真実を信じて
人間誰しも、起きているときの感情は操ることが出来るかもしれないが、眠ろうとしているときや、意識が朦朧とした時の感情までは操れない。
自分に嘘はつけない、という言葉は、半分正しくて、半分間違いだ。
自分にそれ以上の信念があれば――きっと、嘘も貫ける。
今週の授業が終わったと思っていたら、気づけば既に日曜日の終わりがやってきていた。
今までならこれからがお楽しみの時間だったが、俺の平日は悲しいことに朝の7時から始まってしまうので、そろそろお布団にお潜りさんしなければならない。
というか既に眠い辺り、もはや俺はこの身体を調教されてしまったに違いない。誰にだよ。
俺の予想では、この土日に祥子は何か仕掛けてくると踏んでいたのだけれど、残念ながら俺の予想は外れてしまった。
おかげさまで何とも暇な2日間を過ごすことが出来た。極楽ニート生活である。
楽しい時間は早く過ぎてしまうものだが、今の俺はまさにそうだ。
ああ、俺の休みが終わってしまう……。という虚無感にさいなまれながら、俺はベッドに横になる。
月曜日というものは、どうして人を憂鬱な気分にさせる天才なのだろうか。
もしこの世から月曜日が無くなれば、世界はもっと平和に近づくか、あるいは、代わりの火曜日がそのヘイトを全部吸収するかの2択になると思う。どう考えても後者だな。
さて、もう今日はやることなかったっけなー。と考えて、寝る前にもう一度だけ触ろうとした携帯の画面を開くと、そこには、『祥吾』からのメッセージが届いていた。
そういえば、LIMEの名前は変わってなかったんだな。
そうか。
少し考えればわかることだろうが。
昔の友人はまだ友だちリストに残っているのに、自分の名前を変えられるはずがないんだ。
確か、祥子があの友人たちとLIMEを交換したときは……。
「前の高校に居た時は、漢字まで全く同じの祥子ちゃんって子がいたから、私の方が男っぽいから祥吾にしようぜ~ってなったんだ」
みたいな、ものすっげえ適当な理由を呟いてた気がする。
アレ以外に祥子は嘘をついたことはないが、あの時だけは俺も祥子も内心すっごく焦っていて、その日の帰り道はその話題と反省会だけで終わってしまった。
その後特に追及はされなかったから良かったものの、思い返すとよくあんなのが通ったよな……と思う。
とはいえ、もしこの話題が俺に吹っ掛けられてきたらまた面倒なことになりそうだな。
変えとくか。紛らわしいし。
俺は、アイツの名前を『祥子』に変えようとして……。
何秒か考えて躊躇った後、やっぱりやめた。
「祥吾」との会話の画面を開き、過去の会話を見直してみる。
いくら上にスクロールしても途切れることのない、二人の会話画面は、「祥吾」が確かにここにいたことのわずかな証だから。
それを変えてしまうのは、なんだかすごく嫌だった。
下矢印をタップして、最新の会話画面に戻ると、
「『部屋の鍵、開けておいてね』」
というメッセージが20分前に届いていた。なんで文面でわざわざ『』つけてるんだよ。
カーテンを開けて祥子の部屋の様子をうかがうが、カーテンで閉ざされており中の様子は良く分からない。
どうやら、今すぐの話ではないらしい。
と、なると、明日の朝起こしに来るとかだろうか?
カーテンは閉めて、部屋の鍵を開けておいてやる。
「ほい、開けといたぞ。俺はもう寝る、おやすみ」とメッセージを送って、眠りにつく。
アイツの事だ。間違いなくロクな起こし方はしてこないだろうが、果たして俺をどんな風に起こしてくれるのだろう、
とちょっとだけ期待してしまう自分がいた。
アイツが俺の部屋に現れたのは、そのわずか2分後だった。
「いや早すぎるだろ!」
ドアを開ける物音に飛び起きて、思わず大声になってしまった俺をたしなめるように、祥子は指を口元に当てて、静かにしろ、のサインを送ってくる。
両親が隣の部屋で寝ているので、小声で喋らないとバレてしまうからだ。
どうみてもお前が悪いんだけどなあ、おかしいなぁ。
「んで、何しに来たんだ?夜這いとか言ったら張っ倒すからな」
「違うよ~。眠らせに来たんだよ」
!?
