表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親友が女になっちゃったので全力で愛でたいですが。  作者: 落単 竜念
昨日の自分と今日の自分は、似て非なるものなのかもしれない。
22/29

真実に気づくとき

理性が効かない程、怒ったこともある。


悲しんだこともある。


喜んだり、楽しんだこともある。


それでも――理性が効かない程、人を想うのは、初めてだね。

今日の最後の授業もまた、体育だった。


ガヤガヤした声と、日焼け止めの匂いに溢れた教室で着替えながら、一人物思いに耽る。


なんでこう、週に2つしかないはずの体育の授業が2つともその日の最後にあるんだろう。


まあ、帰りのHRが無くなるのは嬉しいけど、着替えてから帰らないといけないので、結局帰るのは普段と同じか、それよりも遅くなってしまうのだ。


男ならいちいち女の目線も気にせずにすぐに着替えてすぐに帰れるんだけど、女の身でそんなことをするわけにもいかないので、私にとっては何のうまみもない。


いや、私自身は別にそんなことをやっても構わないとは思っているんだけど、そんなことをすれば義明に割とガチでキレられるのでやろうとは思わない。


アイツが本気で俺にキレた時は、『調子に乗りすぎたその頭を冷やせ』と言わんばかりに、一切俺の話を聞いてくれなくなるのだ。


そしてその度に、俺が冷静になって、義明に謝って仲直りする、というのが定番だった。


義明はめちゃくちゃノリがいい方なので、俺が思わず適当に打ってしまった会話のボールも綺麗に拾ってくれるし、


何ならたまに強烈なカウンターを俺にお見舞いしてくれることだってある。


俺が男だったときは、そんな感じでゆる~くやれたけど、俺が女になってしまった今では果たしてどうなるんだろう。


もしかして、周りに配慮してもう少し大人しくなってくれるんだろうか。


それはそれで楽しいかもしれないけれど、そんなのは『私』も『俺』も望んだことじゃない。


『自分』が望んでいるのは、ただアイツとずっと仲良くいることであって、決してアイツを馬鹿にして楽しむことではない。


義明を困らせて楽しみたい気持ちは確かにあるけれど、それよりももっと感謝の気持ちの方が強いから。


今はまだ義明に支えてもらう弱い身だけど、いつか必ず、義明を支え返してあげたいと強く思う。


今の私があるのは、間違いなく義明のおかげなのだから。


またしても、昨日の義明の姿を思いっきり思い出してしまう。


これで今日何度目だろう。


それでも思い出す度に義明は毎回カッコいいのだから、尚更ずるいと思う。


弱くて情けなかった私に向かって、本気で怒って、本気で支えてくれて、本気で泣いてくれたのだ。


他の誰でもない、私のために。


ずっと小馬鹿にしてたはずの友人は、いつの間にこんなカッコいい男に成長していたのだろうか。


そして、あれだけ他人のために全力を尽くせる男が友達にいて、なんて私は幸せ者なんだろう。



……。


なんだか、思い出すとまた少し身体が熱くなってしまった気がするが、それでもいい。


今は、この幸せに素直に浸っていよう―――


「にひひ……。」


誰にも聞こえないように、小さな声で思いっきり笑う。


今義明に対して芽生えている、この感情を大事にしようと思った。



「おーい、祥子ちゃん、全然着替えてないけど本当に大丈夫?


もう授業始まっちゃうよ?顔も少し赤いし、本当に無理してない?」


「あ!?」


友だちに声を掛けられ、ふと我に返って黒板の上の時計を見れば、既に休み時間は8分を過ぎていた。


男時代に覚えた早着替えの技術を思い出しながら、私は明かりを消すのも忘れて、女子の中で最後に教室を出た。



体育の授業では、基本的に男子と女子とで競技を分けてそれぞれの活動を行っているようだった。


今からの数か月間は、男子はソフトボールとサッカー、女子はバレーとハンドボールをやることになっているらしい。


「バレーだけはグラウンドではなく、体育館でやるから、集合場所には注意なー」という体育教諭の話を聞いた瞬間、


私がやる競技はハンドボール一択になってしまった。


バレーボールの楽しさ?ガールズトーク?そんなもん知るか!!


