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親友が女になっちゃったので全力で愛でたいですが。  作者: 落単 竜念
一度噛み合わなくなった歯車を戻すのは、もはや不可能に近い。
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『君』がいたこと

自分のためには必死になれないのに、


友人のためには必死になれるなんて。


なんて滑稽で、なんて阿呆で。


――そして、なんて格好いいことだろう。

自宅に戻ると、母親も俺を待っていたようだった。


祥吾の母親から、事情は既に聞いているらしい。


俺は努めて簡潔に、事の顛末を話した。


こんな無茶ぶりをしたのだ、『人の事に首を突っ込みすぎでしょ!!』と、怒られるだろうか。


あるいは、もっと酷いことを言われるだろうか。



とった行動は、そのどれでもなかった。



母親は、そっと俺に近づくと、俺を抱きしめてこう言った。


「よく、よく頑張ったね」


そう呟いた声は、少し震えているようにも聞こえた。


俺より小さいはずの身体が、こんなに強く感じたのは、多分生まれて初めてだったかもしれない。


身体に感じる柔らかな暖かさが、硬くしたはずの心を溶かしにかかる。


やめて、やめてくれよ、お母さん。


まだ、何も解決はしていないのに。


自分は頑張った、恐怖に負けなかったって思ったら。


俺まで、泣きたくなるじゃないか――


自分の部屋に戻り、着替えも忘れて布団に潜り込んで、一人考え込む。



アイツの方が苦しんでいることは分かっているけど。


それでも、既に崩れかけていた自分の心を、今だけは慰めてあげたかった。



ゴメンな、祥吾。


明日からは、強い俺にまた戻ってやるから。


今だけは、あの約束を破らせてくれ。


今だけは、泣かせてくれ――


「うっ……ひぐっ……。」


みっともないうめき声を出しながら、俺は思いっきり泣いた。


こんな年にもなって、絶えず垂れてくる鼻水なんかも気にせずにこんなに涙を流したのは初めてかもしれない。


そもそもなぜ俺は泣いているんだろう。


その理由すら、上手く説明できなかった。


この涙は、果たして俺のための涙か、それとも祥吾のために流した涙だったのか。


今でも、よく分からない。


けれど、こんな年になったから、分かったことだってある。



涙って、こんなにも暖かいものなんだな。



鞄から財布を取り出し、もう一度、二人で撮ったあのプリクラを見直す。


何も考えていないような二人の馬鹿が、色褪せることなく綺麗に写っている。


「……。ははっ」


こんな状況だというのに、笑わせてきやがって。


だから、俺は強くまた思うのだ。


どうしても、絶対に、何があっても「祥吾」を諦めたくはないのだと。


諦めてはいけないんだと。



翌日の朝になった。


いつもの目覚まし時計のアラームを止めて起き上がり、俺は部屋のカーテンを開ける。


7時に起きるのが、前はあんなに苦痛だったというのに、慣れてしまった今なら何とか親を頼らずとも自力で起き上がることが出来るまでになっていやがった。


『慣れ』というものが、こんな風に嬉しい変化をもたらすことだってあれば。


勿論その逆だってありうる。


差し込んでくる強い日差しが、気だるい身体を必死に起こそうとしてくる中、俺はじっと祥吾の部屋を見つめていた。


今頃、彼は一人で何と戦っているのだろうか。


昔のアルバムでも見て、自分という存在を思い出しているのだろうか。


記録には残っていても、記憶には残らない。


「今」を生きているはずの自分が、「過去の人」という扱いを受けてしまうなんて。


それがどんなに怖いことなのか、当事者である俺には分からないけれど。


せめて、そのアルバムに、俺と祥吾が一緒に撮った写真が残ってくれてたらいいな――なんて思いながら、俺は自分の部屋を出た。



教室に入る前に、職員室へ行き、祥子が欠席であることの連絡をしようとしたが、どうやら既に欠席の連絡が届いていたらしい。


しかも、欠席が長引くかもしれないということまで丁寧に。


もしアイツが学校に来なくなったら?


