかるけどな。お前は流石に考えすぎだ。大体、親友ならお前がいるじゃねえか。それだけで十分だ」


「そいつはどうも」


嬉しい言葉をかけてくれるが、その言葉をそっくりそのまま受け取るほど俺もバカじゃない。


俺には俺の考えがあるんだから気にするな、ってとこだろうけど。



友達を失くすなんて、孤独を受け入れるなんて、そんなの。



そんなの。


あり得ないだろ。


おかしい。馬鹿げている。脳から常識が抜け落ちてもそんな判断はできないはずだ。



「それに、俺が無くすのは『迷惑を掛けたくない友達』だ。 だったらこんな事伝えたって迷惑になるだけだろ。


お前みたいに迷惑をかけてもいいような奴は残るんだから、俺はそれでいいと言ったんだ」


そう語る祥吾の小さな瞳は、こちらを睨みつけているのではないかと思う程に鋭く、強い意思に満ち溢れていていた。


こんなに腹の据わった視線をはたして俺は今まで見たことがあっただろうか。


窓ガラス越しにカサカサと吹く風が、やけに強く耳に残る。




俺は用意していたはずの反論をすっかり諦め、祥吾の訴えを認めざるを得なかった。


……なんだ、コイツのメンタルの強さは。



そもそもこんな状況に陥ってからまだ2日目だろ?



真面目にこれからのことを考えられる時点で普通じゃないし、


何なら俺とこうして平気で談笑出来てるのも普通じゃないし、


そして、平然と理屈に従ってこんな決断ができるのも普通じゃない。


いや、一周回っていろいろとぶっ壊れてるだけなのかもしれないけど。


もしそうだとしても、未来を諦めず、理不尽な現実と戦える目の前の親友は、俺の目にはあまりにも眩しく映った。


「真面目な話ってやっぱり苦手だなー。


時代はやっぱりエロでしょ!江戸時代ならぬエロ時代ってかwwwww」


気丈に振る舞う祥吾の姿を見つめながら、俺は強く思った。


人は社会的動物だ、絶対に一人じゃ生きていけない。


誰かを支え、誰かに支えてもらわないと、きっといつか倒れてしまうから。


……それを俺は、既に知っているはずだから。


だからこそ、せめて、俺くらいは祥吾にとっての支えでありたい。


助けを求める前に、先に俺の方から手を差し伸べられるような、そんな存在でありたい。


唯一の親友に頼られたんだ。


頼りがいのない俺でなくてどうするってんだ――――




「………帰れ」

こんな女の子いてほしいなあ、でもいたらいたで困りそうだなー。

せめて主人公並みに理解力のある男の子とかいたりしないんですかね??

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