今の私にとっては、推しの男を見る以上に重要なこたぁねえんだよ!!!


私がハンドボールに友達3人組を誘うと、「はいはい、グラウンドにいないと愛しの彼は見れないからねー」


と、私の思惑を思いっきり暴露されながらも、一緒に付いてきてくれた。ええツンデレやでぇ。


友人3人組のおかげで、クラス内でも「割とアクティブな女子」キャラに収まることに成功していた私は、


授業中も思いっきり運動しても誰にもツッコまれないような立ち位置にいたので、思う存分に運動することが出来た。


その結果私は、班のエースとして、他の班相手に無双していた。


ただそれは、ゲームで言うと「よわい」のCPUを相手に無双しているようなもので。


異世界で無双してるニートってこんな感じなのかな……。とぼんやり考えてしまう程には、授業の終わりには虚しさも感じたが、それでもやはり、みんなに頼られるのはもの凄く気分の良いものだった。


とはいえ、ちょっとショックだったこともある。


それは、みんなもふざけて運動してるわけじゃなくて、本気でやってるはずなのに結構運動音痴だったということと、


「祥子ちゃんスゴイ活躍だったね、まるで一人だけ男の子が動いていたみたい!!」と、


授業の終わりに、別のクラスの女の子からそういう強烈な一撃が来てしまったことだ。


心臓が一瞬止まった気がしたが、私は義明と付き合うまでは成仏できないので現世に留まることにした。


ついでに言うと、その一言がきっかけで、私が本来の目的をようやく思い出した時には、サッカーもソフトボールも既に終わっていたのだった。




授業は終わったが、その用具の片付けは、班ごとに周り持つ形になっており、今回は私たちの班がその片付けをすることになった。


ハンドボールがいっぱい入ったかごを、私と友達3人組の4人で協力してグラウンドの端にある倉庫まで運ぶ間、私はまたしても義明の事を考えていた。


「好きになった」という宣言をしてから、今日一日ずっと、私が女になってから義明と一緒に過ごした日々を改めて振り返ってみた。


そして、義明のことを異性としてみれば見る程、「ああ、いい男だなぁ」って思う。


まあそもそも、私が男だった頃から私みたいな変人にずーっと付いてきてくれた彼もまた変人なのだ、いい男でない訳がないに決まっている。


あるいは変人か。どっちにしてもお似合いかな。


二人並んで歩いていたはずの今朝の風景や、いつぞやのデートを思い出す。


あれ?


いつでもカッコいいぞ?……じゃなくて。



一つ何かが引っかかった。


そういえば、今日の体育でも実感したが、私の歩く速度は以前と比べると明らかに遅くなっている。


それなのに、二人で歩いていた時はいつでも、私の歩く速度はいつも変わっていなかったのだ。


それはつまり、義明はいっつもあんなに私に文句をぶつけてきながら、いっつも私のために歩く速度を合わせてくれていたという意味だ。


更に考えれば、義明が今までよりも早起きして私を呼びに来るのは、彼が早く学校に行くためじゃなくて、


私と一緒にゆっくり歩くためだと気づくまでにそう時間はかからなかった。



あああああぁぁぁツンデレかよおおぉぉぉイケメン過ぎるううぅぅぅ!!



見落としていた事実に気づいただけなのに、急激に顔が熱くなるのを感じる。


え?え?何このイケメン完璧すぎひん?


