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親友が女になっちゃったので全力で愛でたいですが。  作者: 落単 竜念
昨日の自分と今日の自分は、似て非なるものなのかもしれない。
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真実から逃げないで

立場が悪いから、逃げる。できないから、逃げる。やりたくないから、逃げる。


逃げるには色々な理由があるけれど、逃げることは決して悪いことじゃない。


でも、自分が逃げてしまった時、


それは、逃げたことに全力で向き合っているはずの人に失礼だ、ということも、同じくらい覚えておかなければならない。

授業は全て終わり、放課後になった。


俺たちが告白の場所に指定されていた体育館の裏へ行こうとした時には、もう既に告白の相手はその場所にいて、ソワソワしているようだった。


こんなに人気のない場所に誘われれば、もしかして襲われるかも……なんて心配もあったけど、


「早く部活に行かないと怒られてしまうので、出来るだけ早く来てくれるとありがたいです」


なんて文面をしてくる優しい男がそんなことをしてくるわけはなさそうだった。


流石に俺が告白の現場に居合わせるわけにはいかないので、俺はその体育館の壁にもたれながら、遠巻きに二人の会話を見守っていた。



あれ?


そういえば告白している男、どっかで見覚えがあると思ったら以前俺に質問してきたクッソいいやつじゃん!


くぅ、なんでこんな奴に引っかかってんだ!お前ならもっといいヤツ見つけられるって!!



あそこで行われている会話の中身まで聞くことは出来なかったけれど、あの男の残念そうな表情を見ていればおおよその中身は予想できた。


彼は少しだけ肩を落として落胆した後その顔を上げて、爽やかな笑顔のまま俺たちが居る方とは逆方向に走り去っていった。


しばらくその様子を無言で見守った後、こっちへゆっくりと戻ってきた祥子の顔は、あまり優れていないようだった。


コイツに苦笑いをさせるなんて、大した奴だな、あの男。



「何て言って断ったんだ?」


戻ってきた祥子に向かって、今抱えている疑問を単刀直入にぶつけてみる。


「告白してくれた、その気持ちは嬉しいけど、私はあなたに興味がないよって。


前々から宣言してたけど、やっぱり私は潮くんのことが好きで、あの人よりもいい男に、私は出会えそうにないからって。」


なかなかに鋭い答えを返すその顔は、その刺々しい言葉にふさわしくなく、どこか遠くをぼんやりと見つめているようだった。


こんなに大人びた優しい顔をされて、諦められない人はいないだろう。


もし俺があの立場にいて、こんなことを言われたら、もしかしたら立ち直れないかもしれない。


それくらい、祥子の言葉の刃は鋭かった。


いや、優しさが刺さる、と言った方が正しいかもしれなかった。


その優しい言葉は自分には向いてないって分かるからこそ、余計につらくなる。


「いやー、それにしてもいい男だったね!!


あんなにバサッと言っちゃったのに、最後まで笑顔を貫き通してくれたんだもん。


義明が居なかったら「うん」って頷いてたかもね。


このままじゃ危ないぞ~~??


私の気持ち、コロッと変わっちゃうかもよ~~?」


呑気に煽ってくる祥子の隣で、俺は、ふとこんなことを考えてしまっていた。


もし、今の「祥子」が「祥吾」に戻れるとしたなら、アイツはそれを選ぶんだろうか。


今までの、平和な「祥吾」としての日々を取り戻すのだろうか。


分からない。


分からないけど、戻って欲しくない。


そんな風に身勝手にも思ってしまった自分が、どうしても許せなかった。



「なぁ、質問なんだけどさ。


もしも今、お前が「祥吾」に戻れるんだったらどうする?