最悪な想像が頭をよぎる。


違う、そうさせないのが俺の役割じゃないか。


失礼しました、の一声すら忘れて、俺は職員室を出た。


祥子が居ようがいまいが、学校での一日は始まっていく。


普段の俺は、授業は寝ずにきちんと受けているつもりの自称優等生だ。


何故なら、寝たら後ろの奴から激痛のツボを押されて起こされる羽目になるから。


アイツ北斗神拳の使い手かよってくらいには、的確にツボを押されるのだ。



だけど、流石に今日だけは許してくれ、先生よ。


と、心ばかりの謝罪をしながら、全然板書をとっていない数学用のノートを3枚めくって、アイツに向ける言葉を再び考え出した。


書いては消して、書いては消して、また書いては消して。


アイツの心に響くような言葉を、必死に探す。



けれど、俺だって追い詰められていた。


だって、俺がアイツを救えなければ、誰もアイツを救うことが出来ないのだから。


「祥吾」は、消えてしまうかもしれないのだから。


そんな閉塞感の中で、完璧な回答が出てくるわけもないことにすら、俺は気づいていなかった。



分からない。


あんなに大見得を切ったのにも関わらず、しっくりくるような言葉の一切が出てこない。


なんとかしなくては、という焦りだけが脳内を激しく駆け回り、その思考に体がついてこなかった。



結局、何も書けないまま、午前中の授業が終わり、昼休みに入る。


俺たちの学校には、学食は存在しない。


もちろん、購買でパンを買うやつもいるが、大多数はお弁当をもってきて食べるのが、この学校の原則だ。


だけど、今日は。


俺の後ろで弁当を食べるヤツは、いない。


でも、いつもと違うのはそれだけだ。


授業だって進んでるし、男子陣はまーた祥子を含めた女性陣の話で盛り上がってるし、女子はいくつかのグループかに別れて仲良し同士でお弁当をつついている。


だから、この弁当が少し味気なく感じてしまうのも、脳の錯覚に決まっている。


そう思いながら弁当を食べていると、急に、祥吾の女友達たちが、こちらに移動してきたかと思うと、俺に話しかけてきた。


「潮くん、今時間ある?」


「ああ、大丈夫だ。弁当をくいながらでもいいか?」


「うん。私たちが、謝りたいだけだから。


本当にゴメンなさい!」


スカートがめくれないようにゆっくりと、それでいて誠意が伝わってくるほどに、頭を下げられる。


え?この子たちが何かやっちゃったのか?


「すまん、特に謝られる何も心当たりが何もないんだが……。」


「昨日、祥子ちゃんが体調を崩しちゃう直前にね、私達、祥子ちゃんに潮くんのことで煽っちゃったんだ。


『二人、早く付き合っちゃいなさいよ~~』、みたいな感じでね」


「だから、もし、それが原因で祥子ちゃんが体調を崩したんだったら、勝手に煽るようなことをして申し訳なかったな、と思って。」


もしも、なんて彼女らは言っているが、彼女らが言っているそのタイミングで祥吾が体調を崩した、なんてことになったら、向こうの視点で言えば間違いなく自分たちのせいだと思ってしまうに違いない。


「……違うよ。それは原因じゃない。アイツはただの風邪だよ。直ぐに治ると思う。」


もっと深刻なものだけどな。


でも、俺が治してみせるさ。


「それに、その件は俺もずっと考えていることなんだ。いつかきっと答えを出すから、待っててほしい。


祥子にも、そう伝えておいてくれ」


彼女たちには目もくれず、静かに弁当を食べ続ける。



「ダメだよ」


その一言で、手が止まる。


俺は初めて彼女たちの目を見た。


「それは、本人に言うことであって、私たちに言うべきことじゃないでしょ?」


確かにな。まったくもってその通りだ。


「……。そうだったな。」


そうだな。今度伝えてやろう。


「よし、要件は終わり!んじゃ、またね~~」


さらーっと、彼女たちが元の場所に戻っていく。


なんだよ、アイツ。


いつの間に、あんなにいい友達を持ちやがって。


戻っていく彼女たちを見ながら、俺は思う。



今の会話を通して、分かったことが二つある。


一つは、祥吾の人を見る目は本物だ、ということ。



もう一つは、今までの「祥吾」も、仮初めの「祥子」も、どちらもきっと本物だ、ということ。



きっと、これがヒントだ。


俺は、この直感を信じて、再びノートに言葉を紡ぎ始めた。




授業が終わり、放課後になった。


祥吾の家の前まで来た俺は、一度両頬を叩いて気合を入れてから、呼び鈴を鳴らす。


祥吾の母親に一声かけた後に2階に上がらせてもらい、祥吾の部屋のドアをコンコンとノックする。


開けようとしたドアは、内側から鍵がかかっていて開けられなかった。


どうやら、祥吾は今も自室にこもって、鍵をかけて籠城しているらしい。


本当ならば、面と向かって話をしたかったけれど、まあ仕方がないか。


「祥吾?俺だ。いるのか?いないなら返事しろ?」


返答はない。どうやら部屋にはいてくれてるようだ。


落ち着け。喋るべき言葉は既に考え抜いたはずだろ。


一度深呼吸をして、今にも逃げ出したくなるほどの緊張をゆっくりと静める。



昔の記憶、というのは、強い衝撃を持つものほどよく覚えていたりする。


例えば、母親に怒られたときの記憶とか。


例えば、高校に受かった時の記憶とか。


例えば、いじめられていた時の記憶とか。


あるいは、――そこから助けてくれた日の記憶とか。


「なあ、昔話をしないか?」


その断片的な記憶をたどり寄せるように、俺はノートを開いて語り始めた。

12日投稿って言ったけど嘘で~すwwww


いや、ホントに、何故か書けちゃった案件なので、割とたまたまです。


こんな辺鄙(へんぴ)な小説でも、読んでくださっている方がいるってやっぱり嬉しいなぁ……。


と思うところです。


調子に乗りすぎましたが、ペースを乱すことなくゆっくりと頑張ります。


次回は、何とか6/12に間に合わせたいと思います。


あと2,3話くらいで山を越えるはずなので、そっからあとはご自由にお砂糖を振りかけてお楽しみください。


【『ジャンル別日間1桁に載ったら友人に晒すって決めちゃったので評価&ブクマはしたりしなかったりしてください!!!!


感想はいつでも待ってます!!!』←テンプレにしました。


本当に感想はお待ちしております。よろしくお願いいたします。】←ここまでテンプレです。


それでは、今回も、ありがとうございました!!

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