真実を本物に変えて
一生で忘れられない日は、きっと人生に何度も出てくるかもしれないけれど。
今日を超える幸せな日は、なかなか出てこないかもしれない。
違うな。
今日から始まる日々、と言った方が正しいかな。
翌日の朝がやってきた。
起き抜けの寝ぼけた頭を必死に動かして、どうやって告白しようかを家を出るまでの間ずっと考えていたけれど、
そもそもきっとアイツならどんな言葉でも受け入れてくれるに違いない。
なんだかそう考えると全然ドキドキしなくて、なんとなく残念な気持ちになってしまった。
俺の心持ちは変わっても、当たり前のように1日は始まっていく。
いつものように隣の家の呼び鈴を鳴らして、出てきた祥子とともにゆっくり歩いて学校へ行く。
その道中、俺は思い切って今日の決断を伝えることにした。
なんだかその方が面白そうな気がしたから、という理由は、まさに目の前のコイツに俺が影響されてしまったことのいい証明だろう。
「あ、そうそう。」
「ん?」
何気ない顔で見つめてきた祥子に向けて、その言葉を口にする。
「俺、今日の放課後お前に告白するわ」
「ふ~~~~~ん!?」
俺がそういった瞬間、まるでF1の口真似をするように、もの凄いイントネーションを上げながら祥子の澄んだ声が空へ響いた。
以前祥子が俺に向かってやってきたことをそっくりそのままお返ししているだけなのに、なんでコイツはこんなにも面白いんだろうか。
「え!?え!?き、聞き間違いじゃないんだよね!?」
「おう、間違いじゃねえぞ。でも言いふらしたらナシだ。」
流石に今日の告白ぐらいは俺が主導権を握って話をしたいので、予め口を封じておく。
「う、うん!!」
これ以上ないほど顔を上下に頷かせ、その長い睫毛が見える程の近い距離で俺を見上げている。
もし祥子に尻尾があったら今頃ぶんぶん振り回して、飼い主であろう俺をその尻尾で弾き飛ばしていたに違いない。はた迷惑である。
それからは、特に何も喋ることもなくゆっくりと歩いていたのだが、
ふと気配が消えたのを感じて後ろを振り返ってみると、さっきの頭コクコクで気分を悪くしたのか、身体を傾けて近くの電柱にもたれかかっていた。アホか。
「おはよー」
「おぉ、おおはよう!!」
学校に入っても、彼女の心の動揺は収まることを知らなかった。
本来なら俺もドキドキするべきなんだろうけど、
俺の分のドキドキまで彼女が負担してくれてるのではないかと思う程、彼女が慌ててくれていたおかげで、俺の心はかえって落ち着いていた。
昨日寝る前に予想していた反応をはるかに超える活きのいい祥子の反応を見ていると、
思わずいたずら心が沸いてきてもっと弄ってあげたくなるが、流石にこれ以上は可哀そうなのでやめてあげることにした。
コイツに対して「可哀そう」なんて言葉が出てくる時点で、俺もなかなかにコイツに甘くなってしまった。
おそらく1か月前ならそもそも人間扱いしていなかっただろうから、それから比べたら匠もびっくりの劇的ビフォーアフターである。
学校での祥子は、表面上は何もない様子を装ってはいるが、その心中では俺の言葉のせいで心臓をバクバクさせているに違いない。
焦る女と、それをみて笑う男の図。
こんな様子、どっかで見たことあるなぁ……。
と思って少し考えた後、俺は考えたことを後悔した。
これ、エロ漫画に出てくる「彼女におもちゃを仕込んで遊ばせているクズ男」と状況が完全に一致してんじゃん……。
何故だか分からないけど、そう考えた瞬間に彼女の仕草の一つ一つが急激に、あの漫画の一コマのようにしか見えなくなってきた。
その動揺を隠すための一挙手一投足が、刺激を感じながらそれを必死に隠そうとしているようにしか見えなくなってきて、
何故かムラっとしてしまった俺はいつかコイツに土下座しようと思った。
放課後になり、いよいよその時がやってくる。
祥子の方は恥じらいもムードもなく俺に告白してきやがったが、
残念ながら俺はそんな天才みたいなことは出来ないので、俺は祥子を家の近くの公園まで呼び出すことにした。
本当は帰り道の途中に寄っていく予定だったんだけど、「少し心の準備をさせて」ということで、俺は公園のベンチで祥子を待つことにした。
こういうのって意識すると余計にダメになってしまう気がするんだが、本人がそう言ったので特に何も言わなかった。
さっきまで俺たちの頭上で輝いていた太陽は少しづつその高度を落とし、少しずつ見えてくる赤色が徐々に雰囲気を作り出す。