お前は戻ろうと思うのか?」


このわだかまりをどうにか解消したくて、本人に直接聞いてみると、露骨に落胆されながら、


「はー……。」と、思いっきりため息をつかれてしまった。


それは、自分の恋心を侮辱された落胆だろうか。


それとも、非日常を求めるコイツにとってそもそもそんな選択肢は存在しなかったのか。


あるいは、みじめな俺への失望か。


そのため息の本当の意図は、なんだろう。


「そんな舐めた質問してどうしたの?」


少し荒々しいような舐めた口を利かれてしまった親友を相手に、俺は素直に自分の今の感情を打ち明けることにした。


今の自分が思っていたこと、全てを。


「おおう、意中の相手から恋愛相談とは、なかなか面白いなあ。」


「そりゃ、な。問題の相手であると同時に、一番の親友でもあるんだから。」


悩み事を解決するには、悩みの種に話を聞いてもらうのが一番効率的だ。


それが重大であればあるほど、なおさら。


「そんな選択肢、たらればにしてはやりすぎじゃない?」


「まあ、な。でも、思ってしまったんだ。


戻って欲しくない、このままでいて欲しいって。」


本当に、情けなくて自分勝手な自分に反吐が出るけど、それもまた自分の本心なのだから。


その傲慢を、受け入れない訳にはいかない。


「自分でも、分からないよ。


案外すんなりと受け入れるのかもしれないし、この恋が叶わなくなると思って泣きたくなるのかもしれない。」


祥子が出したその答えも、本人にとっての苦しい答えなのかもしれなかった。



けれど、やっぱり「コイツ」は、例え性別が変わっても俺の憧れであり続けてくれるんだ。



「でもね、一つだけ分かってることがあるんだ。


この姿のままでも、男に戻ったとしても、お前とはずっと友達でいたい。


お前以上に気の合う奴は、多分世界中を探してもいないと思うから。


って、好きって公言したんだしまあ当たり前なんだけどねっ!」


たははっと、困惑したように苦笑いを浮かべている祥子を見ながら、俺はただ素直に思ったことを口に出した。

「……。お前、いい女だな。」


情けない本心を曝け出せば、それに応えてくれる友人がいる。


俺はなんていい友達に巡り合えたんだろうか。


「もし仮にお前が男に戻ったとしても、お前みたいないい女と出会えたことを、俺はずっと誇りに思えるよ。」


「なんだそりゃ。男に戻る前提かいっ!」


調子に乗って、ていっ、と俺の頭をチョップしてくるが、その体格差のせいで、俺の頭に振り下ろされる左手は真上からじゃなくて斜めからになってしまう。


なんだかそれが無性にこそばゆくて、俺は隣で優しく笑っている祥子の顔を見ることが出来なかった。


「それにね、義明は難しく考えすぎなのかもしれないよ。


私は、確かにアナタが好きだけど、要はただ単に一緒にいたいってだけだし。


んで、一緒に居たいと思ったその男が、たまたま私にとっての王子様的なアレだっただけ。


まだ私達付き合っているって決まった訳じゃあないけどさ、付き合ってから私を好きになっても遅くないと思うよ。


どう?だからどう!?付き合ってくれない!?


一夜だけの関係でもいいからさぁ!」


「それはそれで大問題だろうが」


恋は理屈じゃない、感情だ、なんて。分かってるよ、分かってるんだ、そんなこと。



だからこそ、それでもなお胸に残っているこの抵抗感の正体が分かってしまったんだ。


俺はただ、目の前の現実から逃げたいだけだったんだってこと。




家に帰って、俺は今抱えているこの心の弱さを、惜しげもなく母親に打ち明ける。


「倫理観とか、世間体とかを気にするべきなら、これが正しくない選択なのかもしれないけど、でも、アイツが他の誰かと付き合うのもなんか嫌で……。


どっちを選んでも後悔しそうで、選びたくないよ……。」


支離滅裂になりかけながらも、俺は語り続ける。


この感情にもう嘘がつけない。


アイツと離れたくはない。かといって近すぎるのも怖い。


だから、いつまでもこのぬるま湯に浸かっていたいだなんて。


なんて自分に甘くて、ワガママで、ふざけた考えなんだろうか。


その心の弱さを口に出せば出すほど本当に自分が嫌になって、本当に逃げ出したくなってくる。


それを乗り越えて、この関係が壊れる覚悟も背負って、それでも勇気をもって一歩を踏み出した祥子は、やっぱり俺の憧れの存在だと、改めて認識させてくれた。


その一切を喋り終えて、支えを求めるように壁に手をついてうなだれる。


物理的にも、精神的にも倒れかけている俺に、母親の声は優しく染み入った。


「あのね、人生にたらればは付きものよ。


AじゃなくてBを選んでいたらどうだっただろうとか、そんなことを考えてしまうのは当たり前なんだから。


結局、どんな道を選んでも後悔はするのよ。」


「っ!?」


【どんな道を選んでも必ず後悔する】


言われてみれば当たり前なのかもしれないけれど、今の俺にはその事実はあまりにも衝撃的だった。


「だから、そうやって悩んで苦しんで考え抜いて、振り返った時に自分が納得できるような道を選びなさい。



あなたが、今持っているものの中で、一番残したいものは何?


って言っても、もう決まってそうだけどね。


……。大事にしなさいよ。」


うっせーよ、余計なお世話だ。



着替えるのも忘れて、ベッドに倒れ込む。


服がしわになるかもしれないけれど、今の俺にはそれよりも考えたいことで頭がいっぱいだった。



俺が一番残したいもの、か。


祥子が放課後に言っていた、「一生一緒にいたい」というセリフを思い出す。


アイツと一生一緒にいたい、とは思う。


その形がたとえなんであれ、俺だってアイツ以上にいい女を知らない。



じゃあ、アイツと恋人になって俺が妄想するような甘いイチャイチャをしたいと思うのか?


……。分からない。


分からないけど、嫌じゃない。


前に祥子が言っていた、迫られたら断れないっていう言葉の意味が少しわかった気がする。


というか、今まさに俺は迫られているのだから、もはや断れないところまで来てしまっているのか。


もう仕方がない。


逃げる時間も、逃げる弱い心、残念ながら俺はもう自分で塞いでしまったのだから。


もう、逃げるのはやめだ。


告白しよう。


告白して、アイツと付き合ってみよう。


俺の世界が変わるのは、きっとそれからでも遅くないんだ。


そう決めた瞬間に、ふっと体の重荷が消えた気がした。



今のこの感情を恋と呼ぶのかは分からないけど。


きっと、この気持ちを育てていけば恋に出来るのかもしれないな。


俺の告白に、祥子がまるで向日葵が咲いたような眩しい笑みを浮かべてくれる様子を想像して、


ちょっとだけ和やかな気持ちになりながら俺は眠りについた。

はい。もう言い訳できませんね、これは。これで4度目の更新予定(大嘘)ですね。


世が世ならコロッとされていたかもしれません。


次回の更新は、6/22を予定しています!!


時折、自分でも何度も読み返すんですけど、なんというか、普通のラノベと比べてテンポが悪いんですよね。


知り合いからリアルで言われた、「売れないラノベっぽい」という感想がグサッと刺さって悔しいです。


自分がやりたいことは残しつつ、もっと簡潔に、それでいて奥深くできるんだろうな、と考えると、まだまだ私にも伸びしろいっぱいですね。(ポジティブ)


それでは、今回も、ありがとうございました!!

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