お隣さんと、俺の距離は
分からないものは、怖い。
だから遠ざけて安寧を祈るのか。
それとも、自ら近づいてその答えを求めようとするのか。
俺は――はたしてどっちなんだろう?
というか、今日はほとんど祥子のことを女扱いすることが出来なかった訳なんだけど。
「実際さ、俺がお前のことを普通に女の子として見たらどうなの?」
この1日を過ごしてみて、ずっと疑問に思っていた。
俺が女の子に慣れる練習をするなら、それこそ俺が実際にクラスメイトの女子と喋ってみてからのトライ&エラーでも良かったはずなのに。
というか今日の俺たちのやり取りを鑑みると、むしろそっちの方が練習には適していたはずだ。
それなのに、相手役としてわざわざ自分を選んだっていうのは、ちょっと変ではないか?
まるで自分のことも女の子扱いしてほしいと思っているような気がする――のは、流石に考えすぎだろうか。
「うーん、まあ、若干気持ち悪いって感情もあるけど、嬉しいって感情もあって。矛盾してるんだけどね。
なんて言えばいいのかな?自分でもよくわかってないんだ、その辺。」
感情が矛盾しているってどういうことなんどろう? イマイチピンとこない。
「例えば、例えばの話だけどさ。
今もし義明が私に告白してきたらーー多分断れない気がする。
例えばの話だよ?」
「なんじゃそりゃ。受け入れる、じゃなくて断れない、ってえらい後ろ向きやな。
というか何回例えばって言っとんねん。
例えば、なんて言わなくともお前に告白することなんて一生ーー」
ねえだろ、と言いかけたところで止まる。
俺の脳裏には、春休みに見せてくれた祥子のあの笑顔が蘇っていた。
俺が初めて祥子と出会った日の、その最後に見せてくれた凛々しくて、美しい笑顔。
『いつかきっと好きになるから』
――別にコイツに恋愛感情を持っているわけではないけど。
ここで断言してしまうのは、当時の彼女になんだか申し訳ない気がして、どうしても出来なかった。
「ん?一生、何?」
「一生、のうちにあるかどうか分かんねえだろ。一体いつの話だよ」
「さあねー。意外と近かったりするんじゃない?」
「え、本当にそう思っているのか?」
勝手に人が自分のことを好きになってくれると思っているなら、それはそれでなかなかの頭お花畑だぞ?
「だってさ、今までずーっと同性だったはずの親友がさ、突然異性になって、それでも未だに親友続けてくれて、こんなに親身に相談乗ってくれてるんだぜ?
自分のいいところも悪いところも、すべて知ってくれてて、その上で自分を信頼してくれるような異性って、恋人にするには完璧だと思わない?」
果たしてどうなんだろうか。
言われてみればその通りな気もするし、あるいはそう思うように誘導されているような気もする。
「そのうち多分落ちるでしょ。私が」
いやお前が落ちるんかーい。
「俺がお前を好きになるかは一旦置いておくとして……。まあ、人のことを全て知るなんてことは無理だろ。せいぜい半分知ってればいい方なんじゃないか?」
理解しようと歩み寄ることはできても、どんなに自分の弱音を人に曝け出したとしても、それにだって限界はある。
自分自身ですら、自分のことを100%理解できないのに、どうして他人に『自分』が分かるだろうか。
「そうかもね。
でもね、一番大事なのは、こうしてキチンと歩み寄り続けてくれることだと思うよ。」
フッと目を細めて、柔らかい声音で話す祥子。
以前にも見た、あの見透かすような目は、今度は何を見つめているのだろう。
「例え全てが分からなくたって、理解しようとし続けるその姿勢が大事だって思うのは、流石に綺麗ごとが過ぎるかな?」
困ったように笑いながら、俺に問いかけてきた。
「いいんじゃねえの、理想論くらい。
もっとも、その理想の男ってやつに俺を重ねてるんだとしたら評価が過ぎてると思うけどな」
俺はそんなに立派な奴じゃない。
先を行くお前を必死こいて追っかけ続けてきただけだ。
「もし俺がそんな理想の男に見えるんだったら、それはお前が立派に生きてきた証拠だろ。
なんだからしくないな、自信持てよ」
顔を俯かせて元気のない祥子を励ましてやろうと、背中をポンッ、と叩いたところで、祥子の身体が俺の想像以上に華奢なものになっていたことに改めて気づかされる。
あの時俺が発した「守る」という言葉の意味が、また一つ増えた気がした。
「あれ、なんか反応してくれないとこっちも動けないんだが?」
自分でも恥ずかしい行動をとったことは分かっているけど……。
あんな会話をしたさっきの今だ。
まさか、祥子が俺に本当に恋をしてしまったのでは――
「ああ、すまん。AVの一番えっちなシーンはどこか夢中で考えてたわ」
は?
