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親友が女になっちゃったので全力で愛でたいですが。  作者: 落単 竜念
一度噛み合わなくなった歯車を戻すのは、もはや不可能に近い。
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『君』を探して

どんなものを失くしたって。


かけがえのないものを手に入れられるなら。


それはきっと、無駄じゃなかったんだと――



今なら、胸を張って言える気がするんだ。

体育の授業が終わり、ランニングを終えて疲れた体にムチを打って早足で教室に戻ると、既に祥子の姿はなかった。


まさか、誰かに誘拐されたのか!?


いや待て落ち着け。一刻を争う時こそ、思考はゆっくりと働かせるべきだ。


それなら祥子の鞄がないのはおかしい。カモフラージュの可能性も0ではないが、そうなると犯人はどう考えてもこの学校の人物のはずだ。


でなければ、そんなピンポイントに祥子のカバンだけを盗めるわけがない。


いや、違う。考えるべきはそこじゃないだろ!!


最後に祥子と出会った人……。


そうか、まずはクラスメイトの女子から話を聞くのが最優先だっろうが!!


再び教室からグラウンドに向かう道へ駆け出し、走りながら必死に考える。


そもそも、携帯でアイツに連絡を取ればいいだろ!


靴箱まできて、さあ外に出ようというところでそのことに気づいた瞬間、祥子がよく話をしているグループに運良く遭遇した。


まずはこっちから話を聞いて、その後で電話をするか。


それで通じなかったら、祥子のお母さんにも連絡をとろう。


これからの行動を一度脳内で確認してから、俺は女子たちに話しかける。


「おい!アイツ……じゃなくて、祥子の行方知らないか!?」


周囲に靴を履き替える大勢の人が居ることも厭わず、思わず大声で喋ってしまった。


俺の鋭い剣幕に気圧されたのか、授業から帰ってきたクラスメイトたちの喧騒が少し止んだが、そんなことは今はどうでもいい。


「え?祥子ちゃんがどうかしたの?」


「戻ってきたらカバン持ってどっか行きやがって!!アイツの行き先に何か心当たりないか?」


「行き先は私たちも分からないけど……。授業前に、突然悪くして保健室に行った――」


「それだけで十分だありがとう!」


「え、あ、ちょっ――」


最後まで話を聞かずに、俺は保健室へと駆け出した。


こりゃ明日は筋肉痛だな。


早く祥子に文句を言いに行かなくちゃな――!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「祥子ちゃん、大丈夫かなぁ?


にしても潮くんって、地味な子だと思ってたけど、祥子ちゃんのためにはあんなに必死になれるんだね」


「ねー。人の話を最後まで聞いてくれないところまでソックリだなんて。やっぱりあの二人、付き合ってるんじゃないのかな?


というか早く付き合えやぁ!!って感じだよね、もはや。」


「わかりみ。なんとしてもあの二人をくっつけよう作戦、ここに始動を宣言します!!」


「「「おー!!」」」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「先生!祥子ちゃんはいますか!?」


息を切らしながら、ドアを開けて保健室の先生に問いかける。


「ど、どうしたんですか急に?」


「授業終わったら祥子ちゃんがいなくて、祥子ちゃんの友達から保健室に来たって聞いたので」


手短に内容を告げる。ここまで脳が冴えているのは初めてかもしれない。


周りを見渡すが、今現在ベッドが使われている形跡はなさそうだ。


あれ、じゃあどこにいるんだよアイツはっ!!


「祥子ちゃんですか?彼女なら、さっきここで早退届を書いていたので、もう早退したと思いますよ」


「はぁ!?」



……目上の人を相手にしているというのに、思わず失礼な態度をとってしまった。


それも仕方のないことだろう。


20分もの時間を掛けた祥子の大捜索は、何ともあっけない結末を迎えてしまったのだから。


というか少し考えれば、普通なら誘拐じゃなくて早退が真っ先に頭の中に思い浮かぶはずだろう。


何をやってたんだ俺は……。


冷え始めた頭が、今さっきの俺の行動の粗さをチクチクと攻め立ててくる。


まず祥子と祥子の母さんに連絡しようってシミュレートしたじゃねえか……。


なーにやってだホンマ。



帰りのHRが終わり、一人で家までの道を帰る。


今日は隣にうるさいヤツがいないから、自分の考え事に集中できるから楽やな。


なんて思いながら、祥子の早退の理由をずっと考えていた。


自分の家に帰る前に、俺は隣の家の呼び鈴を押す。


応対してくれたのは、祥子ではなく、その母親だった。


「あぁ、義明君ね。いらっしゃい。どうぞ、上がっていって。


私も義明君に話したいことがあったから、丁度良かったわ」


努めて柔らかな雰囲気を出そうとしながら、祥子の母親が歓迎してくれる。


人様の前で失礼な態度をとるわけにもいかないから、当たり前のことなのだろうけどな。


それでも、あまりにも落ち着きすぎた口調や、時折聞こえてくるため息から、何か祥子に良くないことがあったのだと察するのは容易だった。


リビングまで案内された後、俺は単刀直入に聞いてみる。


「教えてください。祥子に何があったんですか?」


祥子の母さんは、顔に手を当てて、しばらく考え込んだあと、ゆっくりと答えた。


「……義明君は、祥吾のことをどれくらい覚えているかしら?」


え?どういうことだ?