背中を悪寒が駆け抜ける。
「お、お前……。」
まさか、気が狂った結果、『俺とあの世でいちゃつこう』とか考えだしてしまったのか!?
強張った俺の顔を見て、祥子も自分の言動がヤバいことに気づいたらしく、丁寧に言い直してきた。
「あああ違う違う、そうじゃなくて。
ほら、眠れない時の催眠音声ってあるじゃない?」
「ああ、あるな。」
「うん。
だから、それをやろうかなと」
「???」
前後の文脈がどう考えてもおかしいだろ。
なんでコイツは定期的に俺の斜め上を飛んでくるんだ???
いや、文脈はおかしくないけどその発想に至るのがどう考えてもおかしい。
まず、俺を「起こしにくる」じゃなくて「眠らせにくる」っていう時点でヤバい。
「え、ダメに……。」
決まってんだろ、と言いかけて、少し脳内でその後の展開をシミュレートしてみる。
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「ダメに決まってんだろ」
俺は、無意識に少し冷たいような声を出してしまっていた。
「……ダメ?」
祥子はそう言いながら、寝ている俺の方へその身体をまた一歩近づけてくる。
手を伸ばせば届きそうな程近くにある祥子の綺麗な顔は、少し紅潮していて、普段よりも更に魅力的に見せてしまう。
得体の知れない罪悪感が、奥底から湧き上がってくる。
その無防備な寝間着姿でそんな顔をされて、断れという方が無理だ。
「……。別に、いいけど」
顔を背けて、思わずぶっきらぼうな返事をとってしまう俺の後ろで、「ありがと。にひひ……。」と可愛く笑う声がした。
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あれ、よくね?なんならこれが正史√まである。
いやいや、これだとまたしても祥子に主導権を握られてしまう。
そうじゃなくて、俺がどうにかして主導権を握らなければならない。
「ダメ……じゃないが、条件がある」
「条件?」
「そうだ。それは……。」
喋りながら必死に考える。
何だ?どういう条件を付ければいいんだ?
「俺を納得させることだ!」
「え、納得ってどういうこと?」
俺も聞きたいわ。
えーと、えーっと。
「つまりだな、俺が納得するような催眠音声を聴かせろってことだ。
『うわぁ、これ聞きながらだとめっちゃ寝れるわ~~』みたいな」
「お、おう。大分ハードルを上げてくるね」
「自分から言い出したことだ、そんくらいやってみろ」
「よし、頑張る!」
両頬を軽く叩いて、無駄に気合を入れる祥子を尻目に、俺は再び眠りについた。
「…………。………。」
無音の部屋に、祥子の優しい声だけが聞こえる。
すでに眠気が襲ってきていた俺に、右耳に入ってくるその甘く柔らかな声はあまりにも心地よすぎて、俺は自分が思っていた以上にすぐに眠ってしまった。
なんかすごく俺にとっては恥ずかしいことを言っていた気がするが、その時に何を言われていたかを考える頭は既にその働きを終えていて、もう覚えていない。
確か、完全に意識が落ちる直前には、
「今度からも寝れない時はコイツに頼もうかな……。」みたいなことだけをうっすらと考えていた気がするけど。
だから、最後に微かに頬に感じた優しいぬくもりの正体なんかも、考えることは出来なかった。
ごめんなさい、昨日上げられなくて本当にごめんなさい!!
ワールドカップが悪いんです。
メキシコがドイツを倒しちゃったのが悪いんです。
さて、次回の更新は、6/19を予定しています。
次は、本当に間に合わせます……。
評価やブクマは私が一日に10回はチェックして増えてるとその度に死ぬほど喜んでるのでもっとやれ。
それでは、今回も、ありがとうございました!!




