真実は一つだけど
『平和』な日々と『平穏』な日々は違う。
前者は、ぼーっとしてもそこに留まってくれるが、
後者は、ぼーっといているといつの間にか置いていかれてしまう。
それが、俺の中の常識である。
「好きになっちゃったから、これからよろしくね!」
「は?」
は?
思わず、理性と本能が共鳴して声に出てしまう。
今、さりげなくとんでもない事を言わなかったか?
俺の耳が間違っていることを信じて、もう一度祥子の言葉を促そうとする。
「えー、何度もあんなに 恥 ず か し い ことを言わせたいの?
んもぅ。義明の キ・ク・チ ♪♪」
「……。」
彼女がわざわざ俺の為にツッコミどころを開けておいてくれたので、勿論俺はスルーする。
何もおかしなところはない。これが正攻法です。
直接その言葉をもう一度聞いたわけではないけど、こんなにウザッたらしい冗談を言ってくる女を俺はコイツ以外に知らないので、悲しいことに、先ほど俺が聞いてしまった言葉は事実らしい。
いや、別に悲しい訳じゃあないんだけどさ。
「~~~♪♪」
無駄に綺麗な鼻歌を歌いながら一緒に歩くコイツを見ていると思うのだ。
ム ー ド は ど こ ?
別に、俺は「告白は夕焼けの屋上か近くの公園でやるべきだろうが!!」なんていうガッチガチのロマンチストじゃあないけれど。
流石にあんなにさらっと「好きです」と言われてしまうと、こちらとしても反応に困る。
せめて、恥じらいを持ってくれながら言ってくれればムードの作りようがあるというのに、残念ながらコイツにはその概念が存在しないらしい。
頭のわるいギャルのように、『ムード?何それ、フランス料理みた~い』的な感じに思っているのだろうか。流石にそれはそのギャルに失礼だな。
やはりコイツにはもう一度、一般常識というものを学習させてあげなければならないのか……?
「よし、決めた!!」
と思っていた時、前を歩いていた祥子がくるりとこちら側を向いて、俺に向き直った。
身体から遅れて舞うスカートに、思わず視線が移動してしまい、慌てて彼女の顔へ視線を上げる。
彼女はいつか見たアホ面で、俺の方を指さしながらまたしてもとんでもないことを言ってきた。
「私の人生をかけて、義明には私のことを好きになってもらうよ!!」
彼女の方は多分本気なんだろうけど、さっきの今で怒涛に繰り広げられる新展開に俺の方が全くついていけないので、俺の身体は場違いに固まってしまう。
というか、賭けるものが重すぎるだろ。さてはお前、アレだな?
「一生のお願い!」っていうセリフを割とどうでもいいところで使ってしまう奴だな?
「……もし、ならなかったら?
俺が他の女と付き合って結婚したら?」
少し意地悪な質問を吹っ掛けてみる。さて、どう出る?
冗談を貫くか、それともすみませんでしたと降参するか?
「そん時は潔く死ぬよ!」
……と思っていたのだけれど、彼女の覚悟はそんなもんじゃなかったらしい。
いや、死ぬなよ。
「こんなに軽い自殺宣言初めて聞いたなー」
「あれ、冗談だと思ってるでしょ?本気だよ?
密林で首つり用のロープいくつかチェックしてるからね?」
「それは冗談でもやめろ!!」
経験則的に、彼女の口ぶりは多分冗談だけど、流石に冗談の範囲を超えすぎだ。
というか、今の情緒不安定なお前だと本気で考えかねないから困る。
流石に目の前で女の子が死ぬとかそんな野球バラエティゲームみたいな展開は望んでいないからやめてくれ。
え、野球バラエティってなんだよ……。
こうして何故か、俺のことを好きになってくれた女の子に、『私、死ぬよ?』と脅される謎の一日がスタートしてしまった。
「やっほー、ゴメンね、一昨日はみんなに迷惑かけちゃって」
みんなももう慣れたのだろう、俺たち二人がほぼ同時に登校するこの光景にも特に動じずに、それぞれHRまでの時間を過ごす。
俺たちの席の目の前で、いつものように祥子の友達が喋っているのも,もう当たり前の景色になっていた。
友達の輪の中に入る祥子を後ろで見ながら、席に座って荷物を机の中に入れ込む。
「お!噂をすればご本人じゃないかぃ!おはよう、祥子ちゃん……って何その目の下の腫れ!?
めっちゃ腫れてるじゃん!どうしたの!?」
早速その涙の跡に気づいて、友人たちが心配そうに祥子を見つめてくる。
果たして彼女は、どういう風に誤魔化すのだろうか。
全部説明すると、俺が好きってとこまでバラさなきゃいけないから、多分どっかを改変すると思うんだけど……。
コイツの事だ、何をしでかすか分からんからな。
準備はしておくに越したことはない。
俺は、いつでも祥子を廊下へと連れ出せる準備をしながら、彼女たちの会話に耳を傾ける。
「ああ、これ?昨日、ちょっと酷く泣かされちゃってさー。」
「泣かされた!?え、誰に!?」
なんてことのない口調で、ありのままの真実を祥子が話し始めた。
ん?もう既に雲行きが怪しいぞ?
どいうか、え、これ普通にバラしちゃうよな?
と心配する俺を尻目に、俺の親友は、やっぱり期待を裏切らなかった。
「そりゃあ、勿論義明にだよ~~」
何故か俺に泣かされたことをノリノリで語る彼女の後姿に、俺は頭痛が痛くなった。
まだだ、まだ、我慢するんだ……っ!!
今日は平穏に過ごしたいと思っていたことを思い出せ、俺!!!
出掛かった右足を右手でパッと抑え、彼女の言葉の続きを待つ。
「「え!?」」
彼女たちが声を揃えて驚愕の声を上げる。
危なかったな、あやうく俺の声もその輪の中に入りかけるとこだったわ。
当然、彼女たちは、目の前の祥子に同情の視線を向けながら、時折こちらに対して鋭い視線を送りつけてくる。
俺からすればどう見てもその視線は逆であるべきだと思うんだけどなぁ……。理不尽だ。
「ちょ、ちょっと、その話題、彼が真後ろにいるところでして大丈夫なの?」
冷静になった友人のうちの一人が、彼女に聞いてくる。
ん?全然大丈夫じゃないけど?、という抗議の視線を、祥子の背中に送り付けてやるが、そんな事を気にせずに、彼女は続ける。
「う~ん、多分大丈夫じゃあないと思うけど……。」
流石は昔からの親友だ、こんな簡単なことは流石に分かっているらしい。
え?
え?
じゃなんでー喋ったん?それ。
困惑している俺の耳に、優しい祥子の声音が聞こえてきた。
「でも、約束してくれたから。
ずっと、私の味方でいてくれるって。
だから、きっと大丈夫だよ!」
後ろ姿しか見えないが、今頃祥子は、今朝俺に見せてくれたような眩しい笑みをみんなに浮かべているに違いない。
だからこそ、俺も余計に思ってしまうのだ。
俺たちの約束、そんな無駄なところに使うのやめてくれません?
23時に書き始めたらこんなに分量少なくなるにきまってんだよなぁ……。
ちなみに、野球バラエティのくだりは「パワポケ10 さら」らへんで検索すれば出てくると思います。
え?「パワポケ メロンパン」で検索する方がヤバい?ハハァ……。
明日は、豪華2本立てを目標に頑張ります!!
それでは、今回も、ありがとうございました!!