思わず身体を躍らせようとして、今の現状を思い出した。


マズイ、こんな表情みんなに見られたら絶対煽られる――


「祥子ちゃんどうしたの?顔真っ赤だよ?」


「いいいや、何でもにゃいよ!?」


思いっきり見られてたし思いっきり噛んでしまった。


ああ、恥ずかしい……。穴があったら入れたい……。いやもう入れられる方じゃん……。


「もしかして、まーた愛しの彼のこと考えてたの?」


無意識的に思いっきり首を振ってしまうが、それが余計に肯定の意味になってしまうことすら気づけない。


こうして私は焦っているはずなのに、義明のことが頭から離れてくれないのがそれを証明していた。



3人は、はぁ、やれやれ、といった表情で目を合わせて頷いたかと思うと、突然、義明について語り始めた。


「潮君ってさー、まあ好きになるには微妙じゃない?」


「わかるなー。顔も、ブサイクじゃないけど、イケメンかって言われると微妙だしー」


「うんうん、運動もそこまで出来るわけじゃないし、成績も普通らしいし、何となくモブっぽい感じだよねー」


思わず、空いている左手に力がこもってしまう。


そう言いながらも、彼女たちの目線はこっちを向きながら少し笑っていた。


分かっている、彼女たちは本気で義明を馬鹿にしてるわけじゃない。


単に私をからかって遊ぼうとしてるのだから。


そんな煽りは無視すればいいのに。


無視すればいいと分かっているのに――どうしても、そんなことは出来なかった。


「――ちょ、ちょっと待って!」


思わず話の流れをぶった切って、勢いよく喋りだしてしまう。


「義明は、義明は本当はそんな人じゃないの!


昨日私が連絡もなしに休んだ時だって、本気で心配してくれたし、


歩く速度とかご飯を食べる速度なんかも私に合わせてくれるし、


私が困った時は一緒に悩んでくれるし、


私がどんなにからかっても最後には許してくれるし、


それだけじゃなくて、昨日なんかは私のために本気で怒ってくれたりもしたし……。


と、とにかくめっちゃいい奴なの!!」


次から次へと義明の格好いい姿が思い浮かんでいく。


勢いに任せて思いっきり喋りながら、頭の中では冷静に思考を働かせていた。


……はぁ。


あーもう、これはダメみたいですね。


諦めました、降参です。


まあ、薄々気づいてはいたし、何なら今朝本人に言ったばかりだけれども。



好きです。LIKEじゃなくてLOVEの方で好きです。ゾッコンです。


本格的に私は義明に落ちてしまったらしい。


自分でも顔が真っ赤になっているのが分かっているのに、言葉を止めることが出来ない。



一度自覚してしまうと、思ったよりも義明のことが好きだったんだなぁ……。っていう実感が湧いてくるし、


この暖かい気持ちをどうにかしたくてたまらなくなってくる。



最後の方なんかは熱がこもって思いっきり早口になってしまったが、それでも、この3人には義明には変な誤解をしてほしくなかった。


私が、世界で一番信頼している人なんだから。


そうして、私が言い終えた時には、


「「「ぐふぉ!?」」」


と突然倒れ込む3人の姿があった。


「え!?大丈夫!?」


思わず駆け寄って、3人の顔を見るが、何故か3人とも満足そうな顔をしていた。


「祥子ちゃん、結婚してくれ……。」


「え!?」


「私は結婚とは言わんから、お持ち帰りさせてくれ……。」


「ちょ、ちょっと!?」


「それか、私たち用と潮くん用の2人に分裂してくれ……。」


「最後が一番難易度高い!?


じゃなくて、起きてよ3人とも、ここで寝たら死んじゃうよ~~!?」


無人のグラウンドに、私の情けない声が響いた。




かごも運びながら、3人の介護もするという変なひとときを過ごしながら、私は、心の中で謝ることにした。


あーあ、義明、ゴメンね。


本当はね、もっと早くから好きだったんだと思う。


それでも、決してそんな目で見ないように、必死にフィルターをかけてきたつもり……。


だったんだけどなぁ。


フィルター、取れちゃったよ。

堕ちたな(確信)


日間ランキング16位、ありがとうございます!!


こういうのって、一度でいいから1位を取ってみたいものですねぇ。


流石にそれは難しいので、1桁で妥協します。(妥協とは?)


さて、次回の更新は6/17を予定しています!


それでは、今回も、ありがとうございました!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