遠くの遊具で遊んでいた子どもたちもそれぞれお家に帰っていって、もうこの場所には俺しか残っていない。
幼いころはこのくらいの時間までずっとこの公園で遊んでいたが、時代の流れと共にそんな子どもの姿も見なくなっている。
いずれは、遠くに見える遊具で遊んでいた子どもたちもいなくなるのだろうか……。
と考えていたときに、丁度その待ち人の姿が見えて思わず立ち上がった。
少し息を切らしながら現れた祥子は、
さっきまでの制服姿ではなく、コイツが女になってから最初のデートの時に俺が本気で見惚れた、あの淡い青色のワンピース姿だった。
気合いを入れるためなのか、それとも、俺のためにわざわざ着替えてきてくれたのか。
どちらにしても、この瞬間のために全力で向き合ってくれる彼女の姿を見ているだけで、俺はコイツと出会えてよかったな、と場違いな感想を抱いていた。
別に座っても良かったはずなのに、思わず二人とも立ったままで話を始めてしまったのは、きっと俺も焦っていたからなんだと思う。
早く楽になりたかったんだ。
もう、これ以上はこの気持ちを隠せそうにないから。
「ごめん、遅くなって……。」
デートの待ち合わせをしているカップルのやり取りみたいな台詞を言ってきたので、俺も乗っかってやる。
「いいよ、別に。俺も今来たところだし」
「え、えぇ?」
何故か思いっきり困惑されてしまった。どうやら、受け身にはとことん弱いらしい。
新しく見つけたコイツの弱点を脳内のノートに書き留めつつ、会話を繋ぎなおす。
「その服、買ってたのか」
「うん、この間、友達と買いに行ったんだ。
今見たら私にはちょっと可愛すぎるかなって思ったけど、服を買うのは義明の為なんだし、まあいっかなーって。
『ノロケうぜぇ!』ってみんなからも言われちゃったけどね。にひひ……。」
そう言って健気に笑う俺が大好きな姿を見せてくれれば、ずっと伝えたかった言葉を出せるのは思っていたよりも簡単だった。
「あのさ、祥子」
「ん?」
「好きだ。俺と付き合ってくれ」
何気なく聞いてきた彼女に、いつかやられたど真ん中ストレートのお返しをしてやる。
はぁ。
思ったよりも重症だったな、こりゃ。
まさか、『付き合ってくれ』っていう前に、
俺の口が勝手に『好きだ』って言っちゃうなんて。
想いを口にした瞬間、まるで錆びた歯車が綺麗にかみ合い始めるように、何かがすっと胸に落ちて溶けていくような気がした。
ああ、俺。本当にコイツのことが好きなんだな……。あーあ、やっぱりかぁ。
ずっと溜め込んできた感情が一気に爆発して、自分の身体が引っ張られるように浮つく。
赤くなり始めた空にそぐわないこの体の熱さが、今までの積もりに積もった思いを証明してくれている気がした。
好きという想いと同時に、無意識に諦めにも似た感情が浮かび上がってきたのは、きっといつかこうなる日が来ることを分かっていたからに違いない。
「……。」
対照的に、祥子は目を見開いて固まり、そして俯いてしまう。
それでも構わずに、俺は続ける。
一度想いが溢れたら、もう止まらない。
そして、この想いを止めるつもりもない。
「最初はどう接したらいいか分かんなかったし、色々大変な目にもあったけど……でも、だからかな。
残念ながら、俺の身体は知らないうちにお前が居ないと安心できないように毒されちまった」
「~~っ!?」
一息おいて、チラリと顔色を見る。
頬はこれ以上ない程に紅潮しており、澄んだ目をギュッと閉じて、恥ずかしさに耐えるように長い睫毛が震えていた。
きっと俺がまだ知らなかった顔だ。
こんな顔もかわいいな、と素直に思ったあとで、俺もまた、まともに顔が見れなくなった。
「お前と一緒の時間は凄く楽しかったし、一緒にいられるだけで嬉しかった。
俺はこれからも一緒にいたい。これが俺の答えだ」
気持ちばかりが先走って何を言っているのか自分ですら分からない。
なんか色々と恥ずかしいことを言ってる気がする。
でも、俺の気持ちはきっと届いた。
だから俺はゆっくりと顔を上げて、その答えを待つ。
「ちょ、ちょっと……待って?本当に本当?」
「ああ。大マジだ。お前が先に言ってきたんだろうが。」
「こんな男女を?」
「それが何だ。俺のことをお前以上に分かってる女はいないだろ」
「私……きっと醜いよ?下品だよ?後悔するかもよ?」
「全部知ってる。色々と諦めるさ。後悔だって何度もしたよ。
それでも好きだって思っちゃったものは仕方ないだろ。
お前と一緒だ。俺にとって、お前以上の女はいない。」
一歩一歩追い詰めるように、溢れてくる想いを口にする。