「すみません、質問の意図が良く分からないんですが……」


「じゃあもっと細かく言うわ。祥吾の顔はどんな顔だったか覚えてる?」


真剣な表情で見つめられる。冗談を言っている風には見えない。


「え?そんなの――」


そんなの、


思い出せるに、


決まって―――



る、とは言えなかった。



ゾクリ、と悪寒が背中に走る。


「元々の体格は?声は?」


まくし立てるように詰め寄られる。


いやいや。


まさか、そんなはずはない。


「……おぼろげながら、覚えてます」


何かに対抗するように、少しだけ見栄を張って食い下がってみる。


「確かに、今はそうかもしれないわ。でも、明日はどう?明後日は?来週は?1か月後は?


……いつかそのおぼろげな記憶がさらに薄れて、いつしか思い出せなくなるとは思わない?」


「っっ……!」


言葉にならない空気の吹き溜まりが、無意識に零れ落ちる。


事実は時に人を傷つける、という言葉が、今の俺には痛烈に刺さった。


なんでだ?どうして俺は親友のことを何も覚えていないんだ?


「どうかしら?今の祥吾に、何か掛けてあげられる言葉はある?」


早退の理由は、いくつか考えてきたつもりだったけど。


それは所詮、『俺から見た』考えに過ぎないのだと、残酷に痛感させられている。


何か反論めいた言葉を探すけれど、その場しのぎで見つかるようなその言葉は、きっと今の祥吾には届かない。


俺自身がそれを分かってしまった以上、俺は口から単語を発することが出来なかった。


無力な自分が、これほど恨めしいと思ったことはない。


「……。」


無言の苦痛が、時間と共に俺を責めたてる。


二人の間には、それぞれの自責の念ばかりが浮かび上がっていた。



ごめんな、祥吾。こんなにみっともないのが親友で。


こぼれた本音は、あまりにも弱々しすぎた。


それでも俺は、涙がこぼれそうになるのをグッと堪える。


いや、違うだろ。


アイツと一緒に悲しんでやるだけなら、誰だってできるだろうが!


一番つらいのは俺じゃねえ、祥吾だ。


なのに、俺がここで折れてどうするんだ?


思い出せよ、俺!


前に約束したじゃないか。


絶対に祥吾の支えになるって。


祥吾に頼られるような、強い味方でいてやるって!!



決意を込めた瞳には、未だに涙が残っていた。



だけど、『今の』祥吾に出来る術を、俺は持ち合わせていない。



だから俺は、動く。


「今」じゃなくて、明日の、明後日の、そして「未来の」祥吾を救うために。


それが、今の俺が祥吾のためにできる、唯一のことだから。


こぼれかけた涙を、欠伸で強引に誤魔化して、俺は再び前を向いた。



その為には、まず情報を集めなければならない。


「学校は、これからどうするんですか?」


「とりあえず、本人が落ち着くまでは休ませるつもり。


こういうのは、時間が解決してくれることだってあると思うから。」


「行け、って言わないんですね。」


「当たり前じゃない。親が子どもの味方をしなくてどうするのよ?」


あくまで冷静にその辺は考えているらしい。


当たり前だ、年の功に勝てるものなど存在しない。


経験を積み重ねることでしか、説得力や言葉の重みを深めることは出来ないのだから。


俺は他人の親がどうとか知らないから、人の親が良い親か悪い親か、なんて客観的には判断できないけど。


それでも、祥吾の母親は良い親だな、と思った。


それにね、と続けて、その母親は言った。


「私は祥子ちゃんの親でもあるけど、それより前からずっと、祥吾の親だったんだから」


……普段はいっつもアホなのに、本当に大事な時は真面目なんだったな、親も子も。


本当に、よく似たものだ。


だったら仕方ない。俺だって腹をくくるしかないだろう。


「一つだけ、お願いがあります。


明日、もう一度この家に来ます。その時に、祥吾と二人だけで話をさせてくれませんか?」


「……それは、一日あればあの子をアナタがどうにかできるって言いたいのかしら?」


こちらを睨みつける程鋭い視線が、俺の顔を射貫く。


にらみ合いはもう慣れてるんだよ。


祥吾のおかげでな――!


「そういうことです」


怖気づかずに、祥吾の母親との睨み合いを続ける。


祥吾をお互いに大切に思ってるからこそ、対立してしまうのは仕方のないことなのかもしれない。


俺はまだ若くて、きっと幼いから。


だから、まだ信じたいんだ。


幼いころに抱いたサンタクロースの幻影のように。


俺なら、俺ならアイツをなんとかできるって!



それはわずかな時間だったのか、それとも長い時間だったのか。


やがて、急激に目をフッと細めて、こう言ってくれた。


「分かったわ。


あの子の一番の理解者である義明君が、そこまで本気で考え抜いて出した言葉なら、きっとあの子にも響くと思うから。」


「ありがとうございます!!!」


丁寧にお礼をしながら、心の中でガッツポーズを作る。


「祥吾……アンタ、人付き合いは下手な癖に、いい友達を持ったじゃない」


俺の目の前で、両手で顔を抑えてグッと激情を堪える大人の女性が、そこにはいた。



確かにな。


祥吾が復活したら俺に何度も土下座させてやろうか。


待ってろよ、祥吾。


明日、必ず、お前を救ってみせるからな。



――いつかのお前が、俺を救ってくれたように。

もう実質連投じゃんこれ……。自分に頑張ったで賞をあげたいですね。


次回の更新は、6/12を予定しています。


それでは、今回も、ありがとうございました!!

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