「非童貞の奴らは『フェラのところが一番えっちだ……。思い出して抜けるから』なんていうけどさ、いや、それだったら本番思い出した方がエロくない?って思ってさー」
「うん、一旦ストップ。落ち着け」
「はい、止まります、落ち着きました」
なんとか話の主導権を握る。
なんでお前相手だと会話のキャッチボールすらままなくなるの?
「今さっきまで君割と真面目な話してたよな?なんで突然通常モードに戻ってんの?」
俺一人だけすんごいこっ恥ずかしい思いさせられたんだけど!?
「え、何か感じなかったの俺の行動に?こう、ジーンときた、とか、ドキッとした、とかさぁ!」
「いや、全然。」
ものすごい真顔で即答されてしまった。
「というか今のセリフ、『もしかして俺のこと好きなの?』って勘違いしちゃう男と一緒じゃんウケるぅぅぅぅwwww」
「ウケるぅぅぅぅじゃねええ!!ああでも言われると確かにそんな感じがするからやめろぉぉ!!
つーか俺の話どこまで聞いてたお前!?」
「一生のうちに~~くらいまで?」
「あれ、じゃあ俺は最後らへん誰と喋ってたんだろうなぁ?」
「?」
小首をかしげられる。そのポーズはまるで小動物のように愛くるしさが増すのでもっとやれ。
「『?』じゃねえよお前だろうがっ!!!」
首傾げてんじゃねえぞかわいいからってなんでも許されると思うなよ!?
まあ許すんですけどね。
リビングで夕飯を食べ終えて、自分の部屋に戻ってきた。
ベッドに横になり、さっきの二人の会話についてもう一度考えてみる。
祥子は、もし俺が告白してきたら断れないって言ってたけど。
もし、向こうから告白してきたら俺はどうするんだろう?
受け入れるんだろうか、それとも断るんだろうか、あるいはその答えから逃げるんだろうか。
そもそも彼女の魅力って何だろう?
誰にでも話しかけられるような明朗なところ、群を抜いて可愛いところ、表情がコロコロ変わるから一緒にいると楽しいところ、俺と考え方が似通っているところ……。
他にも色々思い浮かんでくる。あれ、これ幼馴染じゃなかったら落ちててもおかしくねーな。
じゃあ俺は祥子が好きなのか? うーん……。それとも違う気がする。
あるいは、祥子がもしも他の男と付き合ったとして、はたして純粋に俺はそれを祝福できるんだろうか。
祥子の幸せそうな満面の笑みは、俺ではなくその隣の男に向けられているというのに、俺はどんな顔をしながらその二人を見ているんだろう。
それは喜びや安心といった、ポジティブな感情なんだろうか。
それとも、妬みや憎しみのようなネガティブな感情なんだろうか。
俺以外のことも含めて、恋愛沙汰なんて全くと言っていい程興味のなかった俺だから、こんな感情の問題なんてどう対処すればいいのかこれっぽっちも分かりやしない。
分からない。今俺が彼女に持っている感情は果たして何なんだ?
嫌いでは断じてないけれど。
好き、とかそういうのではないはず。
上手く説明できないような、もやっとした感情。
その感情の答えを、俺はまだ持ち合わせていない。
毎日更新難しいぃぃぃぃ!!!
プロの方から「毎日書くことを意識して習慣化しろ」という教えをいただいたので、どうにかそれができるようになろうと頑張っている所存でございます。
次回の更新は6/9を予定しています。
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