自分でもこんなに目の前の女に落ちていたなんて知らなかった。
どうやら、俺の本心とやらはなかなかに祥子のことで頭がいっぱいだったらしい。
「……。」
「……。」
数秒の沈黙が、痛いほどに胸を締め付ける。まるで本当に心臓を掴まれてるかのように、早くなった鼓動はなかなか止まってくれそうになかった。
公園に植えられた木々が風でざわめき、遠くから聞こえてくるギコギコというブランコの錆びた音が響く。
「っ……」
何か言ってほしい、喋って俺を楽にしてほしい。
「……うぅっ…ぐすっ……」
そんな思いで俺がゆっくり顔を上げるのと、すすり泣くようなか細い声が聞こえたのは、ほぼ同時だった。
「………いよ、そんなの」
「え?」
「そんなのっ……そんなの…ずるいよ……うぅ…ぐすっ…」
目尻に涙を溜めながら、彼女は続ける。
小さな体は震えていて、誰かが支えていないと倒れそうな程に脆く見えた。
「カッコつけすぎなんだよ、義明の女たらしっ……、バカっ、ありがとうっ……。」
「っ!」
一挙一動を逃すまいと、瞳をこれ以上なく見開かせる。
感情ばかりが頭を駆け回り、体が動かない。
思考の迷路に嵌った俺の前に、彼女の顔が上がっていく。
「私も……」
なんだかんだで、知り合ってからもう4年も経つ二人だ。言葉のニュアンスだけでも、なんとなく言いたいことは分かる。
だから、その涙声が言葉以上に想いを伝えてようとしてくれたことも、すぐに分かった。
「すんっ……私も……義明がすき……すきです……私でよければ、ぜひお付き合いさせてください……ぐすっ……」
分かりきった答えが返ってきたはずなのに、
俺の心にはほんの少しの安堵とともに、喜びでも、幸せでもない不思議な感情が芽生えて、一気に全身を駆け巡った。
目の前の現実に理解が追い付かない。
「あ、ああ…」
思わず気の抜けた声で答えてしまう。
はたして、今の俺は一体何をすればいいんだ?
この光景を今まで何度も妄想してたはずなのに、想像でも現実でも全く動けていない自分が情けなさすぎておかしくて、ふと我に返った。
ただ、一つ今の俺にも分かっていることがある。
少なくとも、未だに泣き止まない彼女をほったらかしにしてるのは彼氏の役目じゃない。
俺は、今の距離から一歩、二歩、三歩、四歩と前に踏み出して、
「え?」
壊れないように、そっと祥子を抱き寄せた。
祥子の言う通り、やっぱり俺はカッコつけすぎなのかもしれないな。
「ふぇ…ええっ!?」
最初こそビックリして手を宙に浮かべたままの祥子だったけど、だんだんと強張った体から緊張が抜けていった。
改めて、女の子の体の柔らかさを実感する。
初めて触れるはずなのに、手にぴったりとなじむ感覚。
ふわりと香る女の子特有のどこか甘ったるく、そして安心する匂いが鼻腔をくすぐる。
触れた肌から感じるこの激しい鼓動は、一体どっちから発している音なんだろうか。
「義明の身体って、こんなにあったかいんだね」
「そりゃそうだろ。お前を支えなくちゃいけないからな」
「っ!?
も、もう、これ以上喋るの禁止!!ほら、黙って抱きしめてっ!」
怒りながらデレるなんて、なかなかに難しい芸当をやってきやがる。
俺の言葉に一喜一憂してくれる様子があんまりにも可愛すぎて、緩くなってしまった頬がなかなか戻ってくれない。
あんまり他人に依存するのは良くないと分かってはいるんだが、まあ、今だけはこの幸せな時間を楽しむとしよう。
そうして俺たちの身体がようやく離れた時には、その夕陽はもう既に影を潜めていた。
それでもなんだか我慢できなくて、帰り道に思わず手を繋いでしまったくらいには、俺は彼女に依存しすぎなのだった。
ちょっとでも「イイっ!」と感じて頂けたら、ぜひ評価やブクマなどでランキングに上げていただいて、たくさんの人に見てもらうことで尊さのテロを起こしていただけると死ぬほど喜びます。(承認欲求丸出し枠)
えんだああああああああいやああああああ
ようやくあらすじに書いている内容が書けるようになりました!
……10万字もよう書いたなー。10卍ですよ。マジ卍。
ストーリー的にはもうこれでほぼ完結なのですが、ここからは番外編と化した本編をスタートさせるつもりです!!
ぶっちゃけ、イチャイチャにほとんどTS要素はないので、設定は引き継いだまま、新シリーズにしてストーリーと分離させようかなと考えています。
次回の更新は、6/23を予定しています!!(予防線を張っておきます)
それでは、今回も、ありがとうございました!




